第67話 頂/アテナ
アリアは、ミレイナの成長速度に舌を巻いていた。
正直、既に彼女はワルキューレとして一線級に戦えてしまえそうな領域に踏み込んでいる。
何よりも恐ろしいのは、彼女はナギサの様な二刀流が自身は不得手であると自覚しているところだった。つまり、もっと上があると……
ミレイナは自ら考え、最適な挙動を導き出す。
一刻一刻、その動きは鋭さを増し、洗練されていく。
それも、今この瞬間に。
アリアの放つ俊足の攻撃を、ただ闇雲に受けるのではなく、全てを、最適解の角度と力で跳ね返してくる。
──強さは力であり、選択肢である。
しかし強すぎる力を、まだ戦場も知らない少女が手にした時どうなってしまうか、アリアは想像すら出来ていなかった。
自身の浅はかな行いは、間違いだったのでは無いか、
やはり親がわりであるナギサと同じく、
可能性の芽を摘み取るのが
彼女の幸せなのでは無いか……
そんな考えが浮かんでは消えていく。
───しかし
目の前のミレイナの、真っ直ぐな瞳を見て
アリアは笑みを浮かべる。
ミレイナの重い刃を受け、今まさにジンジンと痺れている自身の腕に力を込める。
今、目の前で、己を超え、更なる高みに登ろうとしている愛弟子に自身が出来る事、それは……
「アタシも…師匠として負けてらんないよな!!」
アリアは、以前リリィがナギサに放った言葉を思い出していた
──皆が違う最強になれば良い──
ミレイナだけを高みに登らせるんじゃない。一人で行かせず、皆で一緒に登ればいい。
……アタシは、別に師匠って柄じゃないが、
一度引き受けたんだ。
それが、元々安請け合いだったとしても、
死ぬまで、死んでも、全力でやり切ってやる。
それがミレイナを、地獄へ引きずり込んだアタシなりの……ケジメってやつだ。
互いに全力でぶつかり合い、刃と刃が赤い火花を散らし合う。
音を遥か後ろに置き去りにして
放たれる刃と刃の応酬。
───そして……ついに、ミレイナの刃は研鑽の中で、究極の頂にすら届かんとしていた。
不要な動作を全て切り捨て、最小限の動きで究極の一撃を放つ。
ミレイナが大切なものを守るため編み出した、ミレイナだけの剣。
自ら、ナギサの背中……二刀流を捨て、
一本の刃に己の全てを込める事で、
ミレイナの太刀筋はここに完成した。
───純粋に大好きなナギサを支え、守りたいと言う、ただそれだけを思って紡いだ、
新たな力。
「ははっ……すげぇ…!」
それはミレイナにアリアが“追いつけなくなった瞬間”であり、
それでも心から笑えた瞬間だった。
──ああ、ミレイナなら、大丈夫だ。
アリアは、力を得てもなお変わらない、
ミレイナの強い瞳に次世代の……確かな可能性を見出していた。
その時、ミレイナの周りが光り輝く。
彼女の元にワルキューレスーツ自ら、MV-06アテナが転移装着をした。
いわゆる物理的現象を超えた奇跡、
適合者が魔力結晶と高い次元で共鳴する事で発生する、世界の法則すら超えた、オーバーフロウ現象がミレイナの元に発生したのだ。
アリアは目を見開き、その光景を見ていた。
ミレイナが目の前で予備動作や、デバイスを介さず、メカニカルワルキューレを、使用者登録も無しに呼び出し装着した様を見て、懐かしく思っていた。
その光景は奇しくも、三年前に
ヴァルキリーに選ばれた自身の相棒、
リリィを彷彿とさせた。
───アテナの魔力結晶自身が……ミレイナの迷いない強い意志に呼応し、自身の主として相応しい存在だと選んだ証だった。
今、ここにメカニカルワルキューレ第二世代一号。アテナが誕生した。
そこに、ハカセより緊急の通信がアリアの元に入る。
『アリア。事態は急を要するわ……ミレイナっ!?……貴女、その姿……』
ハカセはアリアの隣で佇む、まだ装着者の定まって居なかった第二世代ワルキューレ・アテナを装着したミレイナを見て、
一瞬だけ目を瞑る。
『……リリィに続いて
二人目の、魔力結晶のオーバーフロウが起きたのね……
いいえ……今回は話が早いわ。アリア、ミレイナ。
緊急任務よ。』
そう言うハカセは向き直し告げる。
『ナギサを……貴女達で救出して。』
───私のメカニカルワルキューレとしての初の任務は、
──ナギサさんを助けることだった。




