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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第一章 僕と最強の護衛

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21 もりもり育む!

「……捻りを加えて高速で魔力循環をすると、睡眠時に魔力が回復する並みに魔力が増えるぞ」


 トニーは掌を広げてじっと見た。


「そうだね。それに自然治癒を促す効果もあるようだ。代謝がよくなるからかな……」


 シーナの言葉にトニーは首をポキポキ鳴らして、そうか?と呟いた。


「元聖女のシーナは光魔法に長けているからそう感じるだけでは?」


 トニーの疑問に僕は頷いた。

 午前中いっぱい魔力操作の練習をしていたが、正直、僕にはそれほど魔力が増えた実感がないし、どっかが癒されたようにも感じない。


「魔力循環による身体強化は魔獣の魔法のようなものだ。いくら元聖女でも魔法陣も祝詞も精霊魔法も使わずに光魔法の回復なんてできるわけないだろう!」


 シーナの魔法の凄さを散々見せつけられていた僕とトニーは、シーナなら何でもできるのではないか、と過剰に期待していたようだ。


「自然治癒と言っても擦り傷がみるみる治るほどでもなく、乾燥でかさついていた肌が潤ってハリが出る程度だよ。そもそもお肌ピチピチのアルにはわからないだろうし、トニーは自分の肌がどれだけ荒れていたかなんて気にしていなかっただろう?」


 僕とトニーは頷いた。


「ああ、あれか、魔力が多い人は老けにくい、と言われるのは、たくさんの魔力が体の中を循環している効果だったのか」


「確かに、魔力の多い人間は傷の治りが早いな。魔力量の多さで密度の高い魔力が体を循環している効果ね……。高速で魔力を循環させて捻りを加えたら魔力の密度がグッと濃くなるな」


 シーナとトニーは高速捻り魔力循環をまだ続けているのか、眉間に僅かに皺を寄せながらブツブツ呟いた。


 僕はもう意識しなくても高速捻り魔力循環ができるようになっていたから、精霊達の補助なしに水飴を練り練りしながら捻る練習をしていた。

 精霊達に僕の動作に干渉しないようにお願いすると、精霊達はねじれ輪っかになった水飴をくぐり抜ける遊びをしだした。


 色とりどりの精霊達が様々な角度から輪潜りをすると、僕は光り輝く花輪を操っているように見えて面白かった。


「おおっと!水飴遊びはもうやめて片付けよう!ここら一帯の精霊達が蜜を求めて集まっている。精霊達は蜂蜜が大好物で、甘い蜜には目がないんだ」


 気が付けば水飴の入った小鍋やボールに放置していた搾りかすにまで精霊達がたかっていた。


「搾りかすは刈ったばかりの草に混ぜておけば、集まった精霊達がそっちに行って、私達が引き連れて行かなくて済むはずだ。基本的に土地に居ついている精霊達は移動を好まない」


 シーナの説明を聞いたトニーは素早く水飴を瓶詰めすると、小鍋を水魔法で洗い流した。

 消えてしまいそうになる水飴のついたトニーの水魔法の滴に精霊達が名残惜しそうに集まった。滴が消えると精霊達も消えた。


 僕とシーナはトニーが刈った草の中に搾りかすを混ぜ込み、ほんの少しだけさっきまで練っていた練り飴を置いた。

 残りは僕の口の中に納まった。


 精霊達が枯れ草にたかっているうちに休憩スペースを片付けると、僕達はスタコラサッサとその場を後にした。



 身体強化による馬車並みの歩行についてもう、誰もツッコミを入れなかった。

 

「昼食の場所からついてきた精霊達はいないよね」


 ただでさえたくさんの精霊達を引き連れていたのだ。これ以上精霊達を増やしたくない。


 僕の言葉に答えるように精霊達が淡く光る……。

 ああ。……こうなってしまうのか。

 いるよ、いる。

 光量の調整ができずにピカピカに光っている精霊が十数体いた。


「お前たち!しっかり躾けてやりなさい!」


 シーナの一喝でピカピカに光る精霊達を淡く光る精霊達が取り囲んだ。


 するとほどなくして、ピカピカに光る精霊達も光量を抑え、淡く光り出した。


「……ついてきたんだ」

「ついてくるなという方が無理だよ。時間短縮に協力した精霊達の中に族長の(しもべ)の手下の精霊がいたんだ。さぞかし精霊達が好む味になったのだろう。そんな水飴を作る人間達を放っておいてはくれないよ」


