第56話 夜明け
私とソフィアは互いに背中合わせで座ると夜空を見上げていた。
「……ソフィア?」
「ん……」
私は、ソフィアの父、ダルクを殺したことを謝るつもりは無い。
それは、私だけじゃない、ハカセやラクシャシーとアスラ、ネガ・メガミドライヴにされた少女達の想い──
それら全てを踏みにじることになる気がしたから。
──でも……
私は、背中合わせのソフィアの手を、そっと握る。
「もう……この世界で一人ぼっちにはしないから
……私だけじゃない、メカニカルワルキューレの皆が、貴女の側に居るからね」
私の言葉を聞いたソフィアは手を握り返してくれた。
その微かな応えに思わず、笑みがこぼれた。
「……あ、でも……メガイラちゃんには、ちゃんと謝ろうね? ソフィア」
ソフィアがメガイラちゃんを大嫌いなはずがないことくらい、
傍から見ていても分かる。
だからこそ、ソフィア自身にも、
自分の想いに嘘をついてほしくないし、
その嘘で誰かを傷つけてほしくなかった。
ましてや相手は、
ソフィアの大切なバディで、
私の可愛い妹──メガイラちゃんなのだから。
お姉ちゃんとして、少しだけお節介を焼いてしまうのだ。
その時、それまで無言だったソフィアが小さく声を漏らす。
「メガイラ……許して、くれるかな…」
声から不安が感じ取れる。
「……許してもらえるかは、分からないけど、まずは謝ってみて、それでも駄目なら……」
「また、始めからやり直そう?
だって私達は、明日も、その先も笑ってられるんだから。
なんなら、私も一緒に謝るよ!」
リリィは背中合わせのソフィアにガッツポーズを送る。
───その時
「……その必要は、ありませんよ。リリィ。」
私とソフィアは声のした方に顔を向ける。
そこには、メガイラちゃんが立っていた。
月明かりが背後から差していて、
メガイラちゃんの表情は、私達には見えなかった。
「あっ……メ、メガイラ……わ、私っ……」
自身がメガイラに向けて放った"大嫌い"の重さを、他でもない、彼女自身が一番理解しているから、その次に紡ぐべき言葉が出てこない。
ソフィアはバランスを崩しながらも身を乗り出し、意図せず土下座の様な体勢になっていた。
「まさか、始めから全部が嘘だったなんて、私は悲しいです。」
「っ……」
「正直……幻滅しましたし、今までの様に潔白に貴女を見れません。」
メガイラちゃんは、やれやれと言うように肩をすくめた。
「ぅっ……っ」
「でも…」
そこでメガイラちゃんが一歩踏み出し、
彼女の表情が初めて見えた。
目元は赤く腫れ、先ほどまで泣いていたのが、見て取れる。
けれど……その緑の瞳は真っ直ぐに、ソフィアを見つめていた。
「私の"バディ"は嘘ばかりつく人で、
そんな人が私のバディだなんて……
全く……これから先が思いやられます。私、嘘を見分けるの……苦手みたいですから」
そう言ったメガイラちゃんは目を閉じ、困った様な笑みを浮かべていた。
───"これから"とメガイラちゃんは口にしてくれた。
許すとは口にしていないけれど、それはつまり
「……帰りましょうソフィー。一から、仕切り直しです。」
そう言いながらメガイラちゃんはソフィアに手を差し伸べた。
「うん……っ……うん……!ごめっ……ごめんメガイラ…!ごめんっ!!
大嫌いなはず無い!ずっと……ずっとっ!!」
差し出された手に縋り付くようにソフィアは握り返し涙を溢れさせる。
「……謝るくらいなら、最初からあんな嘘、
つかないでくださいよ、もう……
ちょっとだけ……びっくりしたじゃないですか。この、バカソフィー。」
リリィはそんな不器用な二人のやり取りを見て、ただ優しく微笑み、再び空を見上げた。
復讐が何も生まないなんて、そんな安い台詞、私は言わない。
きっと残された側の人間にしか理解出来ない心情は、必ずあるから。
だけど…今こうして泣いて笑えるのは、
復讐を果たす事よりも、ずっと尊くて、素晴らしい事なんだと、私は思う。
リリィはゆっくりと立ち上がり二人に振り返り、登り始めた太陽を背に言う。
「さっ、帰ろっか、二人とも」
復讐の連鎖は、終わりを迎えた。
ソフィアとリリィは互いに家族を奪われた側として、鏡合わせの存在ですが、
実はソフィアとメガイラも相反する、正反対の性質を持ち合わせています。
ソフィア
・実の両親の元に生まれ、愛されて育った。
・その実の父親から魔力結晶と適合出来る様に調整された。
・後に愛している存在を憧れの人に奪われた。
メガイラ
・デザインベイビーとして生まれ、愛を知らず育った。
・遺伝子源のハカセから魔力結晶の精神干渉を受けないような無垢な魂を持つ存在として調整された。
・後に愛される事と、愛する人達を得た。
まぁ…偶然なんですがね!




