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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第二章 おっぱいがいっぱい?

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21 緑の一族の説教部屋

 僕の皿の残りの激辛タンドリーチキンを食べたトニーはエールで流し込むと、うんうんと頷いた。トニーはこのくらいの辛さが好きなようだ。


 辛さを控え目の鶏肉を取り分けてもらうと僕でも美味しく食べられた。



 こうして、昼食後、僕はスパイスをたんまり買い込んだ。

 世界中を渡り歩く緑の一族の村には世界中の珍しい品々があり、それらを仕入るルートがあった。


 そして、彼らはとても商売上手だった。


 トニーから僕の衣装の生地やレースの生産地を聞き出し、近くに住む親族に連絡する手配を即座にしていた。どうにも、どこかの国のお姫様のウエディングドレスを仕立てる親族のためらしい。


 姉妹契約で結ばれている姉妹たちが世界中にいる緑の一族はその土地の支配階級との縁談を嫌うので貴族階級より商家に嫁ぐことが多いらしい。


 上級魔術師で上級魔導士相当の元聖女というハイスペックのシーナが商家に嫁ぐなんて、と思っていたが、緑の一族の中では、跳ね返り娘の縁談がやっとまとまった、という認識だったようだ。


 シーナは医薬品の取り扱いに強い商家に嫁ぎ、薬草の仕入れの傍ら調剤を担当していたらしい。元夫の有責で慰謝料と養育費を一括で受け取ると一族の村に合流して薬草の研究をしていたようだ。


「生活費の心配がなかったし、アンナは魔法学校に進学してしまったからのんびり研究できたのよ。薬草学はアンナの方が優秀だから畑をアンナに任せて気ままな旅に出たから、ニーナはそんな私みたいな生活がしたかったんじゃないかな」


 昼食後、男児の服を作りたい、と希望する女性達に掴まった僕が採寸されている時にそんな話になった。

 女性達はデザイン画を描いては採寸をし直すので、言われるがままポーズをしている僕は、そうじゃないよなぁ、と思ったが口にしなかった。


「ニーナちゃんのシーナへの憧れは楽な暮らしをしたいという安直な願望より、女神様を見るかのような妄信的な憧れに見えたぞ」


 トニーの指摘にニーナの執着ぶりを知る村の女性達は頷いた。


 勝手に神格化されてもなぁ、と顎を擦るシーナに女性達は笑った。


「まあ、尊敬する対象がシーナやアンナ以外にも広がったみたいだから、ちょっとはあの子もマシになるんじゃないかしら」


 女性達は僕を見てクスクスと笑った。ニーナの僕の評価は大変動したが、辛い物対決で敗北を喫したから、また変わっているかもしれないぞ。


「鼻っ柱を折る作戦が過剰に効いたみたいね」


 両腕を上げて大きく伸びをしたシーナに女性達は微妙な笑みを浮かべた。

 甘いな。ニーナの情熱は簡単に冷めないと思う。


 食後も僕達について来ようとしたニーナは、お話があります、と目を光らせたアンナに連れ去られた。

 僕との和解は済んだけれど、アンナは個人的に説教をするつもりなのだろう。


「ニーナは亜空間で身体強化の訓練していたみたいだけど、亜空間で過ごす時間が長いとその分体も成長しじゃうのかな?」


 シーナだけじゃなく採寸していた女性達も手を止めると、フフフ、と笑った。


「ええ、そうですよ。ずっと村にいると世間の常識を忘れてしまいますね」

「洗礼式で他の子たちと見比べると、よその子は小さい、と感じますわ」

「でも、まあ、幼児期は女の子の方が成長が早い場合もあるから不自然というほどではないわよ」


 元聖女の言葉は説得力があり、そうねぇ、と女性達は納得した。


「魔力が多いとある程度成長するとそこからなかなか老けなくなるから、魔法学校を卒業するころには普通の人と変わらなくなるわねぇ」


 そんなもんよ、とシーナは笑った。

 そういえばシーナちゃんは年を取らないわね、と女性達も笑った。


 僕とトニーはシーナの実際の年齢を知らないが、魔法学校を卒業後、教会に入り聖女として活躍した後結婚し、十七歳の娘がいるのだから、もう三十は確実に超えている。

 

