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〜真相 会議室に揺蕩う真実と謎〜

◾️

 巨大な円卓が鎮座する大理石に覆われた部屋に、数名の男女が椅子を並べ、向かい合う。


 ここは魔王城アーカムの会議室。


 最も秘匿性の高いこの部屋は、様々な魔法と科学の粋によって作られた場所であり、シェルターとしての側面も持ち合わせている。


 この場を指揮するはこの城の主、魔王シェブニグラス=インフェルド。

 無貌のマスクに厳しい黒と金の装飾を施されたアーマーローブを纏ったその姿は、王たる威厳と風格をそのまま表していた。


 そして、この場に集いし者達は魔王の配下の中でも魔王が特に優秀であるとして選出した幹部達。


 その面々は以下の通りである。


 赤鬼の紅麗尉

 アークスライムのゾゾ

 エルダードワーフのフェル

 黒鬼の嶽閻

 ダークエルフのルーネ

 魔貴族のベルフェルト

 そして、同じくグラミアである


 彼らは今、ただならぬ緊張感の中にいた。


 その原因は全てグラミアにあった。


 いつも露出度の高い服装や蠱惑的な仕草で魔王の歓心を買うことに執心だった彼女だったが…その趣向や態度にはかなりの違いが見られたら。


 まず、第一にメイクだ。

 以前までのガールクラッシュなメイクから、今は地雷系のガーリーメイクへと代わり、妖艶な大人の雰囲気から影のある幼さが際立っていた。


 そして服装もまた、以前の挑発的な露出度の高いドレスではなく、ゴシックローブにガーターベルトという出立ちとなり、その変化は誰が見ても同一人物とは思えないものであった。

 

 だが、誰も彼女に対しその変化を言及することなく、一種のタブーのような空気感が広がっている。


 皆、主人である魔王から告げられる開幕の一言を、固唾を飲んで待ち続けていた。


 そして、その時が訪れる。魔王は徐ろに立ち上がった。


「それでは、幹部会を開始する。」


 魔王の一言に、幹部達は一斉にその場で起立し、深々と一礼した。


 魔王の着席を見届けた後、皆が席についたことを確認すると、魔王は幹部達の顔を確認するように視線を流していった。


「まず、この場を支配する疑念から払拭しておこうか…。グラミア!」


「はーい。」


 間延びした返事と共に、グラミアが立ち上がる。示し合わせたように、幹部の面々の視線がグラミアに集中した。


「当然、皆気づいているだろうが、彼女はグラミアではない。」


 魔王はそう告げた後、彼女は魔王からの視線を受け、仰々しくお辞儀した。


「リヴァイア=サンダ=リエ=オルフェリア…。あ〜…もうその名にも何の意味もないわね。リーヴァ…。ここに集まってる皆さんには、そう呼んで頂けるとリーヴァはとても嬉しいわ。」


 リヴァイアから砕けた自己紹介を受けるものの、誰もそれに対して応じる動きを見せなかった。それを見て、魔王が徐ろに口を開いた。


 「その反応は当然だな。皆が抱える疑問…それは何故リヴァイアがグラミアの姿をしているかという点であろう。だが、その実の半分は既に皆、答えが出ているであろうことから割愛する。」


 ユニークスキル 滅茶苦茶(ヘルタースケルター)でグラミアから肉体を奪った…。


 当然それは幹部達は理解していた。


「求める答えはその先…。何故、グラミアから力と身体を奪ったリヴァイアが、こうして堂々と魔王の幹部として同じ席についているか…。それを説明する為にはまず、オルフェリア法国の内乱における私の真意を話しておく必要がある。」


