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メカニカルワルキューレ ─未来を取り戻す物語─  作者: ハムスターマン
第三章 ティターニア編
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第91話 敗走と産声


リリィとアリアがメカニカルワルキューレを身に纏い、同時にカタパルトから射出され空を舞うと、空では既に激しい戦いが繰り広げられていた。


砲撃能力の高いルキアは飽和攻撃でミサイルの直撃を抑えてはいるが、それすら掻い潜ってラボに迫るミサイルをディアナが狙撃する。


しかし第一波、第二波と波状攻撃は止まる気配を見せずジリジリと防衛網が狭められている。


無数に展開された無人機もラプターでは無く、既に型落ちのハウンド達のため、一機一機は相手では無いが、一人が相手にする数が多すぎる。


「クッソが!!」

アリアは爆発の中に飛翔しクローで同時に二機を貫き、自身の後ろのハウンドを蹴り飛ばし別の機体にぶつける。

しかし相手から返ってくるのは倍以上の猛攻。

更に自身が無人機の相手をしている間にもラボに向かう無人機やミサイルが止まらない。


「クソクソクソ!!ガドルゥ!!」

アリアはハウンドに全身の装甲を掴まれつつも無理やりスラスターを吹かせ薙ぎ払う。


ノアとメガイラも互いに背中合わせになり自身の切り札を惜しみなく使うが押し寄せる無人機の群れに力負けし始める。

そしてお互いを庇いあうために共に被弾し始めていた。損害は未だ軽微。

しかし確実に蓄積している。


ミレイナやソフィアといった現ワルキューレの中でもトップクラスの力を持つ者ですら数に圧倒されジリジリとダメージが蓄積されていく。

「か、数が多すぎる……」

ミレイナはサムライソードで敵機を一機一機着実に切り伏せるが次々に押し寄せる無人機に本来の、彼女の戦いを出来ず歯噛みする。


「ガドルがここまでとは思わなかったわ…っ!!」

ソフィアは出力温存の為高い性能を引き出せず、ただ自身らの無力さを痛感していた。



その時、シェルターに避難したコトネから緊急無線が入る。

『メカニカルワルキューレ各機に告げます!今、気化ミサイルが放たれました!!なんとしても食い止め……』


それをハカセが遮る。

『いいえ……メカニカルワルキューレ全機、撤退よ……気化ミサイルを一発止められたからといって今の私達に勝ち目は無いわ。』


「しかしハカセっ!撤退にしてもラボがっ!私達の家がっ!」

ディアナは普段の冷静さをかなぐり捨て、涙ながらに叫ぶ。


『ラボは……』

ハカセの声が少し震える。

『ラボは現時刻を持って廃棄します。私達は……負けたのよ……』

一瞬だけ、回線の向こうで息を呑む音が重なった。


皆の日常が、思い出が詰まった家。

どんなに苦しく辛い戦いだったとしても皆がいるラボがあったからこそここまで戦えてこれた。


そんな彼女達の家が今、炎に飲まれていく。


リリィは涙を浮かべながらミサイルも無人機も薙ぎ払いつつ言葉を発さない。


受け入れたくなかった。また、失うのかと。


一度失った"故郷"を再び暴力により奪われたくなかった。


───それでも、撤退までのリミットは刻一刻と迫っていく。


そこにフィレアが叫ぶ。

「リリィ!!ハカセの声が聞こえなかったの!?早く逃げんのよ!」


その言葉にリリィは涙ながらに振り返る

「だって……まだ負けてないんだよ!?」


「私達は負けたんだよ!!」

ワルキューレとして最年少のフィレアが叫ぶ。


「一番強いアンタでも駄目なんだから……しょうがないでしょ!?」


「でも……もう失いたくないよ……」

戦場のど真ん中で子供の様に無くリリィを蛇腹剣と尻尾で囲みながらフィレアは続ける。

「私だって……他の皆だって……失いたくないに決まってんじゃん。

でも、今逃げないと、もっと奪われちゃうよ!?」


フィレアのその言葉にリリィはハッとしてフィレアの背後に迫る攻撃を防ぐ。


「そう……だよね……ありがとう…フィレアちゃん…。

こんな先輩でごめんね」


「……本当だよ。全く」


フィレアとリリィは互いに背中を預け、ラボの地下に撤退し始める。


全てのワルキューレがラボの中に入った事を確認し、ラボの全シャッターを強制閉鎖。

一時凌ぎの時間を作る。特殊コーティングを施してあるとはいえ、物理的防御は、持って十数分といったところか。気化ミサイルが当たれば一撃だろう。




地下はそこまで破壊されておらず、リリィはひとまず安心するも、先に入っていたアリアに怒られてしまった。

「何安心してんだリリィ!!早くこっち来い!!」


アリアの顔を見て思わずリリィは駆け出し、そのまま飛びついた。


そんなリリィを見て、アリアも思わず笑顔を浮かべる。


その後ろからやれやれと言う表情でフィレアが続いた。




───ラボの地下、ハカセが拡張し、もはや迷宮の様になったそこの最深部に"シェルター"があった。


コトネとキュベレの指示で全員がそこに乗り込む。

どことなく座席の様な……と言うかまさに座席に座った。


……乗り込むは良いが、これからどうするんだろうか?籠城?しかしそんな猶予はないはず。



「全員そろったわね……それじゃあ大型移動シェルター"ヴァルハラ"、起動するわよ。」

ハカセの言葉を合図に部屋の明かりが明るくなり、そこが何なのか何となく理解した。


「乗り…物……?」


