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メカニカルワルキューレ ─未来を取り戻す物語─  作者: ハムスターマン
第一章 プロメテウス編
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第9話 買い出しと決意


今日はディアナさんとアリアが私の買い物に付き合ってくれることになった。


驚いたんだけどメカニカルワルキューレもとい、ラボで働いている人は皆給料が発生しているらしい。


…ハカセのポケットマネーらしいけどハカセって何者なの?ラボで働いてる人少なくとも40人は居たと思うんだけど…


私達はラボから遠くの街に来ていた。

そもそもラボが街から離れすぎていて遠くに来るしか無かった。


「今日は本当にごめんなさい。私の買い物に付き合ってもらっちゃって…」

私は申し訳なくてモジモジしてしまう。


「ん?別に暇だったし、アタシも欲しい物あるしな。」

アリアは気にすんなといつもの笑顔。


「そうよリリィ。水臭い事言わないの。私も楽しむから、ね?」

ディアナさんと言い二人が優しくて泣きたくなる。


「日用品だよな。確かに、身だけで来たんだもん服もないよな」

アリアは街を歩きながらキョロキョロとしている。

「アリアは何買いに来たの?」


「ん?化粧水切れそうだからさ」


「えっ…」


「んぁ?」


「アリア…化粧水とか使うんだ」


「……んだよ!その意外そうな顔は!アタシだって一応、女の子なんだっての」

アリアは少し頬を赤くして、ぷいっと横を向いた。


「ふふ、アリアはこう見えて美容には人一倍うるさいのよ? 毎日ラボの訓練で汗をかくし、機体整備のオイルで肌が荒れやすいからって」

ディアナがクスクスと笑いながら補足すると、アリアは

「余計なこと言うなよ!」と慌てて彼女の口を塞ごうとする。


そんな二人のやり取りを見ていると、彼女達がメカニカルワルキューレであることを忘れてしまいそうになる。


「…そう言うリリィは肌綺麗だけど何使ってんだよ!」


「確かに、実は気になってた」

アリアとディアナさんがぐいっと寄ってきた。


「えっ……あ、朝、顔ゆすいで…」


「「ふんふん」」


「……お、おしまい……ですけど…」


「それだけ!? 化粧水も、乳液も、美容液もなしかよ!?」


アリアが信じられないものを見るような目で、私の顔をまじまじと覗き込んできた。


「え、ええと……うん。元々そんなにお小遣いがなかったのもあるけど、今まで特に何も……」


「……恐ろしい子、リリィ。その若さゆえの細胞活性、メカニカルワルキューレの適性に関係があるのかしら……」

ディアナさんが真剣な顔で変な事を考え込み始めた。いや、そんな大げさな話ではないと思うんだけど。

「決まりだ。リリィ、今日はまずドラッグストアに行くぞ! 素材がいいのは認めてやるが、ラボの乾燥をナメちゃいけない。将来泣きを見ることになるからな!」


アリアにガシッと腕を掴まれ、半ば引きずられるようにして歩き出す。


「そうね。リリィに合う、低刺激でしっかり潤うやつを選んであげましょう。ふふっ、なんだか、楽しくなって来て来たわね…!」

賑やかな街の喧騒の中、私は二人に挟まれて、初めての買い出しへと本格的に繰り出した。


二人はすごく楽しそうで、だから私も楽しかった。


特に普段真面目で凛々しいディアナさんがいっぱいはしゃいでいてなんだか可愛いかった。


「見てリリィ! この石鹸、星の形をしていて可愛い! 香りも凄くいいし」


「あ、ディアナさん、あまり走り回ると危ないですよ……!」


ドラッグストアに着くなり、ディアナさんのテンションは最高潮だった。


いつもラボでテキパキと指示を出している姿からは想像もつかないほど、彼女の目はキラキラと輝いている。


「……あいつ、普段はああやって我慢してるからな」

アリアが苦笑いしながら、カゴを片手に私の隣に並んだ。


「我慢?」


「おう。あいつは最年長だし、なんて言うかリーダー格だろ? ラボじゃ『隙』を見せられないんだよ。だからこうして外に出た時くらい、ハメ外させてやってくれな」

アリアの言葉に、胸が少しキュッとする。


みんな、戦うために自分を律して生きているんだ。


でも今は、ディアナさんが手に取ったばかりのラベンダー色の石鹸を、本当に嬉しそうに鼻に近づけている。


「リリィ! こっちの化粧水は『超しっとり』タイプよ! あなたの肌を守るにはこれが一番だと思うの!」


