9 僕の未来は精霊達の救世主になるか、ヘンタイになるか、そうでなければ夭折するらしい
下ネタ回です。
R15の範疇です!
「そんなに直接的な言い方をしない方がいいよ。アルフィーに成人男性だった前世の記憶があるとはいえ、前世の記憶を思い出した人間はだいたいが朧気に思い出せるだけで、現世の人格を押し乗るようなものじゃない、と族長から聞いている。まだ六歳の少年に話すんだよ。言葉に気を付けなくちゃ」
額を人差し指でトントンと叩きながらシーナは、再び赤面したトニーに説教をした。
トニーを冷やかすように点滅していた精霊達の一部は申し訳なさそうに光を穏やかにした。
勃起不全くらいはそんな卑猥な言葉ではないと思うのだが、どうにも常識が違うのだろう。
「……そうですね。うーん、どう説明したものか……。大切な人を守るために体中の魔力を高速で循環させると体の中心近くで熱く滾る物があるのです……」
熱く滾る物、という言葉にトニーの周りを電飾のようにピカピカ光る精霊達が興奮気味に加速してグルグルと飛び回った。
トニーを慕っている精霊達はトニーの恥じらいや未成年への配慮なんて理解できないのだろう。
「もっと具体的に説明しないと、現状を変えられない、と一部の精霊達は言っている。柔らかい表現で、的確に頼むよ」
シーナの頬が心なしか赤くなっている。精霊の声が聞こえるシーナはトニーの状況がわかっているのだろう。
どんな条件が整えば精霊達がトニーに力を貸すのだろう?
「……危機的状況で味方に被害を出さず敵を殲滅する、と考えると脳裏に即座に最適な魔法陣を設計できるのですが……」
「ああ。魔法は魔法陣を思い描いただけでは発動しない。きちんと描きださないと安定しない」
シーナが僕に理解しやすいように補足した。
「私も体中のあちこちに魔法陣を仕込んであります。ですが、最終兵器と言われた魔法はその場で設計するので説明がつかない現象でした。思い描いただけで魔法が発動したのは、精霊達が手を貸してくれていたからだろう、と考えると辻褄が合うのですよ」
土星の輪のようにトニーの周囲を回り続ける精霊達は、大正解!と言うかのように光量を増やして点滅した。
「発動条件が、体中に滾る熱いものが極限まで高まることだとしたら……私にはもう無理です……」
頭を抱えるトニーに変わって、ふと思いついたまま、あまり露骨にならないように配慮して口にした。
「危機的状況でなくても、トニーのトニーがむっくりすることがなくなったから、もう精霊達が協力しないだろう、ということなの?」
トニーのトニー、と表現したところでシーナは吹き出した。
だって、勃起不全が不適切な言葉なら、どう表現したらいいんだ!トニーの息子?いや、暗喩すぎてまるでトニーに隠し子がいるみたいだ。
男性機能不全?
「私の一物はもう何年も自力で起き上がることがないのです。この状況では精霊達の助力を得られないのでしょうね」
トニーの周りで点滅する精霊達の半分が強く二回光を放ったが、もう半分はチカチカと点滅しただけだった。
半分正解で半分不正解といったところだろうか?
「精霊達の半分が、おしい!もう一声!と言っている」
笑いをこらえたシーナの言葉にトニーは握り拳をテーブルに叩きつけ叫んだ。
「ああ、わかっているよ!何度か機会があっても童貞を捨てられなかったヘタレの男が、初恋の女性を守ろうとすると、一物を隆起させて死に物狂いで魔法を行使するなんて、さぞ面白かったんだろうな!」
戦争が多いこの世界は男子の平均寿命が凄く低い。
三十代まで生き残ると男女比はほぼほぼ五分五分になり、その後、年を取るごとに女性の方が多く生き残っている、トニーから聞いた。
男余りでない世代のトニーが童貞を捨てられなかったのは、どう考えても、仕事一筋の真面目なトニーが誠実だったからで、恥じることではないはずだ。
僕が唖然とした表情でトニーを見上げると、トニーは頭を掻きむしった。
「アルフィー殿下の前で失礼いたしました!」
起立して姿勢を正したトニーは僕に頭を下げた。
「いや、個人的に秘めているきわめて繊細な事を告白させた精霊達が悪いよ」
気を使った言い回しをしたのに、わぁぁぁぁ、と喚いたトニーは両手で自分のこめかみをガンガン叩いた。
「いやいや、からかい半分であっても、精霊達はトニーの純情さに感心していたんだよ。初恋の女性と対面するときには、決して己の欲情を悟られることないように徹底し、祖国や彼女の窮地になると、ほとばしる情熱を魔力に変換し、完璧な魔法陣を瞬時に構築するんだもん。一貫したトニーの姿勢に感服し精霊たちの干渉でトニーの最強魔法が発動したんだよ」
シーナの説明を聞いトニーは耳まで真っ赤にして恥ずかしそうに顔を掌で覆った。
あれ?
状況から考えて、トニーの初恋相手は母だろう。
トニーの勃起不全の原因は、母が亡くなり、守るべき対象が僕になったからじゃないのかな?
