第95話 理想と現実と
小型飛行機のパイロットであり、ソーマ直属のSPを務めるトニオは気が気ではなかった。
ティターニアと戦い続けている謎の武装勢力。
それがメカニカルワルキューレへの一般人としての認識であり、まさかこれほど巨大な輸送艦を有している組織だとは思っていなかった。
何よりもメカニカルワルキューレが扱うらしい特殊エネルギー機関"ネガ・メガミドライヴ"の仕様は見させてもらった事がある。
ガドルの様に彼女達が絶対の悪とは言わないが、少なくとも、非人道的組織である事は間違い無いと思っていた。
そしてトニオが見たメカニカルワルキューレ……そこで働く少女達が幼いことに胸を締め付けられた。
───これでは、まるで少年兵……
すれ違うスタッフ達が皆十代前半から後半の少女しか居ない艦内に、トニオは先ほどソーマが親しげに"ベル"と呼んだ女性が断罪されるべき異常者にしか思えなかった。
更に、トニオには理解出来ないことがあった。
少女達は国連の一部過激派が下した決断に気落ちこそしている。
だが───
すれ違う彼女達は互いに笑い合い、なんてことのない世間話を交わしながら、それぞれの作業を、何事もないかのように淡々とこなしていた。
いつの間にか、ソーマのSPという立場すら忘れていた。
思考に沈んだまま、トニオは───
コトネと名乗った少女に案内され、気が付けば司令室の前にいた。
「ハカセ。国連事務総長ソーマ・ウェイスターさん、後彼のSPのトニオ……すみません、トニオさんはミドルネームはなんて言うんですか?」
ノックの後、コトネと名乗った少女は首を傾げながら問いかけてきた。
メカニカルワルキューレと言う組織は、トップに対して、このような砕けた態度が許されるのか。
トニオは訝しげにコトネを見た。
「ブレイス……」
トニオが渋々と名乗るとコトネは可愛らしい笑顔をトニオに向け礼をした。
その笑顔に思わずトニオはドキっとした。
「ありがとうございますトニオさんっ。では改めて、ハカセ。ソーマ・ウェイスターさんとトニオ・ブレイスさんをお連れしました。」
そうして自動ドアが開きトニオの目に映ったのは妙齢の美しい女性だった。
「……聞きたいことはお互い沢山有るでしょう。とにかく……メカニカルワルキューレようこそ。ソーマ……トニオ君。」
ハカセはデスクから立ち頭を下げた。
「あぁ…ベル!本当に良かったよ!ガドルの攻撃でラボが更地になったと聞いて……」
自身が守るべきソーマが、ベル──ハカセへと歩み寄ろうとするのを、トニオはその身で制した。
「いけません事務総長っ…この様な……」
そこまで言ってハカセの方を向いたトニオは言葉に詰まる。
───確かに綺麗な女性だ。
だが、それ以上に──
目元の赤さが、つい先ほどまで泣いていたことを物語っていた。
「ごめんなさいね……こっちも色々バタバタしてて……」
トニオは、ハカセの“らしくない”姿を前に、手を下ろした。
するとソーマがトニオに言った。
「すまないトニオ……この後ちゃんと説明する。だから、彼女と二人きりにしてくれないかな。」
「しかし……」
トニオは反射的に言いかける。
「トニオ……友として……頼む。」
ソーマの真っ直ぐな瞳
「……五分です。それ以上は、待てない。」
それだけ告げ、トニオは背を向け部屋を出た。
「ありがとうトニオ……」
部屋を出るトニオをソーマは温かな瞳で見送った。
───
トニオが司令室から出るとコトネが居た。
「あ、トニオさんは外で待機ですか?」
「……」
コトネの問いに対しトニオは反応せず後ろで手を組み待機を始める。
「……お二人ってどんな関係なんですかね?」
緊張感の感じさせないコトネの問いにトニオは目を瞑り無視を決め込もうとする。
「えっと…あの、何か……怒ってますか?もし気に障ったのなら……」
「……はぁ……」
トニオは深く息を吐く。
腕時計の針は、まだ一分も進んでいない。
「……君達は、いったい何なんだ。」
「えっ?」
「……メカニカルワルキューレは所属不明の武装勢力。
特定の国や組織に属さず無人機等の無差別テロに対し武力を持って征する謎多き存在……のはずなのに」
そこまで言ってトニオは視線を道の角に向ける。視線の先、廊下の角から複数の銀の鎧を身に纏った少女達がはみ出している。
角から「やべぇディアナ!バレたぞ!」だとか「アリアが顔出しすぎなのよ!」と言った声が聞こえる。
「えっと……私達は……」コトネは一瞬だけ、廊下の角に視線を向ける。
コトネが言葉を発したのでトニオは再びコトネの方に視線を戻す。
「私達は、メカニカルワルキューレは1日でも早く戦争を無くすために……戦っています。」
それを聞いてトニオは解釈した。
つまり彼女達は戦っていればやがていつかは平和になる……そんな口車に乗せられているんだ……と。
「コトネ……だったか。君は自分の発言に矛盾があると分かっているのか?
真に平和を望むなら今直ぐ武器を捨て、国連の庇護に入るべきだ。」
トニオは自分の考えこそが正義であり正しいと疑わなかった。
───しかし
「でも、私達は……ここに居る皆は……そんな国連の庇護の元、皆戦争孤児になりました。」
「なっ……」
トニオの喉が鳴る。
反論の言葉が……見つからない。
「……国連は平和と調和を重んじる。それは素晴らしい理念だと思います。
………確かに、武器を持って武器を壊すのはおかしいって、皆理解してます。」
それまでの柔らかな表情は消え、コトネは真っ直ぐトニオを見据える。
「でも、どんなに苦しくても、戦わなきゃ守れないものも、確かに有るから……
これ以上、私達の様な存在を生まないためにも……私達は戦い続けます。」
そこまで言って、コトネは再び笑顔を浮かべた。
「……そろそろ五分ですよ?」
コトネのその言葉を受け自身の腕時計を見ると確かにそろそろ五分が経過しようとしていた。
「……ごめんなさいトニオさん。年下の私が偉そうに言っちゃって……でも今は、私達が戦う事、止めないでください。」
コトネはそう言うとお辞儀をしてその場を去るのだった。
一人残されたトニオは、何も言えずその場に立ち尽くす事しか出来なかった。
───俺は正しい筈だ。
武器を持ち平和を成そうなど、やはり間違っている。
───だけど、正しさだけで塗り固めた俺の理想もまた、ただの理想でしか無いのかもしれない。
そう、思ってしまった。
主人公が出ない!




