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メカニカルワルキューレ ─未来を取り戻す物語─  作者: ハムスターマン
第一章 プロメテウス編
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第7話 初陣


スタッフさん達の歓迎会を中断してからの動きは凄まじく、先ほどまではまるで学校の様な和気あいあいとした賑やかで楽しい雰囲気だったのに、そんな気配は微塵も感じさせない、ヒリヒリとした空気がラボの中を覆い尽くす。


そんな重々しい空気が、これからプロメテウスとの戦闘が始まるんだという事実を、私に突きつけていた。


『各員、第一種戦闘配備!各員、第一種戦闘配備 !』

オペ子さん――コトネさんの声が、先ほど私に優しく微笑んでくれたのとは違い、今は鋭い刃物のように管制室に響く。


私は、アリアと共に格納庫へと走った。


「……リリィ、怖いか?」

横を走るアリアが、不敵に笑う。


「……うん…正直、怖くて仕方ない。でも……知っちゃったから……ここの皆の思い……私は皆が笑っていられる世界が良いから……だから、戦う」


「ははっ! 最高な理由じゃねえか。行くぞ、相棒。……遅れんなよ!」


私とアリアの身体を鋼の鎧が包み込む。


網膜に投影された擬似的なモニターの隅で、私の心拍数が跳ね上がるのが見えた。


通信席にはコトネさん達が、

指揮官席には、ハカセが座っているはずだ。


『ディアナ、アリア、リリィ。目標は都市部へ向かう機動兵器3機。……先の模擬戦を見て確信しているわ。戦力的に貴女達の敵では無い。でも油断だけは絶対にしない……いいわね?』


ハカセの、短く、けれど切実な命令が耳に届く。


ラボのスーツ保管庫は普段は整備スタッフの人がちらほら居るくらいで静かなのに、

今はスタッフさん達が各々の仕事に全力で取り組み、凄い手際で私達の発進をサポートしてくれていた。


私達3人は各自が射出口に立つ。


──カタパルトが跳ね上がり、私は音速の向こう側へと射出された。



模擬戦では狭い空間だった。

それが今は風を切り空を羽ばたいている。


──凄い……私、本当に空を翔んでる


そんな事を考えていたらディアナさんからヘッドギアを介して通信が入る。

暴風でもこのおかげで声はハッキリと聞こえた。


「簡単な作戦を今から改めて伝えるわね。

ハカセが言っていたように敵機体は3機。

都市部に進行中よ。更に小型の敵の機影も複数確認されたわ。私は後方から貴女達二人のサポートをする、まずは接近戦特化のアリアは先陣を切って。」


「おう!ぶちかましてやるよ!」

アリアはニカッと何時もの表情だ。


「リリィは初陣だけど、戦える?私は貴女の模擬戦、モニター越しに見たけど、これは実戦、サポートはするけど戦場での最後の判断は貴女自身でするのよ。」

ディアナさんの赤い瞳が私に向く。


「……はいっ!頑張ります!」

私は装甲の下で震える身体を必死に抑える。


「……そう、頑張れっ、リリィ!」

ディアナさんは優しく微笑んでくれた。



雲を突き抜け、眼下に広がったのは、かつての私の故郷を焼き尽くしたのと同じ様な、冷徹な銀色の巨体。


都市へと伸びるプロメテウスの機動兵器が、街を蹂躙しようと侵攻していた。


『敵影確認。目標まで、あと5……4……。リリィちゃん、アリアさん、ディアナさん、……お願い!』

コトネさんの祈るような声が響く。


「……やるぞ相棒! まずはアタシが風穴を空ける!」

アリアが赤い閃光となって、先頭の機体へと突っ込んでいく。

音速を超えた彼女のクローが、機動兵器の強固な装甲を紙細工のように引き裂いた。


「っ……!!」

爆炎が舞う。それを見た残りの2機が、無数の小型機を放ちながら、こちらに銃口を向けた。


「慌てないで、リリィ。雑魚は私が落とす。貴女は自分の正面だけに集中して。」

そう言うとディアナさんは両手から紫色のビームを放って敵機体を次々に落としていく。


私も手に持った剣に力を込めると目の前に展開された小型機に刃を放つ。


敵はまるで柔らかな豆腐の様に切れていく。


──これなら……行ける!!


