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メカニカルワルキューレ ─未来を取り戻す物語─  作者: ハムスターマン
第三章 ティターニア編
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第98話 アトラス


家と家族を失いながらも、ヴァルハラの皆は少しずつ前を向き始めていた。


怒りもあるだろう、悲しみもあるだろう。

しかし根底にあるものは違えど、

今こうして船を動かす皆の思いはより強固に一つに定まっていた。




───ティターニアを……ガドルを倒す。




皆の思いが定まったことで棚上げしていた疑問に目が向けられていた。



アリアは勢いよく質問をぶつけた。


「まず、ハカセとおっさんの関係は!?」


「おっ……さん」

ソーマの顔に影がかかる。

政治界では肩を並べる者もいない若き天才と言われているが、十代のアリアから見れば完全なおじさんであった。


「……ソーマとは」

ハカセが口を開き、その場の皆がバッと視線を向ける。


「まだ私がメカニカルワルキューレを世に出す前に知り合っていたの。

私の考えに……ある程度賛同してくれていて、以前からメカニカルワルキューレの活動資金援助をしてもらっていたのよ。」


ハカセの言葉を聞き、ソーマのSPトニオはギョッとしていた。


……国連事務総長という立場で謎の無国籍武装勢力に資金援助をしていた事が世に知れたら、ソーマの国連での立場は完全に終わる。


───きっとここで繰り広げられるであろう会話は録音でもされていたらそれこそ終わりだろう。

“敵は戦場だけにいるとは限らない”


それが分かっているのかとソーマに抗議の視線を送る。


ソーマもその視線を受け、目を伏せる。

幾らハカセの在り方を美しいと、素晴らしい技術力を絶やしたくないと思っていたとしても……


国連という世界の秩序を守るべき立場であり、

その口で平和を語る裏で“友人を助けるためだ”と理屈を並べ、武装勢力に支援を続けてきた自分の行いは、

実質テロの助長と何ら変わらない……いつかメカニカルワルキューレが矢面に立たされた時、自身が断罪される覚悟をソーマはずっと持っていた。


「……覚悟はしていたつもりだよ……トニオ」


ソーマのその言葉にトニオは語気を強める。


「いいえ……いいえ!貴方は何も分かっていない!今の混迷する世界には、貴方の様に心から世界の平和を思える人間が必要なんです!……だと言うのに……こんな……」


そこまで言ってトニオは周りのワルキューレを見渡す。


自身とソーマの命を救ってくれたことには感謝している。


しかし、そもそも───彼女達メカニカルワルキューレがいなければ、自分達が命を狙われることも無かったのではないか……

そんな考えが一瞬、胸をよぎる。


だが次の瞬間、コトネの言葉が脳裏に浮かぶ。


"戦争が生んだ孤児の集まり"


トニオは強く歯を噛み、視線を落とした。


「……一つよろしいでしょうか?」

そこに真面目モードになったディアナが手を上げる。


「……僕に答えられる事なら」

ソーマはディアナを見つめる。


「貴方達は無人機に襲われながら、あんな小型飛行機で何処に向かっていたのですか?

ラボに応援に……という訳では無いですよね?」

ディアナのその問いはもっともだった。


逃げるにしてもあんな飛行機だけでは撃ち落とされるのは時間の問題だっただろう。


ソーマは一呼吸置き、口を開く。


「対ティターニアの特殊傭兵部隊"アトラス"……

僕とトニオは彼らの元に行こうとしていた。」


「アト…ラス……?」

リリィが復唱する


「……もはや国連加盟国が百パーセントになった今、国家は動けない。いや、動かない。


……だから僕は、国家に属さない力を頼ろうとした。

君達ワルキューレの様に、メガミドライヴを動力とする武装集団……


僕は秘密裏に彼らとコンタクトを取っていたんだ。」



それを聞いてリリィの視線が冷たいものになる。

「メガミドライヴ……?

他勢力が使うネガ・メガミドライヴと私達のメガミドライヴを一緒にしないでください」



その言葉を受け、トニオは純粋な疑問をぶつける。

「メガミドライヴとネガ・メガミドライヴ……何か、違うのか?」


トニオが何気ないその問いを口にした瞬間、リリィ以外の他のワルキューレ達の空気も変わる。

トニオもその変化に思わずたじろぐ。


トニオの認識では、メガミドライヴ……それは少女の脳を組み込む非人道的兵器でしかなかった。


しかし、今の彼女達の視線から、それだけではないことは明白だった。



「……ティターニア……その前身のテロ組織プロメテウスがハカセの開発したメガミドライヴのデータを盗み、ねじ曲げ、歪めたものが今世界に満ちているネガ・メガミドライヴです。


本当の……私達メカニカルワルキューレが使用するメガミドライヴは、魔力結晶と適合した少女だけが起動できる、そんなエネルギー機関です。」

メガイラは空中にホログラムを展開して見せた。


「……私達、メカニカルワルキューレは戦争を無くすため、身勝手に改造され、殺戮兵器に変えられた少女達を"救う"為、戦ってます。」

リリィはソーマとトニオを真っ直ぐ見る。

そして他のワルキューレ達も二人を見る。 


そこでトニオは部屋のワルキューレ達を見渡す。


皆が一様に少女には似つかわしくない覚悟を瞳に宿していた。



トニオはここで理解した。


彼女達は悪い大人の口車に乗り兵士に育てられた哀れな被害者なんかではない。



一人一人が世界の為、人々を守る為に立った本当の戦乙女なのだ……と。



それを受けソーマは口を開く。


「……君達ワルキューレの覚悟はちゃんと理解しているつもりだよ。


僕がベル……君達の言うハカセの力になると決めた理由もそこにあったから。


……だけど、国連過激派勢力……ガドルに対抗する為には、君達ワルキューレだけじゃ……足りないのも……理解して欲しい……」



──言い返したかった。しかし言葉は出ない。


数時間前ラボを守りきれなかった事が頭を過ぎり、リリィやアリア、ワルキューレ達は歯を食いしばる。


たしかに、自分達だけでは大切な家も、家族すら守れなかった……

力が、手数が足りなかった……改めて突き付けられる、認めたくない事実にどうしようもない悔しさが込み上がる。


「……あと、これは言い訳では無いけれど、

アトラスは、ネガ・メガミドライヴに改造された少女達の家族で構成されている特殊傭兵部隊なんだ。

……彼らもまた、これ以上悲しみを広げない為に戦っている。」


そういうとソーマはホログラムに展開された地図を触れる。


「彼らとの合流座標はここ。

……僕達はここに向かっていたんだ。」



「……わかったわ。

これよりヴァルハラを目的ポイントに向かわせます。

皆、思う所はあれど、意見は……無いわね?」

ハカセが皆に視線を送る。


思い思い言いたいことはある。

しかし、口にしたとして勝てる道理が無いのもまた事実。



リリィ達はゆっくりと首を縦に振る。



ハカセの号令の元、ヴァルハラはゆっくりと舵を切り、アトラスの待つ森に向かった。




アトラスという存在を見定める為に……

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