17 再び、おっぱいがいっぱい!
「片が付くまで妖精と爺さんはうちの精霊の亜空間に閉じ込めておこう。教会関係者に知られると未来に禍根を残すことになりそうだ」
自分達に話を振られた妖精と老人は肩をすぼめた。
「妖精と爺さんを隠しても、あの魔術具の建物を教会関係者たちに知られたくありません」
「だから、教皇猊下に介入してもらうんじゃよ。大聖堂島の古代魔術具研究所の連中に知られずに、口の堅い司祭を紹介してもらい住人達だけ教会登録だけするんじゃ。いずれ転居先に新たな教会を作ることで教皇猊下には妥協してもらうしかない」
古代魔術具研究所って名称はカッコいいけれど、精霊使い狩りがからんでいるからカカシとシーナは慎重になっているんだろうな。
「アルフレッドとトニーはシーナが仕事をしている間に儂の村に遊びにおいで。可愛い女の子がたくさんいるよ」
「可愛い女の子しかいない村だよ」
シーナがカカシに突っ込んだ。
緑の一族は女児しか生まれないんだよね。
「女性ばかりの村にお邪魔してもいいのでしょうか?」
「ハハハハハ。昨日の集落での歓迎役のように胸を押し付けるような下品な習慣はない。妙齢の女の子達には婿がいるから安心せい!」
豪快に笑うカカシの言葉であからさまに警戒していたトニーは安堵の表情を浮かべた。
「私も一度村に戻るわ。娘の顔が見たくなったし。教皇猊下には手紙を書いてから謁見した方がいいでしょう?」
「そうじゃな。そこまで急ぐことでもない。妖精と爺さんはその間、起こりうる未来についての学習を亜空間でしていればいいじゃろう」
一人フラフラと修行の旅をしているシーナには離婚歴があっても子どもはいないと僕とトニーは思い込んでいたので、妖精と老人の処遇より、シーナの娘の話が衝撃的だった。
「お子さん、いたんだね」
「うちの娘はもう成人しているんだけど、嫁に行かずに薬の研究に没頭している。あの族長の水も、実は原液ではなく、うちの娘が飲みやすくしたやつなんだ」
成人した娘がいるなんて、シーナはいったい何歳なんだろう!?
女性に年を聞かな方がいいな、と驚いていても僕は口を噤んだ。
トニーはあれでも改良版だったんだ、と族長の水のマズさに衝撃を受けていた。
「山でちょくちょく薬草を採取していたのって、娘さんのためだったんだね」
「ああ。私も薬師の資格を持っているが娘の方が詳しい。元聖女の娘、という事で、魔法学校で光魔法を期待されていたんだけど、本人の適性が追い付いていない時期があって、反抗期に手を焼いたよ。まあ、今となっては懐かしいわ」
ガッツリ子育てが終わってからシーナは自分探しの旅に出たのかな?
「うーん。儂からしたら、シーナ自身の反抗期が終わっていないようにみ……」
「よ、妖精と爺さんをこのまま隔離するにしても、集落の住民達にどう説明しましょう?」
シーナは自分の話から話題を逸らした。
親族に子どもの頃の黒歴史を延々と語られるのを避けたい気持ちはわかる。
カカシは僕とノンを見て小首を傾げた。
「すまんが、もう少し神々の御使いとして小芝居をしてくれんかな?」
僕とノンは同時に頷いた。
「水の神の塔を出たら……」
水の神の塔を出ると老人と妖精が僕達の前に立ちふさがっていた。
老人の肩の上で浮いている妖精の首の角度が後ろに引っ張られているように見えるのは、姿を消した中級精霊がスリーパーホールドのように後ろから首に腕がきまったままになっているからだ。
妖精は窒息なんてしないだろうけれど逃げられないに違いない。
僕の腕の中から飛び出したノンが老人と妖精の背後にある噴水まで駆け抜けると、僕とノンは両手を上げた。
「アップウ!」
噴水から大量の水が浮かび上がると偽物の空の上で広がり、球体に丸まりながら老人と妖精を包み込んだ。
住民達は神々の御使いの奇行に驚いて大騒ぎを始めた。
『皆の者、慌てるでない!集落の長老に知恵を授ける。しばし、集落を離れるが魔術具の手入れを怠るな!』
脳内に響く精霊言語はカカシの声だったので、住民達は初めて聞く老婆の声の実体を探しておろおろと周囲を見回した。
『長老の工房を探せば、魔術具の修理に必要な素材も魔法陣もその辺に散らばっている。長老の知識を住民達も理解しなければ、この巨大な建物は長老がいなくなれば崩れ落ちてしまう。ゆめゆめ努力を怠るな!』
老人と妖精の恐怖政治は巨大な魔術具を維持できる存在が老人一人だったから誰も反抗できなかった事を見抜いたカカシは、住民達に自立を促した。
住人達は突然の事態に驚いて僕の背後にいるシーナがいなくなっている事に誰も気づいていないようだった。
事前に亜空間で打ち合わせをしていたのだ。
「大虐殺なんて、いつの時代にもあった。そりゃそうだ。それを例えにして自分の行いを正当化するのはどうかねぇ。あんたは虐げられていたと主張するけれど、人間、三人いれば派閥ができるもんじゃよ。大きな派閥の流れに乗らなければ潤沢な予算など付かん。それを、不遇な天才魔術師、なんて表現しちゃぁいかん」
妖精の亜空間で住民達への対応を決めた後、カカシは老人を諭した。
「人の物はその人の物。利益だけ得て、用が済んだらトニーを魔石にしてアルフレッドを拘束しようとするなんて、その辺の悪辣王より酷い行いじゃぞ!」
