68話 絆の継承
ティターニアの科学者達はティターニアに忠誠を誓っているわけでは無かった。
自身の命のため
家族を危険に晒さないため
自身の研究を続ける為と……
様々な理由はあるが、皆が何かを守る為にティターニアにエンジニアとして使われていた。
そして今回そんな科学者達に告げられた指令は鹵獲したワルキューレの解剖という物だった。
吊るされた機体を間近で見た科学者達は動揺していた。
───ワルキューレ……ナギサが、自身らの娘と同い年くらいの
見た目は普通の少女でしか無かったのだから。
もちろん、ティターニアが非合法の方法で少女達を調達し、ネガ・メガミドライヴに変えている事はティターニアに所属している科学者なら皆が理解していたが、実際に自身らでとなると、困惑の色を隠せなかった。
兵器だと思えば、解剖は出来る。
だが……人の形をしていると、どうしても手が震える。
それにメカニカルワルキューレのプロテクトが毎秒自動で複雑に切替わると言う物で、
科学者達はアーマーを外す事すら出来ずにいた。
それはまるで、ボロボロになったティシポネのアーマー自身が
せめて装着者であるナギサだけは……と
なおも防御機構を維持し続けているかのように科学者達の目に映る。
───それでも、ナギサに残された時間が
あとわずかである事には変わりなかった。
────
アリアとミレイナはハカセが託してくれたナギサの通信が最後に送られた地点へ急いでいた。
音を超えた速度で雲を切り裂き、
ナギサの待つ座標へと向かう。
ハカセから見せられた任務失敗の文字、つまりそれしか送れない状況だったと言う事だ。
ミレイナは歯を食いしばって涙すら浮かべていた。
そんなミレイナを見てアリアは語りかける。
「──ナギサがそう簡単にやられる玉じゃないのは、ミレイナが1番理解してるはずだ……
信じろ、アンタの母さんをさ。
……ん?まぁ、年は4歳しか差無いんだから姉か?」
「ありがとうございます……師匠。」
「だから…師匠は止めろって!」
いつものアリアさんを見て苦笑いを浮かべる。
きっとアリアさんだって心配な筈なのに、自身を落ち着かせようと軽口を叩いてくれる。
それは不謹慎に見えるかもしれない
でも、ミレイナに満ちていた先ほどまでの焦りは冷め、少し落ち着きを取り戻せた。
「ううん、ありがとうございます、師匠。」
改めてアリアさんの背中が大きく見える。
身長は、私より低いのに。
「……おう!」
ミレイナの顔を見てアリアも笑顔を浮かべた。
二人が目的座標に到達した時、既に複数の無人機が展開されていた。
ナギサが送ったメッセージすら気付かれていたのだ。
中にはラプターの影も見える。
「コイツらはアタシに任せろ!
ミレイナはナギサを!!行け!!」
アリアが更に加速すると敵陣に突っ込んで派手に暴れ回ってヘイトを稼いでくれた。
ミレイナはアリアを一瞥すると礼をして拠点内に入った。
無人機が展開されていたが、装甲の薄そうな関節部を切断する事で速度を落とすことなく、次々に敵を薙ぎ払っていく。
そして……ついに、電極を全身の装甲に貼られたナギサを見つけた。
「っ…!!貴様らぁ!!」
ミレイナは今まで上げた事の無い咆哮を上げナギサと科学者達の間に割って入り、電極を切り捨てた。
しかし敵である科学者達の顔は怯えこそあるが安堵の色が透けて見えミレイナは訝しげに彼らを見つめる。
その時だった。
ミレイナの背後で、ナギサがうめき声を漏らす。
「……ミレ……イナ…?」
自身を呼ぶその声を聞いて敵拠点の、科学者達に囲まれている状況だと言う事を忘れミレイナはナギサに抱きついた。
「ナギサさんっ!」
上半身を起こしたナギサはミレイナの頭を撫でるが
ミレイナがメカニカルワルキューレになっている事
そしてティターニアの科学者達に囲まれている状況に理解が追いつかない。
「……君達は…」
その時、一人の科学者が声を発する
ミレイナはナギサから離れ振り返ると啖呵を切る
「私達はメカニカルワルキューレ!