 皆の視線がリヴァイアから魔王へと移る。そして、魔王の口から衝撃の発言が飛び出した。


「私は前回の作戦において…、グラミアを処刑することを目的としていたのだ。」


「なっ!」


「なんじゃと!!」


「アリャリャ…」


 その言葉に、皆口々に驚嘆の声を上げる。それに対して、顔色を変えず無言を貫いていたのはベルフェルトとルーネだけであった。


「あ、恐れながら…陛下!先だってのグラミアさんの不始末は陛下の御慈悲によって不問となさったはず!何故今になって…!!」


 紅麗尉の進言に対し、魔王はしばし間を置き、憂いたような溜息をついた。


「紅麗尉よ…。貴公のグラミアに対する信頼と友愛に応えることが出来なかった事をまずは詫びよう。」


 その言葉の意味が紅麗尉には分からず、ますます混乱を極めた。

 だが、魔王は構わずルーネに視線を向けた。


「ルーネ…あれを…。」


「畏まりました。それでは失礼して…。」


 ルーネはそう言うと、円卓の中心に向けて魔法を行使する。すると、テーブルの上に映像が浮かび上がった。それを見てフェルは感嘆の声を上げる。


「ほぅー!こりゃあ…テレビジョンってやつみたいじゃのぅ?いや、スクリーンモニターか?どの角度から見ても、鑑賞者から正位置に見えるあたりがまたすごいのぅ!」


 フェルは椅子を離れ、ルーネの映像魔法に浮かれていた。


 そんな中、映像に浮かび上がったものを見て、皆は凍りついた。


「う…うそ…⁈」


 紅麗尉は目を戦慄かせ、思わず口元を覆った。


 そこに映っていたのは、狂気的な実験によって生み出された生物の成れの果てだった。


 無理矢理に魔人化(キメラ)され、魔物としても成り立たない異形の化け物達…。

 それらはミイラ化した男の腹を突き破り、床で奇声をあげながらのたうち回った挙句に殆どが絶命し、そのまま残骸は放置されていた。


 映像だけにも関わらず、その場の瘴気と臭いを想像して吐き気すらも感じさせた。


「これはバーラル郊外にて、固有結界によって作られた秘密の地下室での映像だ。グラミアが不在時を狙い、ルーネに撮影を依頼したものである。」


 その映像の中に、嶽閻の顔から血の気を抜くようなものが映り込んでいた…。


「こ、これは…まさか…同胞達では…⁈」


 その一言は激震となってその場を駆け巡った。


 見れば、その魔人化(キメラ)の中には蜥蜴人(リザードマン)や鳥翼人(ハーピー)、はたまた鬼人族(オニ)までもが素体となっているものが見受けられたのだ。


 その内の何人かに、嶽閻は見覚えがあった。


「この者達…先頃行方不明として捜索依頼が出されていた者達に御座います。ま…まさか…!?」


 嶽閻が失った言葉を補うように、魔王が冷酷な一言を発した。


「その通りだ…。彼らはグラミアによって拉致され、こうして配合実験に用いられていた。」


 その言葉に、嶽閻は怒りで肩を震わせた。そうして増幅される魔力によって筋肉が膨張し、衣服をはち切れんほどに押し上げる。


「彼らが行方不明となったのは一カ月ほど前のこと…。あの女…!殿下より危険性のある実験を全て破棄せよと命じられたにも関わらず!舌の根も乾かぬうちにこのような所業に手を染めていたと言うのか!!」


「…うそ…。」


 嶽閻の怒りに、皆が遺憾の意を示す中、紅麗尉だけは未だに信じられないのか目を戦慄かせ、譫言のように呟いた…。


 その一言を受け、魔王は紅麗尉に冷徹な視線を向けた。


「紅麗尉よ。貴公が調査し、処分した研究施設に、この施設は含まれていたのか?」


「…いえ…。存じ上げませんでした。」


 紅麗尉の一言を受け、魔王は背もたれに身体を深く預けた。


「つまりは、そういうことだ。涙を流し、情に訴え、反省を口にし、愛を語ろうとも…。奴は私の為という御題目さえ掲げれば、何をしようとも忠誠を尽くしていると考え、赦されると本気で思っていたのだ。」