トニーの最強魔法に干渉した精霊達は、秘する恋の激情を猛烈な精神力で抑え込む胆力と、危機的状況が重なった、究極のシチュエーションでなければ力を貸さないのなら……。
初恋の人の面影がある少年に劣情を抱いたことに罪悪感を感じつつ初恋の人の忘れ形見を守るために命がけで戦うシチュエーションだったなら……。
うわーー。そんなBL路線を好む精霊達がいたら嫌だな!
「う?あああああ!ちょっと待った!なになになに!え?どうして急にこんな未来になってしまうんだ?」
突然、奇声を上げたのは赤面しているトニーではなくシーナだった。
「「精霊達は未来の事まで語るのか!」」
僕とトニーが同時にシーナに尋ねると、シーナが頷く前にすべての精霊達が点滅した。
「精霊達は特殊な空間で未来を見ることができる。……だけど、その未来は一つではなく、無数に存在する」
「離宮からの脱出時に転移魔法を使用していたらシーナさんに出会わなかったように、僕達の選択次第で未来が変わるからですね」
僕の例えに、ああそうか、とトニーは納得した。
「まあ、そうなんだが、精霊達は無数に存在する未来から自分たちに都合のいいことしか言わない」
シーナの言葉に精霊達は、すまないね、と言いたげに弱々しく点滅した。
「アルフィー達に声をかけろ、と言った、私に懐いている精霊達は、アルフィーは将来この世界の破滅を防ぐ一助たり得る事を成す人生だから、ここで死なせてはいけない、と私に言った」
うん、そうだ。シーナははなからそう言っていた。
「それは、遠い未来、もう、私もトニーもアルフィーも死んで、百年以上経過した世界で、アルフィーの人生で成した事がほんの少し関係して多くの精霊達が救われるからだよ」
シーナの周りの精霊達が、正解!と点滅した。
本当に自分達の都合だったんだな。
「トニーの周りの精霊達は、トニーをからかっているのではなく、本当にトニーを心配している。彼らは私に懐いている精霊達より魔法を行使した経験が少なく、トニーの極限状態じゃないとどうにも魔法行使ができないらしい」
精霊達は能力に個人差があるのか。
「アルフィーに懐いている精霊たちの多くが、メリーアン妃を慕ってシャオ王国までついてきた精霊達で、……このままではアルフィーはヘンタイになってしまう、と心配している」
なに!
僕の未来は精霊達の救世主でヘンタイなのか!
いや、精霊達の救世主になるか、それとも、ヘンタイになるのかの分岐点が今なのか?
「……ヘンタイにならなければ、アルフィーの死亡率が高くなる、と私に懐いている精霊達は言っている」
僕の未来は、夭折するか、精霊達の救世主になるか、ヘンタイになるなんて、いったいどういう事なんだ!
「僕が夭折する未来は、今の状態のトニーでは僕を守り切れないから起こるのですか?」
大正解!というかのように精霊達は光を強く二回点滅させると、トニーはがっくりと肩を落とした。
「……勃起不全の状態では私がどんなに頑張っても精霊達は力を貸してくれないのか……」
トニーの周りの精霊達は申し訳なさそうに光を揺らめかせた。
「トニーを慕う精霊達は、まだ幼いのに大規模魔法を行使してしまったため、加減が効かない。発動条件が揃うまで魔法は使用しない方がいいと、私に懐いている精霊達は言っている」
「無理をすると暴発してしまうのですね?」
トニーの疑問にシーナは頷き、シーナの周りの精霊達が点滅した。
「離宮から脱出する時のトニーの魔法攻撃は十分強かったけれど、あの程度の魔法攻撃ではこの先の敵には通用しないのですね?」
僕の疑問に、うーん、とシーナは首を傾げた。
「問題は、ラウンドール王国の関係者達だよ」
シーナの言葉にトニーは眉を顰めた。
「僕がラウンドール王国の王位継承権を放棄したら大丈夫じゃないの?」
「それで済む敵なら、何とかなるだろうね。目に見えてわかりやすい敵、というのは対処しやすい。だが、ラウンドール王国の現状は複雑すぎて信頼できるはずの味方が敵になる事が、ないとは言い切れない」
亡き母は僕の遺産を管理する自分の母にさえ用心して、呪いを施していた。
「まあ、私が同行したなら、アルフィーを死亡ルートに持ち込まず、ヘンタイにもしないで、精霊達の救世主にしてみせるよ」
シーナは精霊達の代弁をしているだけで、現状は、せいれいたちが なかまになりたそうに こっちをみている っていう状況なのか。
「あのね、私には意味が分からないのだが、トニーに懐いている精霊達はBL路線とやらは望んでいないらしい」
おいおい!
僕はBLなんて口に出していない。
精霊達は僕の思考を読んでいるのか!
……ひょっとして、僕がヘンタイになる、って未来は、常識の違いから前世の知識を誤解されるだけで、僕が大人になってヘンタイ的な行動をするからじゃないのではないかな。
頭の中で何を考えたっていいじゃないか!
僕はBLの知識があっても、前世で好んで読んでいなかった。嫌悪感がないのは個人の趣向はそれぞれで、愛好者を否定したくないだけだ。
芸術や文学なんて視点を変えたらヘンタイになる物は多くある。
僕を否定しないで、精霊達が学習すればいいのにね。