 ……おそらくトニーより年上だろう。


「カカシ様はずいぶんお年を召しているようだが、そうとうの高齢になってから精霊と契約を結んだのですね」


 トニーの疑問にシーナと女性達は頷いた。


「一族の族長としての資質はまあ、精霊達に好かれているというには外せないけれど、魔力量ではなく、全方向に視野が広い、というか、まあ、人格がしっかりしていないと中級精霊に認められわ。だから、ビックリするほど年を取ってから契約する事になるのよ」


 シーナの説明に、後継者候補の方が先に死ぬことは珍しくない、と女性達は頷いた。


「なまじっかニーナのように精霊達に好かれて精霊魔法を先に使えるようになると、たいがい長生きしないわ」

 

 僕の次に採寸されていたノンが頷いた。


「あら、この子はわかっているのですね!村では、極端に精霊達に愛される子は他の精霊達から嫌われる、と言われています」


 魔獣の方が人間より精霊達に詳しいのでしょうね、と言う女性の言葉に心当たりがあった。

 緑の一族の村に転移するなり攻撃的な風が吹いたのは、僕を嫌う精霊達の仕業だ。


 大勢の精霊達を引き連れて歩く僕とニーナは似た者同士だ。


「この村で呪文の練習をするのが楽しみになってきました」


 この村の一部の精霊達に嫌われていると知っても前向きな発言をする僕に女性達は、頑張ってください、と目を細めて励ましてくれた。


 トニーはそんな僕を嬉しそうな目で見ていた。

 

 妙齢の美しい女性がたくさんいるのに僕を見て微笑むなよ!

 どうにかしてトニーのトニーを元気にしなければいけないのに、女性を意識しなければ何も改善しないよ。



 採寸が終わりトニーとノンと図書室で緑の一族の蔵書を読んでいると、目をはらしたニーナが入ってきた。


「シーナは仕事があるからいないよ」

「聞いています。シーナ様にもお説教されました。明日からアルフレッド殿下に魔力操作の方法を教わるのできちんとご挨拶しなさいと言われました。よろしくお願いいたします」


 あらたまって頭を下げたニーナに、こちらこそよろしく、と声をかけた。


「一緒に学ぶんだから、アルと呼んでほしいな」

「いえ、とんでもなく効果的な魔力操作法だとシーナ様から聞きました。師匠になるお方を愛称でお呼びすることはできません!」


 初対面から180度態度が変わった、というより一回転半増えて540度くらい態度が改まってしまった。


「僕が教えられるのは概念だけで実際にできるかどうかはその人次第だよ。トニーやシーナがすぐ実践できたのはそもそも魔力操作が得意だったからなんだよ。ニーナの師匠にはなれないよ」


 僕の言葉にトニーとノンは頷いた。


「今の私には難しいと、シーナ様もおっしゃっていました。アルフレッド殿下がこの村に滞在中に習得できないかもしれませんが、アルフレッド殿下が考案した方法を習得させていただくのですから、師匠に違いありません!」


「ちょっと待った!名称を統一しよう!僕は今逃走中なので、殿下はやめてほしい」


「俺も練習して、アルと呼べるようになった。ニーナちゃんもアルと呼ぶようにしてほしい」

 

 トニーの言葉にようやくニーナは頷いた。


「師匠もなし!」

 

 僕の言葉にニーナは小さく首を横に振った。ノンは頷いている。なんか奇妙だ。ノンは否定するからノンなんじゃないのか!


「心の中で、師匠と呼びかけてからアルと言えば、自分の中で折り合いがつくよ」


 トニーは心の中で殿下、と僕の名前に称号をつけているのだろうか?

