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メカニカルワルキューレ ─未来を取り戻す物語─  作者: ハムスターマン
第一章 プロメテウス編
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8話 メガイラ


───私は…このラボで生まれた。



私は……ハカセが、魔力結晶の持つ特殊な精神干渉に対抗するために造り出した存在。


──魔力結晶。



それはメカニカルワルキューレのエネルギー機関、メガミドライヴの核であり、太古の昔に存在したとされる未知の存在『女神』の残滓とされる未知の物質。



人類に無限のエネルギーをもたらす『女神の抱擁』であり、同時に人の精神を内側から焼き尽くす『呪い』でもある。



人が元来持つ様々な感情を増幅させ、或いは反転させ、執着を狂気に変え、最終的には自我を崩壊させる。



かつてハカセが、その手で親友を殺すことになった理由。



その精神干渉を受けないよう、ハカセの遺伝子を使い無垢な魂として生産されたデザインベイビー……それが私。


いわば、魔力結晶という猛毒を扱うための、「テストベッド」。



私が女性に設定されたのは魔力結晶は女性にのみ適合すると言う特徴を持っていため。



現在、このラボにいる適合者の中で、私が最も「安定」している。



けれど、メガミドライヴの稼働率は、少し前にラボを訪れたリリィの足元にも及ばない。



───分からない。



訓練は私が5歳の時から行ってきた。



そうだと言うのに、後からラボに訪れたディアナ、アリアにも私は稼働率で劣る。



───私の、存在価値が揺らぐ。




ハカセは私に、完璧な「計算」を与えた。


無駄な感情を排し、魔力結晶の毒を中和し、常に一定のパフォーマンスを維持する。



それが、メガミドライヴ、そしてメカニカルワルキューレを操るための、唯一無二の正解(最適解)であるはずだった。




……けれど、リリィは違う。




彼女は「怖い」と震えたのに、「守りたい」と叫び、計算値を大きく跳ね上げた。



「……意味が、分かりません」



食堂の片隅で、私は何も食べることなくスプーンを持ったまま呟く。



隣では、アリアとディアナがリリィを囲んで笑っている。


彼女たちの精神は不安定で、脳波は感情の起伏によってノイズだらけ。


効率を求めるなら、あれは「エラー」でしかない。

なのに、なぜ。


なぜ、洗練された筈の私の機動を、彼女の「がむしゃらな一撃」が凌駕する?



───ハカセの理論は正しいはず。


私の設計は正しいはず。



なら……リリィという存在は、この世界における「バグ」なのだろうか。





「メガイラちゃん、これ、食べる?」

思考していた私の前に黄色い丸が現れた。


オムライス……存在はデータとして知っているそれをリリィは私に渡してきた。


リリィ……私が始めて見た彼女の評価は、戦士では無くオペレーターがふさわしい。


それが、初めて見た時の私の結論だった。


華奢な体躯、虚ろな瞳、そして何より、兵器を扱うには過剰すぎるほどの情緒。





……でもラボで始めて私の話をずっと聞いてくれた存在。




私の口から出るのは、機体の稼働状況や魔力結晶の波形データ、効率化のための進言ばかり。



周りの人たちはそれを「正常な作動」として聞き流し、ハカセは満足そうに頷くだけだった。



けれど、リリィは違った。



彼女は私の無機質な報告を、「うん、うん」と、まるで物語でも聞くように一生懸命に聞いてくれた。


おそらく半分も理解出来ていないだろう。



でも……私のシステムが弾き出す冷たい数字を、彼女は柔らかな相槌で受け止めた。



「メガイラちゃんの声、落ち着くから好きだよ」



そう言って笑った彼女の言葉を、私のデータベースはどこに分類すればいいのか分からなかった。




「……聞いたんだ。メガイラちゃんメカニカルワルキューレになる為にずっと訓練して頑張って来たんだよね。」



リリィのその言葉に、私の思考回路が一時的にフリーズした。


頑張る……。



目標達成のために自己の全リソースを投入することを指す、不確かな概念。



私にとって訓練とは、設定されたカリキュラムを消化し、精度の向上を確認するだけの「タスク」だ。



そこに主観的な苦労など介在する余地はないはずだった。



「……私は、ハカセのカリキュラム通りに動いているだけです。


頑張るという定義には当てはまりません」



私は平坦な声で否定した。



けれど、リリィは引かなかった。


彼女は自分の皿から目を離し、真っ直ぐに私を見つめた。



「ううん。5歳からずっとなんでしょ?


私ならきっと辛くて泣いちゃうと思う。


それを続けてきたのは、メガイラちゃんが凄いからだよ。……本当にお疲れ様」




───お疲れ様。



その言葉が、私の耳の奥にこびりついて離れない。



ハカセから与えられた「正常」という評価よりも、ずっと深く、私のシステムを侵食していく。



感情を排したからこそ「安定」している私。



感情があるのに「最強」に至る彼女。



私の存在価値は、彼女のようなバグを排除し、ハカセの計算を証明することだったはずだ。



……なのに、どうして。



彼女に認められたことが、稼働率の上昇などよりもずっと、私の内側を温かく満たしていくのだろう。



「……リリィ、あなたは非論理的です」



私はそう言って、彼女が差し出したオムライスを一口、受け入れた。


ケチャップの味が、計算式を全て塗りつぶしていく。



きっと……今の私の稼働率は、かつてないほど不安定で。



だけど、始めて口にしたオムライスはデータで想定したよりもずっと美味しかった。

魔力結晶とは簡単に言えば女性用パワードスーツを正当化させる為のご都合物質である。

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