私は目の前に広がる小型機を次々に蹴散らし、視界に巨大な機動兵器の本体が飛び込んできた。


その無機質なカメラアイが私を捉え、空気を震わせるほどのビームが充填される。


多分、普通なら足がすくむはずの光景。


でも、今、私の耳にはコトネさんのナビゲーションが届き、背後にはディアナさんの頼もしい援護射撃が、そして隣にはアリアの猛攻がある。


「誰も……傷付けさせない!」


私は、模擬戦の時と同じように「念じた」。


追いつきたい。守りたい。そして、戦争を終わらせたい。


翡翠色のブースターが火を噴き、私の身体は重力の呪縛を振り切った。


ビーム砲が放たれるコンマ数秒前。


私は敵の懐へと飛び込み、光の刃を大きく振りかぶる。


鋼鉄が断たれる鈍い音と、電子回路が焼き切れる火花。


私が通り過ぎた後、巨大な機動兵器のビーム砲は、空中で爆発を起こした。


主兵装を失った機動兵器は私に巨大な腕を振り被る。


──私はこの光景を知っている。


あの日、家族を失った日、そうだ、確かに私はあの時ヴァルキリーになったんだ。


「はぁあああぁ!!」


私は叫びながら剣を振りかぶるとそのまま敵の腕ごと敵を両断した。


アリアもディアナさんも他全ての敵機動兵器を破壊したみたいだった。


『目標、完全沈黙! 凄いわリリィちゃん……始めての戦闘なのに単独で、あの巨体を……!』

コトネさんの、泣き出しそうなほど明るい声。


「へへっアタシ達の方も片付いたぜ!……あーあ、全部私が片付けるつもりだったのによ。……最高だぜ、リリィ!」


アリアが赤いスーツから黄色い光を放ちながら隣に並び、私の肩をガシッと叩く。


「……ええ。家族の仇、一つ返せたわね。お疲れ様、リリィ」


ディアナさんも静かに降下してきて、私を労わってくれた。


「ありがとうアリア…ディアナさんっコトネさんっ」

私は思わず泣き出してしまった。


『……作戦完了。全員、直ちに帰還しなさい。……』

通信越しに聞こえるハカセの声。


相変わらず無愛想な感じだけど私はそれも嬉しかった。


そうだ。私には帰る場所があるんだ。



帰還した格納庫では、スタッフのみんなが拍手と歓声で迎えてくれた。


スーツを脱いだ私の体は。やっぱり鉛のように重かったけれど、心は不思議と軽かった。


「おかえり、リリィちゃん! 本当に、本当にかっこよかったよ!」

コトネさんが駆け寄ってきて、私の手を握ってくれた。その手は、出撃前とは違って、もう震えていなかった。


食堂に戻ると、そこには湯気を立てる料理が並んでいた。


キュベレさんは相変わらず無表情のまま

「栄養バランスと皆さんのメンタルを考慮し、再加熱を完了しました」

と言って、次々に大盛りのおかずを置く。


「よっしゃあ! 腹減ったー! 祝杯だ!」

アリアが炭酸飲料のボトルを勢いよく開ける。


メガイラちゃんはオムライスを食べ……あれ、さっきも食べてなかったっけ。


無表情に、でもどこか満足げにスプーンを動かす彼女を見て、私は思わず顔がほころんだ。


「……ふふ。リリィ、今日は好きなだけ食べていいわよ。ハカセも、後で来るって言っていたわ」

ディアナさんが優しく微笑む。


私は、温かいスープを一口口にした。


喉を通る熱が、自分が今生きていること、そして「ここ」が私の居場所になったことを、改めて教えてくれた。

窓のない真っ白なラボ。


だけど、今の私には、世界中のどこよりも明るい場所に思えた。

挿絵(By みてみん)

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