 そう告げた後、魔王は酷く深い溜息をついた。


「正直に言おう。貴公がグラミアを庇い、真の忠誠を説き、二人の間に友愛が生まれたと感じたあの日…。私は今度こそグラミアを心から信じることにしたのだ。だが…。」


 魔王から憤怒とともに黒きオーラが立ち上り、幹部達の背に冷や汗を浮かべさせた。


「結果はこの通りだ…。三度だ…。グラミアは三度もこの私を謀り、紅麗尉の気持ちを踏み躙り、我が配下にまでその毒牙を剥いた。もはや釈明の余地なく、粛正として処罰した私に意を唱えるものがいるならば即刻名乗り出るがいい!!」


 部屋の中を重苦しい沈黙が流れる中、誰一人として意を唱えるものは居なかった。


 ただベルフェルトは苦虫を噛み潰したよう顔を歪めた。小さく、魔王の耳に届かぬほど小さな声でグラミアに対して悪態をついた。


 幹部達の顔に一通り視線を流すと、魔王は再び嶽閻に視線を合わせた。


「嶽閻よ…。貴殿の抱いた怒りと同様に、私の心もまた抜き身の冷たき刃となり、粛清は形となって振り下ろされた。それで攫われた家族が納得するとは思えないが、せめてもの償いとして、見舞いと補償をしてやって欲しい。」


 魔王が頭を下げるのを見て、嶽閻は怒りを解き、起立すると深々と頭を下げた。


「民に対する殿下の慈悲深き御心に感謝致します。今回のことは亜人地域を統括する私の不徳の致すところでも御座います故、殿下…どうか頭を上げて下さいませ。」


 湧き上がる怒りを押し込め、嶽閻の礼を失さぬ態度に、魔王は首を横に振った。


「嶽閻よ…私はそこまで慈悲深い王ではない。事実、民の怒りと悲しみを癒す為ならば、グラミアを大々的に糾弾した挙句、公開処刑の末に晒し首にするのが定石…。だが私は打算を優先し、その役目をリヴァイアを任せることにしたのだからな。」


 その言葉に、フェルは鋭い目をして口を開いた。


「姐御の持つアルカナスキル【女帝】の奪取…。ひいては嬢ちゃんの滅茶苦茶(ヘルタースケルター)の性能テストとして使った…ということじゃな…。」


 フェルの言葉に、幹部達はようやく今回の作戦の全貌を理解することとなった。


 グラミア処刑とリヴァイアのスキル実験を兼ねた今回の顛末。それに対し、これまで口を閉ざしたままだったベルフェルトがようやく重い口を開いた。


「何点か…確認させていただきたい事柄があるのですが…よろしいでしょうか?」


 その言葉に、魔王は頷いた。


「良い。申してみるがいい。」


「では…。まず、先日の会議の際にルーネ様が連れて来られた真祖様に似たリヴァイア…。あれはなんだったのでしょうか?ここにいる彼女と同一の存在とは思えませんが…。」


 その問いを受け、ルーネが静かに挙手した。


「それにはわたくしがお答えしましょう。あれはリーヴァの記憶だけを真祖様のレプリカントに移植した偽物に御座います。」


 それを聞いて、場に動揺が生まれる。ルーネはそれに構わず説明を続ける。


「グラミアにとってリーヴァの処刑は任務の一つ。今回の作戦の中で、リーヴァの死を偽装する為にはデコイを用意する必要がありましたので…。」


 それを聞いてベルフェルトは小さく頷いた。


「なるほど…。細かい疑問はありますが、瑣末な事なので良しとしましょう。では次に…リヴァイア…貴女はどうやってグラミアを始末することが出来たのですか?」


 その言葉に、一同ははっとし、ルーネも眉を顰めた。

 その反応に、ベルフェルトは猜疑心を露わにし始めた。


「グラミアは戦闘向きではないにしてレベル69のキングレギオン…。貴女がいくら策を弄しようとも、ステータスによる圧倒的な格差は埋められない。そんなグラミアを誰が戦闘不能にまで追い込んだと言うのですか?」