 しくじった、とシーナは嘆いた。


 精霊達が好む水飴を作る問題点を精霊達が教えてくれるわけがない。

 嗜好品は病みつきになる。

 精霊だって人間だって同じなんだな。


 僕達三人の周りには霞がかかったかのように淡い光を放つ精霊達が層を成して取り囲んでいる。

 

 うん。これはもう、気にしない方がいいだろう。

 認識疎外の精霊魔法が強化されたと考えれば、僕の安全度が高まったんだ!


 僕の掌にまとわりついている精霊達が、そうだ!そうだ!と二回点滅した。



 こうして、日没の時間を迎える前に門番達に、無理だ、と言われていた宿のある町に辿り着いた。


 町で一番高価な宿屋にチェックインすると、七大神の祠巡りがてら夕刻の町を散策することにした。


 主要産業が近隣で収穫された麻を織る織物の町で、そこそこの活気のある町だ。


 職人の町では日没ギリギリまで仕事をするためか、夕食を持ち帰りする食べ物の屋台が多く、小鍋を持って買いに来る人が多くいた。


「この町も買い物をしているのは男性ばかりだね」

「閉門の時間になれば少しは出歩く女性もいるだろうけれど、余所者は日没の鐘の後、宿屋から出てはいけない決まりだから、見ることはできないな」


 シーナが宿の主人に忠告された留意事項を指摘した。

 チッ!

 この町でもトニーの心に何かしら動きを起こさせるような女性に出会うことは不可能か!

 

 町一番の宿屋にも従業員に女性はいなかった。


「あった。あそこだな。宿屋の主人が勧めていた煮込み料理を出す屋台」


 夕食を宿でとる予定だが、この町独特の美味しいものは?と尋ねると、臓物の煮込みだ、と教わった。

 内臓料理か、とトニーは渋ったが、丁寧にした処理をした煮込みを出す屋台かある、という事で宿屋で持ち込みの許可をもらったのだ。


 名物が口に合うかどうかは別として、二度と訪問することがない町なのだから試してみるのもいいだろう、とトニーを説得してここにいる。


「匂いは悪くなさそうだね」

 

 煮込みに興味がなさそうだったシーナも、食べられない物ではなさそうだ、と気付いたのか表情を緩めた。


 小鍋を出して臓物の煮込みの屋台の列に並ぶと、反対側の屋台の親爺に声をかけられた。


「兄さんたち!うちのリクガメのスープは最高だよ!」


 トニーとシーナは顔を見合わせると、小さく首を横に振った。

 いらないらしい。

 リクガメのスープってすっぽん鍋な物なのかな?


 にやけた親爺の視線の先には商談でこの町を訪れただろう男性に二人の男が挟み込むように肩を寄せて指で数字を現しながら何かの勧誘をしていた。


「客引きかな?」

 

 小声でトニーに尋ねると、宿に派遣する商売女の斡旋、と小声でシーナが答えた。

 なるほどね。

 精力が付く食べ物屋の屋台の側でデリヘルの斡旋をしているのか。


「リクガメ(すっぽん)は前世でも食べたことはないけれど、美味しいのかな?」

「さあ、どうだろう。ウミガメのスープなら食べたことはあるけれど悪くない味だったよ」


 僕とシーナの小声の会話に、基本的には食に保守気味なトニーは首を小さく横に振った。

 僕は無意識に口をムニムニさせていたこと気付いて口を押さえた。

 トニーとシーナは無言で腹筋を揺すった。


「臓物の煮込みとリクガメのスープを両方買うとめんどくさいお兄さん達に絡まれそうだね」


 僕が胡散臭そうな視線を客引きの男たちに向けると、リクガメのスープの屋台の親爺は屋台の裏側を指さした。

 客引きの男たちに見つからないように買えばいい、という事らしい。


 臓物の煮込み屋の列の順番がトニーの番になりトニーが屋台の親爺に小鍋を手渡している間にシーナはリクガメのスープの屋台の裏側に、スッと消えた。


 トニーが支払いを終えるとシーナは不機嫌な表情で戻ってきた。


「体格のいい男にたんと食わせろ、と言われたよ」


 どうやら、シーナはトニーとカップルに見られたことが面白くなかったようだ。


「一生に一度の事だと思えばカメを食べてみるのもいいかな、と思ったんだが、なんだ。そっち系の食べ物なのか!」

 