貴様達……ティターニアを滅ぼす、希望の光だ!!」
科学者達はそれを聞いて当初は呆然としていたが
「……本当だな…?本当にティターニアを……滅ぼしてくれるんだな…?」
科学者のその言葉に、室内の空気が凍り付いた。
問い掛けは敵意ではなかった。
懇願に近い、掠れた声だった。
「……私達は……もう、限界なんだ……」
一人の科学者が、膝をつく。
「研究を進めれば、誰かが壊れる。
拒めば、家族が消える……
それでも、今日だって彼女の研究以来に対しずっと自分に言い聞かせてきた……
“これは兵器だ”……と……」
震える視線が、ナギサへ向けられる。
「だが……彼女は……
どう見ても……ただの、少女だ……」
「私達……だけではない……」
そこにナギサが割って入る。
「……貴様達が、ネガ・メガミドライヴにした彼女達もまた、ただの少女達だった筈だ。」
ゆっくりと硬いベッドから起き上がるとミレイナに肩を借り立ち上がる。
その時、ミレイナの侵入を察知して先ほどナギサを倒した四機のラプターが二人を取り囲む。
ナギサはよろけながらもミレイナの前に立ち、再び武器をスロットから呼び出すと構え直す。
「ミレイナ……お前は彼らと下がれ…」
ボロボロになりながらも自身の身を案じようとするナギサを愛しく思うも、ミレイナはナギサの前に立った。
「───見ててください"お母さん"、私がアリア師匠と創った力。」
腰に剣を構えると姿勢を低くする。
目の前の黒い鎧を二つの瞳で貫く。
ナギサは始めて見る構えに思わず止める事すら忘れてしまう。
独特な構えでありながら今のミレイナに一寸の隙も無いと分かったから。
そして、まるで瞬間移動でもしたかのような速度で、ラプターの一機に肉薄すると、たった一撃であの巨体を一刀両断してみせた。
遅れて爆風と激しい音が世界に満ちる。
ただ静かに剣を腰に構え直すミレイナの背中にナギサは
結局戦う戦士となってしまった絶望と
一人の戦士として背中を預けられる戦士へと至った誇らしさ。
そして……何よりも大切な娘であり妹であるミレイナへの愛おしさ、その全てが絡み合った様な表情を浮かべる。
「ミレイナは、私の前に飛び出したあの日から……もとより強かった。だが、そうか……こんなに……立派に、なったな……」
零した言葉に彼女のこれまでの葛藤や、ハカセへの怒り、そしてミレイナへの無償の愛がすべて凝縮されていた。
ミレイナが至った頂の高さを理解して、彼女のこれまでの研鑽を垣間見た。
それと同時に、もはやナギサの求める幸せは訪れない事も同時に理解した。
そんなミレイナの背中をラプターが狙うのを見てナギサはスーツのリミッターを外し二本の剣でその攻撃を防いだ。
「……後ろは、任せたぞ!ミレイナ!」
任せた……
その言葉を聞いたミレイナは自身がナギサに戦士として認められた事を実感し喜びが溢れる。
「でも……ナギサさん、そんな装備状態で大丈夫ですか?」
「ふっ……ちょうど良い、ハンデだ!!」
ナギサは笑った。
ボロボロの身体で、二本のサムライソードを構え、真正面からラプターに向き直る。
だが、その笑みは虚勢ではなかった。
ミレイナが戦場に居ることはやはりあまり良くは思えない。
しかし……自分の愛した愛娘が、自身を超えかねない戦士に成った事に、同じ戦士として尊敬の念すら抱いたのだ。
(……誇らしいじゃないか……)
ラプター三機が同時に飛び掛ってくるが、ナギサとミレイナは互いの死角を補い合う事で敵を圧倒してみせた。
そして最後の一機になった時だった。
ミレイナの刃が、これまでの戦いの負荷に耐えきれず、砕けてしまう。
「っ……!」
丸腰になったミレイナは一瞬、死を覚悟する。
ナギサはスーツの出力が落ちてしまい、その場に膝をつき、助太刀は間に合わない。
「っ…ミレイナっ!!これを、使えっ!!」
ナギサは自身のサムライソードの一振りをミレイナに投げ飛ばした。
ミレイナがそれを受け取るとサムライソードの色がナギサの緑色から、ミレイナの魔力結晶の、炎の様なオレンジの輝きに染まる。
「ありがとう……ナギサさん……!!」
───そして、ミレイナは、自身に迫る
ラプターを一閃のもと、真っ二つに切り捨てた。




