第99話 先の見えぬ航海
ヴァルハラは現在海を越えアトラスという傭兵部隊が待つ場所に向っていた。
アリアが一人訝しげに頭を掻いていたため、リリィは声をかける。
「どうしたのアリア?そんな考え込むみたいな顔して」
「いや、なんか真面目な話になっちまったから聞けなかったんだけどさ、アタシが聞きたかったのはああいう話じゃなくてさ……」
どうにも歯切れの悪いアリアに対しリリィは首を傾げる。
そこに何処から聞いていたのか、ぬっとディアナが割って入ってくる。
「アリア、分かるわよ……"あれ"よね」
「アレ……?」
リリィは更に首を傾げる。
「あれと言ったらあれだよ」
アリアもすかさず畳み掛ける
そしてディアナとアリアは同時に放った。
「「色恋!!」」
二人の息の合った発言にため息をこぼしてしまうリリィとメガイラだった。
───
先ほどのソーマ達との情報交換の場に居合わせなかった第二世代のワルキューレ達は各々
各自のデバイスに送られてきた情報を見ていた。
対ティターニアの特殊傭兵部隊──アトラス
構成人数は戦闘員が二十人、その他構成員が四十以上。情報にはメカニカルワルキューレとは違い成人男性がメインの組織だと記されていた。
使用する武装はティターニアのパワードスーツを独自に改修した物で、エネルギー機関は
───
「ネガ・メガミドライヴ……」
ミレイナがポツリと呟く。
メカニカルワルキューレであれば嫌というほど耳にした呪われた技術……少女達を改造し製造された邪悪なエネルギー機関……
その技術でティターニアと戦っているというアトラスという組織を信用する事は、彼女達には不可能だった。
───
ソーマとトニオに与えられた個室で二人はアトラスの待つ森に到着するのを待っていた。
その時トニオがソーマに聞く。
「事務総長……貴方はメカニカルワルキューレ、アトラスを信用しているのですか?
どちらも国連が関与していない非正規の武装勢力である事には変わりない……
まぁ、メカニカルワルキューレについては貴方が個人的に支援していた……という、事ですが……」
トニオはそこまで言って顔を伏せる。
自分の知らない所でソーマが武装勢力に関与していた事。
国連事務総長として一番平和を重んじ無ければならない立場の人間が、その国連の認可も得ていない組織と関わる事のリスクを理解しているとはとても思えなかった。
「……わかっているよ。僕の行いがあまりにも無神経で、危険な行いだということは」
ソーマは椅子に座りホログラムで構成された擬似的な窓を眺めながら呟く。
そこにはヴァルハラの外を覆う分厚い雲だけが映されていた
「だけどねトニオ。
メカニカルワルキューレやアトラスは……言わば国連の被害者なんだ。
僕達国連は、平和を唄い武力を憎み調和を重んじる……それを信念にここまで来たわけだけど、結局はプロメテウスやティターニアと言うテロ組織に対抗すら出来ず、内部にはガドルの様な悪が巣食ってしまった。
その結果彼ら彼女達は家を……国を、そして家族を失い、今こうして戦っている……その責任を、誰かが取らなきゃいけないんだ。」
ソーマの瞳を見て、トニオは彼の思いを理解してしまった。
「なら……せめて……せめて俺には……言ってくださいよソーマさん……」
苦しげに零すトニオにソーマは笑みを浮かべる。
「そうだね……すまないトニオ。」
二人が互いに、思う所はあれど温かな表情を浮かべた時、突然二人の部屋の自動ドアが開く。
咄嗟にトニオは背中の銃に手を伸ばしソーマの前に出る。
しかし自動ドアの枠から顔だけ覗かせたのはアリアだった。
「よう!おっさんズ!質問良いか?」
「なっ…!君は……誰の許可を取って……」
トニオはアリアの行いに驚きと、その無神経さに若干の怒りを露わにする。
「ん?扉に入るなって書いてなかったんでな!とにかくさ、質問良い?」
「あぁ……かまわないよ」
ソーマはトニオの銃手で抑えトニオを下がらせる。
「ありがとうな!じゃっ早速
……ソーマさんはハカセの恋人なのか?」
アリアのド直球の質問に思わず気になっていたトニオもソーマを振り返った。
「えっ…い、いやぁ僕はそんな……
べ、ベルはたしかに綺麗で、真っ直ぐで……でも時折儚さを零す魅力的な女性だけど……
こ、個人的な感情は無くてだね、いや、あはは!」
ソーマのあからさまな反応にトニオはため息を零す。
「……否定が否定になってないですよ、事務総長」
しかしアリアはきょとんとした表情を浮かべる。
「そうなの?ハカセはそれなりに好意ありそうだったんだけどな……分かった!ハカセに脈無しって伝えとくわ!」
アリアが駆けていき、ソーマも急いで彼女を追った。
「ま、待ちたまえ君!!待って!?」
一人部屋に残されたトニオはため息を零す。
「……これからが思いやられる……」
全く先の見えない情勢にトニオはただホログラムの窓を見つめる。
そこには分厚い雲を抜け、森が広がっていた。
静寂の奥に、何かを待つように。