「あ、はい! ありがとうございます!」

呼ばれて駆け寄ると、ディアナさんが私の頬をぷにぷにと突っついた。


「いいわね、瑞々しくて。……よし、今日は私が全部選んであげるから、覚悟しなさいね?」


「ええっ、お手柔らかにお願いします……!」

結局、ドラッグストアだけで一時間。


その後に行った服屋でも、ディアナさんは

「リリィにはこの色が映えるわ」

「こっちのデザインも捨てがたいわね」

と、まるでお祭りにでも来たかのようなはしゃぎっぷりだった。


「ふぅ……ちょっと休憩するか」

アリアの提案で、私達は山のような紙袋を抱えてカフェに座り込んだ。


ディアナさんは少し顔を赤くし、ハンカチでオデコを拭きながら

「……少し、はしゃぎすぎてしまったかしら」

と、ようやくいつもの冷静さを取り戻したようだった。


「いいえ、私もすごく楽しかったです。ディアナさんのあんな笑顔、初めて見ました」

私が正直に伝えると、彼女は少し照れくさそうに、でもとても優しく微笑んだ。


「ありがとう、リリィ。……あなたといると、なんだか、妹を思い出しちゃって……」

妹と言った瞬間ディアナさんの表情は暗いものになった。

「妹……さんですか?」


「ええ。もうずっと昔に亡くしたけれど……あなたが一生懸命に私の話を聞いてくれて、嬉しそうに笑うから。つい、ね」

その瞳には、いつもの凛々しさとは違う、深い喪失感と、それを包み込むような慈しみが混ざっていた。


メカニカルワルキューレとして戦う彼女たちは、皆どこかで「大切なもの」を失った戦争孤児だと聞いた。


ディアナさんにとっての「妹」という存在の重さが、その一瞬の静寂から伝わってきて、私は胸が締め付けられるような思いがした。


「……まーたディアナのしんみりモードが始まった。ほら、せっかくの休みなんだから! 甘いもんでも食って景気付けようぜ」

アリアがわざとらしく明るい声を出し、メニュー表を広げた。


アリアだって、きっと同じような傷を抱えているはずだ。それでもこうして笑っている。


ディアナさんも「そうね、ごめんなさい」と言って、いつもの優しい、けれどどこか強さを感じさせる微笑みに戻った。


本当は私は今、必死に、カラ元気で明るく振る舞っているけれど、家族を忘れた日はない。

きっと忘れる日なんて来ないんだ。

皆も、もしかしたらハカセだって……今こうして街を歩いている人達にもそんな悲しみは絶対あって……


「……私、闘います」

急に闘うと言った私を二人は驚いた表情で見てくる。

「これ以上、誰かの大切なものを理不尽に奪わせない為に、メカニカルワルキューレとして。」


カフェのテラスに、一瞬の静寂が流れた。


ケーキの甘い香りも、街の賑やかな喧騒も、今の私の耳には届かない。


ただ、自分の心臓の音と、握りしめた拳の震えだけが伝わってくる。

二人は目を見開き、私をじっと見つめていた。


「……リリィ」

先に口を開いたのはディアナさんだった。彼女はゆっくりと手を伸ばし、私の震える手を両手で優しく包み込んだ。


「その言葉、けして忘れないで。でも……一人で背負おうとはしないで。私達が戦うのは、誰かのためであると同時に、あなたのような子が笑っていられる世界を守るためでもあるのよ」


アリアはふいっと視線を逸らし、乱暴に私の頭をガシガシと撫で回した。


「……ったく。買い出しの途中に言うセリフかよ、湿っぽくなっちまったじゃねーか。……まぁ、あんたがその気なら、アタシもしっかり扱(しご)いてやる。足手まといになったら、その時は置いていくからな」


「アリア、言葉がキツいわよ」


「へーへー、わかってますよ。じゃあこれ食べたら帰ろうぜ、リリィ」

アリアの横顔が、少しだけ誇らしそうに見えたのは気のせいだろうか。


私たちは山のような荷物を抱えて、小型のハカセ製の飛行機に乗り込んだ。


窓から見える街の灯りは、どこまでも美しく、そして脆い。


この景色を、誰かの妹や、誰かの家族から奪わせない。


ハカセから借りた軍資金(クレジットカード)で買った新しい服と、小さな決意。


それを抱えて、私は私達の戦場――ラボへと帰っていった。


「は……?25万……!?」

は、ハカセ……ごめんなさい。


私はうつむき、隣ではアリアとディアナさんが揃って顔をそらし、「ピ~……ピピュ~……」と、お世辞にも上手いとは言えない口笛を吹き始めた。

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