「それは…。」


「シェゾが始末した。」


 こめかみに汗を浮かべるリヴァイアの背後から静かに浮かび上がる一つの影があった。


 それはアイスブルーの髪に黒いマスクの男を形取り、リヴァイアの側に現れた。


 シェゾの姿を見てベルフェルトは怪訝そうに目を細めながらも、《大鑑定》により得られた結果を見て、緊張を解いた。


「レベル71…。なるほど…貴方のこのレベルならば、疑いようはない事でしょう。とりあえず覆す材料がない以上、水掛け論は時間の無駄…。ここはそれが真実として引き下がるとしましょう。」


 そう言うとベルフェルトはあっさりと身を引き、椅子に深く座り直した。


 魔王は両者を一瞥すると小さく咳払いをする。


「以上が今回の顛末である。此度は私の独断による秘密裏の作戦であった為、事前共有出来なかったことは詫びよう。だが、何故そうしなかったかは各々理解して頂けたかと思う。紅麗尉よ…。特に君には…だ…。」


 魔王の言葉に、紅麗尉は目元の涙を拭った。


「陛下…。心得ております。もし…今回の作戦を先に話されていたら…私自身が陛下の障害になっていたことぐらいは…。」


 そう言うと紅麗尉は深々と頭を下げた。


「お心遣い…真に痛み入ります。陛下…。」


 その感謝の言葉に対し、魔王は素直に頷くことが出来なかった。


 魔王は今、鳴り止まない悪鬼慧眼(ディバンク)の坩堝に晒されていたからだ。


 今この場に、本当の言葉は全くなかった。

 だが、悪意ある嘘かと言えばそれも違う。


 自分の心を納得させる為に心にもない言葉を見繕う。それもまた一つの嘘なのだから…。


 そして魔王もまたこの場に共有出来ない事を隠していることもまた一つの事実であった。


 それは、リヴァイアの凱旋の時。晩餐会が始まる前に遡る。



ーーー



 ルーネの転移門(アストラルゲート)により、誰もいない謁見の間に降り立つと、魔王はそのまま玉座に腰を下ろした。


 そしてルーネはそのまま玉座の側に控え、跪礼する。


「聞きたいことがある。この度の作戦…余りにも都合が良いことが多すぎる。グラミアはああ見えて抜け目がなく細心なところがある。そんなグラミアがここまで想定通りに手の内で踊り、果てた…。これをリヴァイアとシェゾだけで出来たとは到底思えない。」


 魔王はルーネと視線を交わさない。

 ルーネもまた、顔を上げようとしなかった。


 暫しの沈黙の後、魔王はそれを自分から破った。


「あの作戦に、私の知らない何者かが関与し、手引きしていたな?答えよ。ルーネ。」


 魔王の確信めいた言葉に、ルーネは観念したように口を開いた。


「さすがはシェブニグラス様…。御慧眼の通りに御座います。」


 それを受け、魔王はもう一つ揺さぶりをかけた。


「それは、突如として現れたこいつのことか?」


 魔王は空中に指でⅤをなぞるように描いた。それを見て、ルーネは頷いた。


「なるほど…そちらは既に確認されておいででしたか…。」


「確認したのはつい先ほどだがな…。だが、おかしなこともあることだ。私はコイツを見たこともなければ話したこともない。だと言うのに、魔王勢力の一員とは…一体どういうことなのか…。答えよ。」


 魔王の威圧的な問いに対し、ルーネは涼しい顔で思案した。


「シェブニグラス様のみ確認出来るソレがどういう仕組みで動いているのか…。それは想像の域を出ませんが、おそらく真祖様との同盟関係と似た作用が働いていると思われます。」


 その言葉に、魔王は顎に手を置き、思案した。


(エルマは私に従属したわけではない。それはルーネも同じこと…。つまり…名も知らぬ此奴は忠誠を誓う仲間ではないが魔王勢力に与するものとして判定された…ということか…?)


