69話 生きると言う覚悟
ミレイナの切り捨てたラプターの残骸が崩れ落ち、熱と硝煙が室内に漂う。
───静寂。
ミレイナは息を整えながら、手の中のサムライソードを見つめた。
刃はオレンジの輝きを帯びたまま、微かに脈打っている。
ミレイナは目を瞑る。
かつてワルキューレとして戦うことを、あれほど避けていたナギサの、
それでも託された、託してくれた、この刃の重みを、胸の奥で噛み締めた。
「……終わったよ、ナギサさん」
振り返ると、ナギサは膝をついたまま、壁に背を預けて肩で息をしていた。
剣は床に突き立てられ、その柄に体重をかけ、身体を支える支柱になっている。
ナギサの……ティシポネの魔力結晶は、今にも消えそうな光で明滅していた。
だが──けして消えてはいない。
「見事だ………本当に、お疲れ様……
ミレイナ。」
そしてナギサは温かな笑顔を見せた。
二人が見つめ合い笑いあっていると物陰に隠れていた科学者達が賞賛の声を上げる。
その光景に二人で苦笑いを浮かべる。
まさか、自分達を解剖しようとしていた人間達から、
こんな声を向けられる日が来るとは夢にもみていなかった。
二人が困惑していると、科学者の一人が、
ミレイナ達の元に近づいてくる。
そして、とある小型端末を差し出してくる。
「……君達のトップが、どんな存在かは我々には分からないが、少なくとも、この狂った組織を本当に壊してくれるという希望の光は垣間見たつもりだ………ならば、この、可能性を託したい。」
差し出されたそれを見て、ミレイナはナギサの顔をうかがうが、ナギサがこちらを見てゆっくりと顔を縦に振ったのを確認して、小型端末を受け取った。
「これは……?」
「ここで我々が開発した、まだティターニアのメインサーバーには無い、新兵器群のデータだ……」
「……良いんですか?こんな事、ティターニアに知られたら……」
「……我々は罪を重ねすぎた。自身の保身のため、家族を守りたいからと、言い訳を並べて他者を傷付ける道を選び続けてしまった。
君達ワルキューレと言葉を交わして分かったよ。
……潮時、と言う奴さ。」
科学者は苦笑いを浮かべていた。
しかしその笑顔の奥に、ミレイナは先ほどナギサが見せた様な、死を覚悟した者の表情を見た。
「……分かりました。しかと、受け取ります。」
ミレイナが受け取ったのを見て科学者は笑みを零す。
そして振り返り他の科学者達の元に歩いていく男性科学者にミレイナは声をかけた。
「死んで終わらせようなんて……そんな身勝手な事、絶対に……しないでくださいね。」
「……」
「どんな理由が合ったとしても、貴方達が加担して、奪った命は帰ってこない。
確かに、私達ワルキューレも守るためって武器を握っているけど……皆、誰一人……」
そこまで下を向いていたミレイナは一度、今も立ち上がろうとしているナギサに目を向けた。
そして改めて、目の前の科学者達を見据える。
「生きる事から……逃げません。」
それを聞いていて、一番衝撃を受けていたのは、他でもない、ナギサだった。
「そうだったな……お前は、あの時から、ずっと強い子だった……」
目を瞑り、過去を想起する。震える足でナギサの前に立ち敵の盾になろうとしたミレイナ
──あの時から彼女は自分よりずっと強かった
ナギサが笑みを浮かべ噛み締めている時だった。
アリアから緊急無線が入る。
『ミレイナまだかぁ!早く来てくれぇー!!アタシマジに死ぬぞー!』
無線越しに激しい銃声が混じり、アリアの必死さが伝わる半泣きの叫びにナギサは思わず笑う。
『笑い事じゃねぇぞコラ!!』
おっと……聞こえていたらしい。
「ふっ、無断でミレイナを鍛えた罰だ。」
『んなぁ!?』
「ナ、ナギサさん!まだ動けますか!?そんな事言わないで、早く助けに行かないと!」
必死なミレイナを見てナギサは再び立ち上がる。
魔力結晶は再び強い輝きを取り戻していた。
「動けるかだと…?誰に言ってる。」
ナギサは出力が50%まで回復したのを確認して力強く放つ。
「"後輩"に、後れは取らん。」
ミレイナとナギサは科学者達を安全な場所に逃がすと、ティターニアの兵器製造拠点の一つを破壊し、アリアが待つ外に同時に飛び出しだ。
二人は真っ直ぐ、外から差す光を見据えていた。
ナギサをどうしても死なせたくなくて、難産でした!