「そうよ。こんな事もあろうかと準備していたの。……まさかこんな早く使う事になるとは、思わなかったけれど」



自身の座席の前にヴァルハラと呼ばれたシェルターの全体図が表示された。

それはまるで、クジラの様な外観をした乗り物だった。


「ふっ。ハカセにしては悪くない外観だ……これは極東の"タヌキ"……だな?」

ナギサは腕を組み不敵に笑う。


「……クジラよ。」


「……そうか。」

ナギサは少し気落ちした声色をしていた。


そんなやり取りに、沈んでいた皆が少しだけ救われた気持ちになっていた時だった。

ヴァルハラの外にも火が上り始め、壁が崩壊を始めた。直ぐに発進する必要があるだろう。


しかし───


「……ハカセ。このままでは発進は難しいです。ヴァルハラ、こちらからの指示を受け付けません。」

端末を操作していたキュベレさんが言う。


「なんですって!?」


「……どうやら火入れに一度、内部端末と外部端末からの同時入力が必要です。これはヴァルハラが他者に奪われない為のセキュリティシステムです。」


「そうか……これは私のミスね。セキュリティの為に設けた設定が仇になったわ……。今から外に出て……」

ハカセは口に手を当て、自身の設計段階でのミスに自責しながら外に向かう。


「いいえハカセ。……私が行きます。」

キュベレが真っ直ぐハカセを見つめる。


「……何言ってるのキュベレ。貴女に耐熱耐性は無いでしょう。それにパスワードは」


「私の身体は生身のハカセよりは丈夫に出来ています。それにパスワードは、既にインプット済みです。」

キュベレは自身の頭を指差す。


そうしている間にも地下の崩壊は進んでいく。揺れがヴァルハラにも伝わってくる。

「ここで貴女を失えば世界は終わりますハカセ。」

キュベレは力強く言う。

それを受け、ハカセは押し黙る。


「では、行ってきますハカセ。ご安心ください。……必ず戻ってまいりますので。」


ハカセの伸ばした手が届くよりも早く、キュベレは外に出た。


キュベレが外部端末に着くと火は迫っているが、起動状態だった。


「良かった。これなら……」

キュベレが微かに笑みを浮かべた時だった。


キュベレの背後から今までに無い凄まじい爆音と衝撃が走り、瓦礫が地下に振り注いでくる。


───気化ミサイルが着弾したか……


その後、次々に無人機達が地下内部に入ろうとして来た。


更に崩れた天井の隙間からは太陽の輝きが差している辺り、既に地上は放たれた気化ミサイルにより更地なのだろう。


キュベレは端末に向き直すと手早くパスワードを入力して行く。

そしてヴァルハラの後部ハッチから自身を助けるべく出てこようとするワルキューレ達に無線越しに怒鳴る。

『貴女達は、ティターニアを倒す唯一の希望!この場に来てはいけません!!』


キュベレはワルキューレ用の武器スロットを網膜に展開、メガイラがかつて使用していたバインダーユニットを素早く展開し、背後の無人機達の攻撃を防いでいく。


『……私は魔力結晶と適合こそ出来ませんでしたが、ハカセがメカニカルワルキューレを開発する為に造った、言わばプロトタイプ。

……貴女達後輩に後れは取らないつもりです。』


それを聞いたナギサはキュベレの覚悟を受け止めた。

ナギサはそれまでキュベレをハカセの小間使い程度にしか見ていなかった。


しかしここに来て初めて、同じ一人の戦士として、ワルキューレとしてキュベレを見た。


ナギサは他のワルキューレ達がヴァルハラから出るのを手で防ぐ。

『貴殿の矜持、しかと受け取った……健闘を祈る』


そういうとナギサはハッチを閉じた。



そんなナギサの背中をミレイナやノアは黙って見守っていた。



『ハカセ……点火指示を同時に入力します。よろしいですね?こちらは問題ありません』


ヴァルハラのブリッジにキュベレからの無線が入る。キュベレに放たれている激しい銃撃の音も無線越しに聞こえる。


「……キュベレ…」


キュベレはハカセにとって特別な存在だった。

優秀な助手であり、亡き親友の姿を真似て造った人造生命体。


友を亡くし、喪失感を埋めんと藻掻いた末の存在……それがキュベレだった。


しかしあくまで外見と声を近づけた紛い物であり、彼女を見る度、友の死を侮辱した自身の罪を自覚してしまい、彼女の事を造ったハカセ本人が一番苦手だった。



そんなハカセが震える手で点火スイッチを入れる際、モニター越しに映るキュベレの口角が上がる。


『……やっぱり貴女は、笑っている方が似合います……。どうか貴女の、素敵な笑顔を絶やさないで』


それを聞いたハカセの目が見開く。

その言葉は亡き親友が最後に発した言葉


──せっかく可愛いんだから笑わないと──


を、彷彿とさせたから。


ハカセが勢いよくモニターを見るとそこには既にemptyの文字が浮かび上がっていた。


ブリッジの皆が黙り込んだ。


初めての仲間の喪失に誰も声を出せなかった。

これまで無表情ではあったが温かな食事を作ってくれたり、ベッドメイキングをしてくれたり、愚痴を聞いてくれた……そんなキュベレの喪失感はこの場の誰にとっても大きなものだった。



───しかし、確かに火は灯った。


低く、しかし確かに、鼓動にも似た振動が艦内を走る。

───そのクジラは、産声をあげた。

何となく、戦艦的なの出したいなーって。

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