第81話 勝ちたい
試合開始のブザーが鳴り響く。
アリアがクローを構えるのを確認し、
メガイラもまた、細身の剣を右手に構える。そして同時展開させたエネルギーバインダーを左半身に密集させ、盾を構える騎士の様な構えを取る。
「……第一試合の時も思ったけど、メガイラもだいぶ剣の扱いにも慣れたんだな」
アリアは構えを解かず、真っ直ぐメガイラの瞳を見据えながら話す。
「これでも私……最近は、一部の人達から
"戦火を翔る白亜の流星"って言われてるんですよ?」
メガイラもまた、フランクに言葉を返すが、アリアを見つめる視線は揺るがない。
「は、はくあのりゅうせい!?お、お前……」
アリアは思わず聞き返してしまう。
メガイラが若さ故、妙な方向に行っているのでは無いかと気になってしまう。
「わ、私から自主的には言っていませんよ!国連の一部兵士達や、助けた一般人の人達が勝手にっ!」
顔を赤くしたメガイラを見て、アリアは安心する。
先ほどのピリついた空気より、やはり彼女達とは明るい試合がしたい。
───殺伐とした死線は戦場だけで十分だ。
張り詰めた空気を断ち切るように、アリアはわざと軽い口調で言った。
「よし、トーナメントで勝っても報酬とかないしよ。賭けしないか?」
アリアの突然の発言にメガイラは困惑する。
「賭け……ですか?」
「せっかく勝ち負けがハッキリするんだしさ。この試合で勝った方は一つ願い叶えるってのはどうよ?」
「……アリア、ふざけているんですか?これは……」
「……"試合"だメガイラ。そこだけは───
絶対に履き違えるな。」
アリアの言葉にメガイラは思わずたじろぐ。
───別にアリアを殺そうとは思っていなかった。
ただ、確かに、私はこの試合で勝つのでは無く、アリアを打ち負かそうと考えていた。
ここでアリアを倒し、その背中を越えようと。
それを見透かされた様で、私の心は、試合が始まる前に負けそうになる。
「……あぁ、ごめん、別に深い意味ないんだけど、なんかメガイラ、ピリピリしてたからさ」
「……勝ちたいと」
「ん?」
「勝ちたいと思うのは、越えたいと思う事はいけない事ですか?」
メガイラは苦しげな表情を浮かべアリアを見つめる。
「いや?アタシも負けたくないし、越えるべきものがあるなら越えりゃ良いさ。」
アリアはきょとんとした表情で返す。
「けどな」
「……仮に、アタシを越えたいってなら、そんな重々しい感じじゃなくて、楽しく越えていって欲しいよ」
「それになメガイラ───
お前がどう感じてるか知らないが、お前はアタシになんか劣ってないし、立ってる場所もアタシの後ろじゃねぇ……ずっと隣に立ってたはずだぜ」
「えっ……」
「……アタシに出来ない事をお前はずっとしてくれてるだろ?」
アリアは自身の装着しているスーツを叩いた。
ワルキューレの装備の整備等はメガイラがハカセと共同で担っている。
その言葉を聞いて、劣等感等で思い詰めた表情だったメガイラの顔に光が差す。
「……それでもまぁ、一人のワルキューレとして……どうしてもアタシに勝ちたいってんなら、
メガイラの全力でかかってきな。
アタシも、自分が出せる全力でお前にぶつかるさ」
アリアは膝を曲げ、姿勢を低くしてクローを構える。
「……私が勝ったら、あの店のオムライスを奢ってください。」
メガイラもまた、右手の剣を力強く握りしめると再び構え直す。
「この、アタシに勝てたらな!」
アリアが笑顔で叫ぶと同時にアリアとメガイラは飛び出し、アリアのクローとメガイラの刃がぶつかった。
機体の基礎スペックの差からアリアが後方に弾かれる。
体勢を崩しながらも、反射的にアリアはメガイラの左半身を覆うエネルギーバインダーを蹴り上げ、バインダーごとメガイラを弾き飛ばした。
互いに弾き飛んだ二人が体勢を立て直しながら再び肉薄する。
アリアの両手のクローから繰り出される素早い斬撃の嵐をメガイラはバインダーで受けつつ、
刃を連続で突きだし、アリアの苛烈な連撃に反応してみせた。
アリアはその反応に口角を上げると、斬撃の速度を上げていく。
当初は拮抗していたかに見えた二人だったが、徐々にメガイラが後ろに押され始める。
メガイラは顔を顰め、歯を食いしばると、
四枚のエネルギーバインダーの中、一枚だけを左腕に残すと、三枚を三方向に飛ばし
アリアの背後、頭上、斜め下から同時にバインダーをアリアに射出した。
アリアは咄嗟に後方に飛ぶと背後から迫るエネルギーバインダーのみを切り裂き、無理やり後方に隙間を空け、強引に頭上と斜め下から迫ってきていたバインダーを回避してみせた。
「躱されたっ……!」
メガイラはまさか全方位から放った攻撃を一点突破して全て躱されるとは思っていなかった。
───三年以上戦場で接近戦のみで己を叩き上げたアリアだ。踏んできた場数が違う事を実感する。
メガイラの闘争心に再び火が灯り始める。
───やっぱり勝ちたい。この勇ましく素晴らしい戦士を、ただ一人の戦士として。
メガイラの正確な遠隔攻撃に舌を巻きつつアリアは思わず笑みを漏らす。
「へっ……最高じゃねぇか!メガイラ!」
アリアは開いたメガイラとの距離を、前方に跳躍して一気に詰め、二振りのクローで猛攻を繰り出す。
それをメガイラは複数のバインダーと自身の剣で全て受け、アリアの放つ迅速な攻撃に拮抗してみせた。
「ほう……あの速度に追いつくか。」
メガイラの反応速度の向上に試合を見ていたナギサは驚嘆していた。
「はい。まさか、アリア師匠の攻撃を真っ向から受け止めるなんて……」
隣で見ていたミレイナもまた、驚いていた。
だが……
「ただ、拮抗したとしても、アリアには、まだ上がある。おそらくこの試合……」
ナギサは結末を垣間見て、そっと目を伏せた。
───しかし、その時
轟音と共に壁に吹き飛んだのは。
アリアだった───