「私達が集落に水をもたらし、水泥棒をしていた国との紛争を回避した報酬はどうしようか。……球体の客室のフカフカな床材と、空飛ぶ石の素材、ああ、浴槽のお湯を瞬時に適温にする魔術具はちょうだいね。アルとトニーとノンは何が欲しい?」
元商家の嫁らしくカカシの言葉の尻馬に乗ってシーナは老人に対価を要求した。
「僕はあの球体の配膳の魔術具とお風呂の板の魔術具と……お爺さんのメモ紙かなんかが欲しいな」
「なんで、そんなの紙を欲しがるんだ?」
トニーの疑問にノンが頷いた。
「あの集落はこれから外の世界とかかわっていくことになるんでしょう?そうしたら、独自の言葉や文字もいずれなくなってしまうでしょう?お爺さんの功罪はともかくとして、失われてしまう文字と言葉を残しておきたいんだよね」
僕の説明にシーナとカカシは頷いた。
「失われてしまったら二度と誰にも顧みられない言葉じゃな。古代魔法を独自に発展させた資料としての価値はあると思う」
「結構、危うい魔法理論だから私は消滅してもいいと思うな」
「魔法関係のものじゃなくていいよ。役に立たない人間を即処分してしまうお爺さんの考え方は許せないけれど、そこで生きていた人達がいた事を残しておきたいんだ」
マーサや一緒にサーフィンごっこした少女達や僕の言葉を真似してコミュニケーションを取ろうと頑張っていた子ども達は、これから外の世界を知れば厳しい現実に直面するだろう。
自分達の言葉を忌避するようになるかもしれない。そうでなくても、時を経ると失われてしまうだろう。
「いいことか悪い事かの判断を保留にして一旦保存する、という考え方なら理解できる。神罰の時代の後、多くの書物が内容の如何にかかわらず燃やされてしまった。あの時代に生きた人々の記録はほとんどないんじゃ」
カカシの言葉にシーナと老人が頷いた。
「まあ、ええじゃろう。いただくものはシーナが選別すれば問題あるメモは省くじゃろう」
シーナが頷くと、勝手に持っていくのか!と老人はシーナを睨んだ。
お前の物は俺の物、俺の物はお前の物、という慣習の集落を作ったくせに、シーナが集落の物を持ち出すのは嫌なんだな。
「集落中の金目の物を差し出しても、水を巡る紛争を止めた功績には代えられんぞ」
トニーの指摘に老人は項垂れた。
「老人と妖精の教育的指導は私が亜空間でいたします。もし、アルフレッドが水を出さず、紛争が起こっていたらどうなっていたか、などを太陽柱の映像を並べて徹底的に学習させます」
中級精霊は涼しい表情で老人と妖精に告げた。
ということで、老人と妖精が大きな球体の水に閉じ込めて、住民達に自立の方法をカカシが説明している間に、シーナは一人で各階層に転移して水の対価をせしめていた。
泥棒じゃないよ。正当な報酬を老人の許可を得たからもらうだけだもん。
シーナが僕の背後に戻ると僕達は閃光に包まれた。
「キャー可愛い!」
「お人形みたいに綺麗ね!」
「あっ!こっち向いたわ」
「やだ、すっごく睫毛が長いわ」
閃光が収まると黄色い声が僕達の周りから起こった。老人と妖精は別の亜空間に連行されたのでこの場にいなかった。
うわぁ!眼福!
おっぱいがいっぱいだよ!
僕達を取り囲んでいた女性達はインドネシアの民族衣装のアオザイに似た体のラインに沿った美しいドレスを身に纏った黒髪の美女たちだった。
巨乳のパレオビキニのインパクトは絶大だったけれど、すっぽりとドレスに包まれたボンキュッボンはまた別の破壊力があった。
大きいビキニは素晴らしいが、ウエストのくびれの美しさがはっきりわかるアオザイもどきに軍配が上がるねぇ。
パレオビキニではタポンタポンに揺れるお腹が丸見えだった。そこがちょっと残念だった。
僕がキョロキョロとあたりを見回すだけで歓声が起こった。
「予想以上のはしゃぎっぷりね。どうなっているの?」
「この村には男性もいるんですよね?」
シーナとトニーは一緒に転移していたカカシに尋ねた。
「お前たち、はしたないよ!王子様と護衛騎士を連れてくるけど無礼講でよい、とは言ったけれど、無礼講と無作法は違う!」
カカシが一喝すると静かになった。
「申し訳ありません。この村に一族の関係者以外が来訪する事はめったにないので、皆はしゃいでしまいました」
女性達を掻き分けて現れた男性にトニーは安堵の息を吐いた。
「私は村長のカミルです。族長のカカシは留守にしていることが多いので、私が村をまとめています」
「シーナと護衛契約をしているアルフレッドこと、アルです。こっちは僕の護衛のトニーでこの子はノンです。お世話になります」
僕はどこの国の王子かを名乗らず自己紹介をした。
「族長からお話は伺っております。アル君は精霊言語を取得間近で、シーナの呪文を不安定ながら行使できる、という事で、しばしこの村で精霊魔法の練習をされるそうですね。うちの村には精霊達に干渉される子ども達が多くいます。ご一緒に習練されると上達が早まると思いますよ」
「「助かります」」
僕とトニーとノンが頭を下げると一陣の風が僕達の方に吹いてきた。
トニーが左手を上げると風は霧散した。
「こんなヘンタイを村に入れないで!」
僕達を囲む美女達の奥から少女の声が上がった。
到着して早々、ヘンタイ、と決めつけられたけれど、僕はまだ挨拶くらいしか発言をしていない。
僕の掌に集まっている精霊達がほのかに揺らぐように光った。
精霊言語を取得間際の少女が精霊達に何やら入れ知恵をされたに違いない。
僕の掌がほのかに二回点滅した。