「いや…やはり腑に落ちないな。むしろ、此奴がエルヴェシオンに与するものだからこそ、ルーネ…貴公と同様の処置が取られていると考えた方が辻褄が合う。違うか?」


 ルーネは微笑みながら首を横に振る。


「申し訳ございませんが、わたくしは未来予知(ファーサイト)の導くがままに必要な行動をしているに過ぎません。彼もまた、この度の作戦に必要であったからこそ、働きかけを行ったまでのこと…。ただ…。」


「…ただ?」


 言葉を詰まらせたルーネに対し、追い打ちをかけるように魔王は答えを急がせた。


「リーヴァはエルヴェシオンの一員として正式に招き入れております。彼女がもし、彼と繋がりがあったとしたならば…。」


 その言葉を聞き、魔王はようやく腹落ちし、肩の力を抜いた。


「なるほど…。そう考えれば辻褄は合うか…。結果だけ見れば我々にとって利する結果ではあるが…。」


 魔王はそこで言葉を区切った。


(危ういな…。これは派閥だ。魔王勢力という大きな枠組みの中に、私の管理権を離れたところで別勢力が存在しているということになる…。これはつまり…。)


 魔王はそこで思考を止め、大きく息を吐いた。


「最後に…これだけは答えよ。ルーネ…。其奴は貴様から見て、どれほどの存在だった?」


 ルーネは自身の記憶を辿りながら、言葉を見繕う。


「そうですね…。鑑定で確認出来る範囲では取るに足らないモブであることは確かです。しかし…どうにもその情報を間に受けるのは憚れるような…底の知れない印象を受けました。」


 魔王はルーネの言葉に眉を顰めた。


「どういうことだ?妨害(ジャミング)でもされたか?…いや、貴公ほどのものにそんな低俗な真似が通用する筈もないか…。」


「ええ…あくまでも直感です。しかしながら、ただのモブには出来ない立ち回りをしたことは事実。機会があれば、シェブニグラス様が直接、《超鑑定》を試みてみれば、その実も確かめられるかも知れませんね。」


 ルーネの言葉に対し、悪鬼慧眼(ディバンク)は沈黙を守ったままだった。つまり、これは真実ということになる。


 魔王は背もたれに深く背を預け、改めてアルカナレイドの進捗状態を確認する。


「そうだな…帝国の件が片付いた暁には…一度その機会を設ける必要があるかも知れんな。」


 そう言いながら、魔王は空中に浮かぶ文字を睨みつけていた。


 そこには、アルカナキャストNo.Ⅴ【法皇】が逆位置として刻まれていたのだった。



ーーー


(この話は幹部会に下さない。ルーネから得た情報は開示しないこと…。それがエルマとの約束だからだ。それはともかくとして…。)


 魔王はリヴァイアに視線を向ける。


 先ほど、誰の手引きを得たのかというベルフェルトの問いに対し、シェゾは明らかに嘘をついた。

 そして、リヴァイアにもその事実を隠そうとする動きがあった。


 本来であれば、追求する必要があるが、リヴァイアは正式にエルヴェシオンの所属であり、それはつまりルーネと同じく真祖エルマリークの使者という扱いになる。追及が過ぎればエルヴェシオンとの関係悪化を招く可能性があった。


(エルマと直接コンタクトを取る必要があるな…。どこまでが奴の指示なのかをはっきりさせなければ、私の治政に綻びを生むことになる…。)


 魔王は例の男の件は胸に仕舞い込むこととし、改めてリヴァイアに《超鑑定》を行った。そしてスキルに目を通していた時、スキル項目が赤字で伏せられている物が見受けられた。


