第99話 邂逅
メカニカルワルキューレが国連事務総長であるソーマを警護している事、巨大な艦でアトラスの拠点に向かう事はヴァルハラのブリッジからアトラス側へ事前に伝えていた。
「承知しました。ヴァルハラ、指定ポイントに着水します。」
コトネがアトラスのオペレーターから指示されたポイントにヴァルハラを移動させるよう、スタッフに合図を送る。
そこは森の中にある湖だった。
波を立てながら、巨大なクジラは湖に半身を沈める。
陸ではアトラスの構成員と思わしき人影が慌ただしく機材等を運搬しているのが見える。
何より、武装したパワードスーツが陸地からこちらに向けてアサルトライフルを構えているのが分かった。
「歓迎されてる……って感じじゃねぇな」
アリアはモニター越しに映る複数体のパワードスーツがこちらを狙い定めるのを見て、クローを握り締める。
メカニカルワルキューレ側もアリア、リリィ、ディアナとルキアがメカニカルワルキューレを装着してアトラスの動きを見定めていた。
もし戦いになった場合接近戦と遠距離戦どちらも対応可能な人選だった。
「ティターニアと戦うためにそのティターニアの鎧を使う組織……」
リリィの眉間にシワがよる。
結局は奴らと何ら変わらない……少女達を改造した技術を使う組織でしかない……
リリィは嫌悪感を抱いていた。
「こちらはメカニカルワルキューレ総合責任者ベル。
こちらに戦いの意思はありません。
国連事務総長を保護しここまで送り届けに来ました。」
ハカセが珍しく丁寧な口調をしていることからもその意思が無いことは明白だが……
『あー、こちらはアトラスの指揮官、ダルケンであります。
……そんな巨大な戦艦で敵意が無いと言われてもなぁ……第一ティターニアにアンタらの動きを察知されている可能性もある。』
ぶっきらぼうにダルケンと名乗る男性は普段こういった場での発言に慣れていないのであろう事が言葉の節々から窺える。
「では……何故着水の許可を……?」
ハカセの声のトーンが下がる。
『……いやなに、そちらとうちとで"技術的交流"がしたいらしくてな』
この会話はオープンチャンネルで流れていた。
故にリリィの耳にもその会話は聞こえていた。
リリィは思わず通信に割り込んだ。
「交流……?少女を炉心にする技術を平然と使う人達と、いったい何を交流するっていうんですか?」
その問いを受け、ダルケンと名乗った男は笑った。
『はっはっはっ!!女子供だけの良い子ちゃん集団かと思ってたがガツンと言いやがる。
嬢ちゃん名前は?』
「メカニカルワルキューレ……ヴァルキリーの装着者、リリィです。」
『……そうか、お前さんが、あのプロメテウスを……ダルク・グリードを討ち取った、あのヴァルキリーか
良いだろう。
元々警護依頼を受けていたソーマ・ウェイスターとワルキューレの総合責任者ベル……あとヴァルキリーはこっちの司令室に来い。
こっちにアンタらに会いたいって聞かない聞かん坊が居るんでね。』
アリアがその言葉を受け抗議しようとしたが、リリィはアリアの肩に手を置き首を振る。
「大丈夫だよアリア。
ちょっと……いってくるね」
リリィはアリアから離れると鋭い眼光を瞳に宿し、アトラスの司令室に向かった。
アリアは通信越しに叫ぶ。
「……ダルケンとか言ったな。
もしハカセとリリィにかすり傷でもつけてみろ!
アンタらアトラスだか何だか知らねぇが、メカニカルワルキューレ総出で潰してやるからな!」
アリアの発言にダルケンは嬉しそうに大笑いすると両手を上げ降参のジェスチャーをしてみせるのだった。
ヴァルハラを出て陸に上がるとパワードスーツを着込んだ大男がハカセ達を出迎える。
「おう、俺がダルケンだ。
ソーマ・ウェイスターと……そっちは護衛のトニオだったか。
立ち話もなんだ、早速着いて来な」
ダルケンの後をついて行く。
後ろにはこれまたパワードスーツを着込んだ男性が付いてきている。
向かう先々でリリィの先ほどの発言が聞こえていたのだろう、アトラスの構成員達から抗議の目で睨みつけられる。
「……すまねぇな嬢ちゃん。
アイツらにも色々ある。まぁ…気にすんなよ」
ダルケンが部下達の視線に対し一応の謝罪をする。
「……私は……別に」
普段であれば礼儀正しいリリィの無礼な発言にハカセが謝る。
「リリィ……弁えなさい。ダルケンさん。先ほどの無礼……済まなかったわね。」
「んまぁ、嬢ちゃんの言い分は御尤もなんでな。お互い気にしなさんな」
ダルケンのその言葉を受け、リリィは無言のまま視線を落とした。
そして通路の一番奥。
その場で止まった所を見ると、ここがダルケンの言ったアトラスの司令室の扉なのだろう。
ピッ……ピッ……という規則正しい電子音が微かに聞こえる。
それを聞いたハカセが一瞬だけ眉を動かす。
機械技術全般に長けたハカセだけが医療機器の音だと気付いた。
ダルケンが扉を開ける。
「───おい、お前さんの言ってた"客人"を連れて来たぞ"博士"」
扉の先にはこちらに背を向けた長い髪の女性……いや、少女が座っていた。
少女は椅子……車椅子を翻すとこちらを向いた。
アルビノを思わせるほど色素の薄い肌と、淡いブロンドの髪。
そして薄い水色の瞳がこちらを見据える。
「あぁ……ずっとお会いしたかったですわ、
ベル博士……
……そして、リリィ」
その言葉と同時に、司令室のドアが大きな音を鳴らして閉じた。