 僕の掌が二回光って一回光った。

 当初は、殿下、とつけていたが、今はなしでアルと呼んでくれているのかな?

 掌が二回光った。


 ニーナが尊い者を見る目で僕を見ている!


「精霊達が光っているだけで、僕が何かしたわけじゃないからね!」


「いえ、精霊言語を使わずに精霊達と会話をしていらっしゃいます!ああ!シーナ様のおっしゃる通りだわ」


「シーナはニーナにどんなお説教をしたのだろう?」


 僕とトニーとノンは顔を見合わせた。


「大人の言うことを聞かない悪い子は、お説教部屋、と呼ばれる亜空間に連れていかれるのです」


「「お説教部屋!?」」


「はい。カカシ様の中級精霊様が、言いつけを守らなかった子がどんな目に遭うのかを見せてくださるのです」


 太陽柱の映像からバッドエンドだけを見せられるのか!

 どんなお説教よりも効きそうだ。


「それで、ニーナちゃんの態度が改まったんだね」

「はい。そうですが、でん、ししょ、アル様が素晴らしいのは、鬼ごっこの時に気が付いていました。あの時は意地になっていただけなんです」


 ニーナは頬を赤らめて恥ずかしそうに言った。


「うん。あの時は僕はトニーの教えを守って全力で頑張った。……という事は、僕の師匠の師匠のトニーがお師匠様でいいじゃないかな」


 ポンと手を打つとトニーは苦笑した。


「……心の中で思うだけなら、かまいませんよ」


 西日があたるトニーの表情がちょっと切なく見えた。

 今でも亡き母を慕い続けているのだろう。


「トニー様を師匠と呼ぶのは差しさわりありますか?」


 顔を見合わせた僕とトニーとノンは、問題ないだろう、という事で落ち着いた。


「説教部屋で見たことを思い出したくない訳じゃないのなら聞いてもいいかな?」


 どんなトラウマを植え付けられたのか、とちょっとした好奇心でニーナに尋ねると、いいですよ、と快諾してくれた。


「説教部屋に転移するなり、師匠、トニー様に火達磨にされました」


 ええ!と僕とトニーとノンはドン引きした。


「出会い頭の風魔法をカカシ殿が散らしていなければ、そうなっていたであろうな」


 緑の村に転移した時に僕に向かってきた風魔法はトニーが左手を上げると霧散したから、てっきりトニーの魔法だと勘違いしていたが、カカシの無詠唱魔法だったのか。


「小さな映像の欠片を見たのではなく、ニーナが燃えたの?」

「そうです。火傷はしなかったのですが、前髪が少し燃えました」


 ニーナは焦げた前髪を摘まんで見せた。幻影ではなく本当に亜空間で火達磨にしたんだ!


「俺の演習用の炎の魔法はそういう設計になっている」


「はい。中級精霊様にそう伺いました。シーナ様の親族しかいない村なので師匠は手加減する、とおっしゃっていました」


「トニーは僕の目の前で襲撃者を殺さないように配慮しているんだ」

「はい。それも見せてもらいました。お城を脱出する時の、でん、アル様と師匠の様子です。どれほど厳しい状況だったのかを知りました。鬼ごっこの時の暴言は本当に申し訳ありませんでした」


「いやいや、謝罪はもう受け取っている。精霊達の言葉を鵜呑みにしたんだから、以後気を付けてくれたらいいよ」


「はい。精霊達の言葉を鵜呑みにする危険性を、妖精と老人の説教部屋を見せていただいたのでしっかり学習しました」


 妖精と老人の説教部屋!


「あの爺さんとふてぶてしい妖精かぁ。洗礼式前の子どもに容赦ないな」


「亜空間で時間を費やした私は初級魔法学校入学の年齢を越えている、とシーナ様が指摘されたので、妖精と老人の罰から学ぶのがよい、とカカシ様が判断されました」


 あれ、僕、シーナに余計な事を言ったのかもしれない。

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