 それは、どちらもユニークスキルである媚眼秋波(テンプテーション)と慈母胎動(フェイタルミキサー)であった。


「リヴァイア…一つ聞くが…。」


「リーヴァとお呼びください。主様。」


 屈託のない笑みを浮かべるリヴァイアに対し、魔王はたじろぎながら咳払いを一つした。


「…ではリーヴァよ。貴公、グラミアのユニークスキルは使用出来るのか?」


 魔王の問いに対し、リヴァイアの表情に影が差した。


「…いえ、使用出来ないわ。スキルとしては存在してるのだけど、ロックが掛かっているみたいで発動をキャンセルされてしまうの。」


 それを聞いて、魔王は大きく頷いた。


「なるほど…。ユニークスキルは所有者の才能そのもの。それを奪ったとしても他者には使用出来ないということか…。」


「そう…みたい…。」


 悔しそうに口元を歪めるリヴァイアに対し、魔王は心の中で安堵の息をついた。


(これは朗報だな。リヴァイアにユニークスキルを集めていくことは非常にリスキーだと思っていたが、奪うだけで使えないというのは逆に都合がいい。増長による反逆のリスクが下がるからな…。特に媚眼秋波(テンプテーション)を使えないようになるのはありがたい。アレは自領に混乱を招く核にもなり得たのだ。それがなくなるということは願ったり叶ったりだ。)


 そこまで考えた時、魔王は理解した。


 初めは危険人物がグラミアからリヴァイアに入れ替わっただけのように感じていたが、危険因子だけをしっかり取り除いた上で、アルカナスキルの略奪実験は成功。作戦の過程で【法王】のアルカナキャストを陣営に加えることも出来た。収穫と呼ぶには十分すぎる成果である。


 ルーネが魔王に利する未来を選んで導いてくれていることは確か。ルーネに対し、いつも半信半疑で接していた魔王は心の中で詫びと感謝を口にした。


「リーヴァよ。力を使えぬことを恥じる必要はない。貴公の持つ力は誰にも変わりが務まらぬものだ。貴公には今後来るべき勇者達との戦いにおいて、要となってもらわなくてはならないからな。」


 魔王の言葉を聞き、リヴァイアには目を見開き、口元を大きく吊り上げた。


「そ…それは…つまり!アリアデルの命も…。」


「勿論だ。その後についても、貴公が好きにすることを許そう。だが、今後貴公が直接戦闘に参加することを禁じることとする。その理由が分からないわけではあるまいな?」


 異を唱えようと口を開きかけたリヴァイアだったが、先に釘を刺されたことで感情を押し込んで言葉を呑み込み、冷静にその答えを探した。


「それは…リーヴァが…弱いから…でしょうか?」


 自尊心を自ら傷つけながらも出したその結論に対し、魔王は首を横に振る。


「確かに貴公は戦闘向きとは言えないが、本質はそうではない。貴公の持つ力が魔王軍にとって貴重であり、失うリスクを最大限避ける必要があるからだ。」


 それを聞き、リヴァイアは目を輝かせながら顔を上げた。


「主様にとって…リーヴァは必要なのね?」


 その問いに対し、魔王はグラミアに似た寒気を覚えたが、そのまま頷いた。


「その通りだ。今後、リーヴァの滅茶苦茶(ヘルタースケルター)については敵味方問わず口外することを禁じる。勇者側に伝われば、真っ先に狙われる対象となることは言うまでもあるまい。リーヴァ、貴公が今後表に出る時は、奴らに引導を渡す時と心得よ。」


 それを聞き、リヴァイアは嬉々とした表情を浮かべると、深く頭を下げた。


「承知したわ。リーヴァが表に出ない代わりに、どうかシェゾをお使いくださいませ。シェゾはリーヴァが生み出した固定化された思念体。リーヴァがいる限り、決して死ぬことはないの。そうよね?シェゾ?」


