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メカニカルワルキューレ ─未来を取り戻す物語─  作者: ハムスターマン
第三章 ティターニア編
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第82話 巨腕/ギガンティック・アーム


アリアは自身が何故壁に叩きつけられたのか理解出来ていなかった。


メガイラと対峙していた筈なのに、

吹き飛ばされる寸前、突如目の前が真っ黒な"影"に染まり、アリアは自身がそれを認識するより早く、反射的に腕をクロスさせ"それ"を防いだ。


───しかし、視界を覆ったそれは、影と呼ぶにはあまりにも“質量”を持っていた。



自身の腕部装甲が先ほどの一撃で既にダメージ限界だと言う事が網膜のホログラムに表示されていた。


アリアは改めてゆっくりとメガイラの方を向き、驚きと困惑の混ざった声を漏らす。



「デカい……腕……?」




「そうです……これは、私がアリアに届くための"奥の手"。


……アリアが神速で動くのであれば、回避出来ない程のサイズの攻撃を、至近距離で放つしかない。


私が、対アリア用に開発した新兵器……ギガンティック・アームです。」


「ギガンティック・アーム……」


アリアは壁から離れながら、メガイラの目の前に鎮座している巨大な腕を見る。



「すみません。アリア……私はやっぱり、貴女に速度では絶対に勝てません。


……だから私は、私のやり方で貴女を越えます。」


目を伏せつつ、メガイラは静かに宣言した。



「何、謝ってるんだよメガイラ。


アタシはさっき言っただろ?お前の全力で来いって……」


アリアは顔を伏せながらも口角を上げ──


「最っ高だぜっメガイラ!!」


そう言いながら顔を上げたアリアは満面の笑みを浮かべ、再びクローを構え直す。



メガイラはそんなアリアを見て目頭が熱くなる。


自身の選んだ道は、アリアと正面から斬り合う事を選ばず、卑怯だと断じられても可笑しくない作戦だった筈なのに……


それをアリアは最高だと言ってみせた。


「だけどな……」


アリアは構えたまま、スラスターを徐々に吹かせていく。


「そんなんで、アタシは止まれねぇぞ!!」


アリアは自身のスーツのリミッターを外すと、更に加速し巨大な腕に食らいついた。



───



それを別室で見ていたフィレアは怒りを露わにしていた。


「メガイラのあれ、何だよ!!超卑怯じゃん!あんなの!」


それを聞いた他の者も、口には出さなかったが、内心では同じ様な事を考えていた。



しかし、それをアリアのバディであるリリィだけが切った。



「……メガイラちゃんのあれは、卑怯なんかじゃないよ。」


それを聞いたフィレアはリリィを睨みつける。


「んだよ……アリアさんのおかげで生き残れたリリィ"先輩"」


含みを持たせた声色でリリィを先輩と呼ぶ。


先輩にあまりにも無礼な発言をした妹を、ルキアが咄嗟に止めようとするも、

リリィは優しげな表情のまま、ルキアに『止めなくていいよ』とゆっくりと首を振り目配せした。



「ごめんね……フィレアちゃん。


私……口下手だから、上手く言えないんだけど

さっきアリアは全力で来いって言ったの。


己の、全身全霊で……。


……だからメガイラちゃんは奥の手でそれに応えてみせた。


……何より、あの選択を、誰よりも悩んで選んだ筈のメガイラちゃんを、卑怯だなんて言わないでほしいな。」


それを聞いてますますフィレアは怒りが込み上がる。


しかし怒りの矛先はメガイラでは無く、自身の発言を否定し、元々好いていなかったリリィに向けられる。


「だいたいっ!いつもヘラヘラして弱そうなアンタが試合のシード枠だなんて可笑しいじゃん!!アリアさんが居なきゃ、どっかで死んでたくせに!!」


その発言に周りは困惑の色を隠せない。


あまりの発言にルキアは流石に止めようとするも、それでもリリィはそれを止めた。


「そうだね……確かに、私は弱いよ。救えた命より、取りこぼした命の方がずっと多いもん。自分が今生きてるのも、きっと偶然。」


そこまで言ってリリィは目を瞑る。


「でも、だからって、今もああして戦ってるメガイラちゃんの選択を貶す資格は、アリアが肯定した事実を覆す資格は、ここに居る誰にも無いはずだよ。」


真っ直ぐ向けられたリリィの瞳に、底しれない力強さを感じたフィレアは思わずたじろいでいた。


ずっと弱そうに感じていた筈のリリィに気圧される。


そしてフィレアは逃げるように立ち上がると背中を向けリリィに言い放った。


「じゃあ、そんなリリィ先輩がどんな無様な試合すんのか、ちゃんと見るから」


「……うん、フィレアちゃんが無様に感じないよう。精一杯、頑張るね」


リリィの発言に鼻を鳴らし、フィレアはその場を去った。



───



メガイラは困惑していた。


本来ならアリアはギガンティック・アームの一撃で沈む計算だった。


意識外から放たれる回避不能の攻撃を腕で防がれたのも驚いたが、

何よりも驚いたのは、アリアが嬉しそうな事だった。


「なんで……そんなに嬉しそうなんですか!?負けそうなのにっ!!」



「嬉しいに決まってるだろ!可愛い妹分が、今まさにアタシを越えようとしてるんだぞ?


アタシだって誰にも負けたくはねぇけど……とにかく嬉しいんだよ!!」

アリアのスーツは既にリミッターを外し、エネルギーを出し切り性能が下がり始めていた。


しかしアリアの目はけして弱らない。



目の前で自身を越えようとするメガイラの成長が嬉しかった。




───そして、アリアは遂にギガンティック・アームを切り裂くと、そのまま床に倒れた。


次の瞬間、床に崩れ落ちるその姿を見て、

メガイラは咄嗟にアリアを抱きしめた。



「まさか、ギガンティック・アームが壊されるとは、思いもしませんでしたよ……」



「ははっ……元々強かったくせに、更に強くなりやがって……ズルいぞ!」


そう言いながらアリアはメガイラの頭をクシャクシャに撫でた。



それを受け、メガイラはアリアの肩に顔を埋め泣き出してしまう。


───今回の試合でアリアを越えたとは思えない。


けれど、こうして隣で笑い合える事が何より嬉しいとメガイラは改めて気付けた。


「やっぱり、私、アリアが大好きです……」



「ん?おう、アタシも大好きだぜ!この野郎!」


アリアがメガイラの頭を更にクシャクシャにして笑い合う光景を見て、試合を観ていた皆は先ほどリリィが放った言葉を思い出した。



確かにあの二人の選択を貶す事も汚す事も間違いだ……と。



こうして第二ブロック第一試合は、自身の思いを曲げて自身を貫いたメガイラの勝利に終わった。



第二試合……ミレイナ対ソフィアが始まる。

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