 ニンニクの香りたっぷりの臓物の煮込みもスッポンも、男の証明!で有名な亜鉛やアリシンが豊富なイメージがあるのに、トニーにはそういった知識はなかったらしい。


「カップルらしく肩を並べていたら客引きも声をかけにくくなるだろうから、いいじゃないか」

 

 トニーとシーナは僕の言葉に顔を見合わせてちょっとだけ躊躇したが、人の流れが客引きの方に動いていくので、仕方ない、と苦笑して僕を挟んで肩を組んだ。



「おや、まあ。リクガメのスープも購入されたのですか!」


 宿屋の食堂で給仕を担当してくれた男性がテーブルに出した二つの小鍋を見て驚いた。


「俺達の町では見かけない料理だったから好奇心で購入しただけだ」

「そうでしょうね。栄養が豊富ですが、お子様には栄養過剰になりそうですから、小皿に味見程度よそいましょうか?」

「ああ、俺にも少量にしてくれ」

「同じく!」

 

 給仕の男性は心得たものでトニーとシーナのスープ皿も小さな物に取り換えた。


「「「悪くないな」」」


 宿の食事の温野菜のサラダを食べた後、リクガメのスープを飲むと三人同時に声を上げた。


 鶏肉に似た淡白で癖のない身がほんの少し入った塩味のスープは濃厚な出汁の味がした。


「もう少しお召し上がりになりますか?」

「「いえ、もう、けっこう」」


 給仕の男性が尋ねるとシーナとトニーは同時に断ってしまい、僕が、おかわりと、言いにくくなってしまった。


「後は宿の皆さんで召し上がってください」


 どうやら持ち込みの料理は宿に差し入れするのがこの世界のマナーだったようで、シーナの言葉に給仕の男性は、ごちそうになります、と言ってリクガメのスープの小鍋を下げた。


 戻ってきた給仕の男性は臓物の煮込みに豆料理を添えて小皿に盛り付けた。


「次のお飲み物はどうなさいますか?」


 一杯目のエールをすでに飲み終えていたトニーに給仕の男性が声をかけた。


「俺はもう水でいい」

「今日はゆっくり休むんだから、もう少し飲んでも大丈夫だよ」

「それじゃあ、エールをもう一杯もらおう」


 僕の護衛をしているトニーは食事時の酒を不自然にならない程度に飲む、と打ち合わせをしていた。

 もともと酒が弱いのに、美味しい摘まみにつられてもう一杯、という程度の小芝居をトニーはシーナの補助でそつなくこなした。


 給仕の男性がトニーのエールをつぎに行っている間に臓物の煮込みを口に含んだ。


 楽しみにしていたのに……これといった感想が出てこない。


 強いて言えば、くたくたに煮込まれ過ぎて旨味が抜けているが、フワフワとした部位や、トロンとした部位があって食感が楽しい。

 内臓臭さが抜けるほど下処理されているのだから、手が込んだ料理と言える。


「「悪くないな」」


 リクガメのスープと同じ感想をトニーとシーナが口にしたが、テンションは低めだ。

 明らかにリクガメのスープの方が美味しかったが、食べられないほどでもない、というのが本音だろう。


「今朝の屋台で買った調味料を足して味を調えたらもう少し美味しくなるのになぁ」


 僕の呟きにトニーとシーナは小さく首を横に振った。

 この場で小さなコンロを取り出して、はしゃいで味付けを直したら悪目立ちする事は僕だって理解している。

 小さく頷いた僕にトニーは寂しそうな表情をした。


「いかんな。美味しさを追求することに段々慣れてきた」


 トニーはそう呟くと、エールを一気に口に流し込んだ。


 トニーの情緒を育むはずなのに、なんだか、食育の方が進んでしまったようだ。

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