「はっ。なんなりと御命令ください。シェブニグラス様…。」


 そう言って、シェゾは魔王に向けて跪礼した。それを受け、魔王は無感情に頷いた。


「よかろう。貴公には追って任務を言い渡す。それまでリーヴァとともに待機せよ。」


「かしこまりました。」


 そういうと、シェゾはリヴァイアの影に溶け込むように消えた。


 魔王はそれを一瞥すると、「さて…」といって話を区切った。


「それではリーヴァ。私に報告すべきことは以上か?」


 その問いに関して、リヴァイアは首を横に振った。


「いいえ。主様よりご命令を受けていた勇者の能力。そちらの報告がまだだわ。」


 その言葉に、幹部達の関心が一身に集まり、魔王は口元を吊り上げた。


「その言葉を待っていた。では、聞かせてもらおうか。」


「先ず断って置くけど、これはグラミアがその目で見て、感じた記憶から読み取ったものをリーヴァの言葉で伝えるからそのつもりで…。」


 そう言うと、リヴァイアはバーラルの中庭で起きた戦闘をなるべく詳細に語った。


 しかしながら、それらはその場に集う者達に新たな疑念と困惑を生んだに過ぎなかった。


「それって…。つまりどういうことでしょうか?」


 そう呟いた紅麗尉の言葉に一同はすぐに答えを返せなかった。


「現状、発動条件はかなり不確定なものと言わざるを得ないでしょう。ルネリオスでの発動と並べてみても、危機的状況がトリガーなのは確かだと思いますが…。」


 確証を持たない発言に及び腰なベルフェルトを見て、魔王は同感という意味で頷いた。


「あい分かった。光り輝く刀身が現れている時は発動出来、刀身がない時は使用出来ない。それが分かれば十分だ。ご苦労だったな。リーヴァよ。」


 リヴァイアは顔をパッと明るくして頭を下げた。


「もう一つ、【正義】のアルカナスキルは白日の元となった。魅了を無効化するのではなく、たちまち復帰したこと…。戦闘不能な負傷を即座に回復させたことから、十中八九、全ての状態異常、状態変化から正常に戻す能力だ。HPは減っていたようだから、人間の姿をした魔族…。そう捉えれば対策も立てようがあるというものであろう。」


 魔王の見解に対して、皆納得した顔で頷いた。


(なかなかに厄介なスキルだ…。致命傷に意味はない。確実にHPを削り切ることが求められるのだとしたら…。チャンスは一度か…。)


「リーヴァ。改めて労をねぎらおう。ご苦労だったな。」


 魔王の言葉に、リヴァイアは深々と頭を下げた。


「勿体ないお言葉…恐れ入ります。お役に立てましたことを光栄に思いますわ。」


 精一杯に飾った言葉を並べ、リヴァイアは席についた。


 それを見て、魔王は「さて…」と前置いた。


「ここまでがオルフェリア法国…いや、今は聖王国と名前を変えていたのだったかな?聖王国における顛末である。今後、予定通り約一年間、勇者達は復興に追われ、身動きが取れない状態となるだろう。その間に、我々はグランベルド帝国を攻略することとなる。」


 魔王の言葉に、場の空気が変わった。


「ベルフェルト。これまでの調査をまとめた資料を皆に…。」


「かしこまりました。」


 ベルフェルトは立ち上がり、仰々しくお辞儀をすると、皆の手元に分厚い資料の束が出現した。


 ざっと1000ページは超えている。それを見て皆は絶句し、魔王もまた茫然とした。


「べ、ベルフェルトよ…。もう少し要約した資料は作れなかったのか?」


「申し訳ございません。魔王陛下との旅路の全てに無駄なところなど全くなく…。」


(誰が思い出旅日記をつけろと?)


 妙なところで陶酔ぶりを発揮するベルフェルトに魔王は頭を抱えた。

 その様子を見てか知らずか、ベルフェルトはパチンッと指を鳴らした。


「ルーネ様。こちらのスクリーンモニター、使わせて頂いてもよろしいでしょうか?」


 ルーネはニコリと微笑みながら頷いた。


「ええ。どうぞ、ご自由に…。」


「それでは…失礼して…。」


 ベルフェルトが魔法を行使すると、スクリーンモニターに映像が浮かび上がる。そこには魔王と紅麗尉、ゾゾとフェルの姿があった。


「それでは、私の視点で恐縮ですが、帝国領内での調査を順に追って参りましょう。」


 突如始まった帝国潜入ドキュメントの上映会に、思いがけず大きな拍手が響き渡った。


「あ…いや…もう…私から要点を話そうと思うのだが…。」


 奇妙な盛り上がりの中、既に皆の関心は目の前の映像にあり、魔王は大きな溜息と共に頬杖をつき、目の前の映像に視線を向けるしかないのだった。



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