55話 リリィとソフィア
鍔迫り合いをしてリリィは実感していた。
流石はMV-10。自身が装着しているMV-01とは、
3年前に対峙したラクシャシー以上の出力差がある。
本来であれば剣で受けるのは愚策、無人機相手なら絶対にしない行為だった。
でも、リリィは受けたかった。
ソフィアの剣の重みを、思いの強さを。
刃と刃が擦れ、火花が散り、二人の視界が明滅する。
ソフィアの剣の一撃一撃がどれも自身を即死出来るものだと言う事実に……リリィは内心喜びにも似た感情を抱いていた。
決して、許されるとは思っていない……
けれど……今こうして、自身の罪と向き合えている実感が得られていた。
───
ソフィアはその全てを渾身の一撃として
刃を繰り出すが、リリィがそれを往なしていく。
もはや、リリィを斬り伏せる事に意味は無い。
それどころか刃を放つ度、ソフィアは自身を切り裂く様な感情を抱く。
今、目の前で自身の剣を、必死に受け止めてくれているリリィの思いが、刃から伝わってくる。
───貴女の全てを受け止めたい。
ソフィアはアリアの言葉を思い出していた
『アイツ…リリィは優しすぎる』
……ソフィアは徐々に涙を溢れさせる。
もう止めたい。けど、全てを彼女にぶつけたい。
私の苦しみを唯一理解出来る彼女に私の苦しみも、思いの全てを……
「リリィィィイ!!!!」
「ソフィアァァァ!!!」
お互いの"名"を同時に呼び合う。
まるで鏡合わせの戦いは、激しさを増していく。
リリィも自身の切り札"コンバットメイデン"を装備し、思いの全てを剣に込めてソフィアに振るう。
リリィの中の最強の一撃で、ソフィアの剣は簡単に砕けてしまう。
すかさずソフィアは武器スロットから新たな剣を転送すると、再び剣を交える。
ただの武器の破壊と言う物理現象で、
この"対話"を終わらせたくない。
───ソフィアは一呼吸置くと、リリィからトレースした戦い方を捨て、本来自分が得意な二刀流で構え直す。
「……それが……ソフィアの"剣"なんだね……」
リリィは肩で息をしながらも笑みを浮かべる。
「そうやって笑っていろ……必ず上回って……打ち負かす。」
ソフィアは無自覚に口角を上げていた。
「ふふっ、そっちも笑ってるよ。」
「えっ………ふっ……本当だ。」
ソフィアはメカニカルワルキューレに潜入して初めて自身を咎める事なく笑顔を零す。
──二人の表情が晴れやかな物になっていた。
リリィはこれまでの鬱屈とした雰囲気を吹き飛ばし
3年前よりも以前の様な、満面の笑顔を浮かべる
「よーしっ!!ここから、本気で行くよ!ソフィア!!」
リリィは一度飛翔しソフィアから少し距離を取ると、コンバットメイデンをまるで演武の様に振り回し、構え直す。
「ふっ!!私だって……ここからが…本当の…本番だ!!」
ソフィアはスーツのエネルギーを最大解放するとアクアマリンの輝きがソフィアを包んでいく。
同時に二人は飛翔し、刃が激しくぶつかる。
今度はリリィのコンバットメイデンが衝撃に耐えきれず手から吹き飛ぶ。
リリィは空で身体を逸らすと、ソフィアの2本の剣裁きを身じろぎ一つのギリギリで回避する。
そして吹き飛んだコンバットメイデンの近くに、新たに武器スロットから呼び出したビームガンを放ち、そのビームの衝撃で浮き上がったコンバットメイデンをキャッチする。
魅せてくれる……!
リリィの技量はやはり凄まじい。戦闘技術では
彼女に勝てないのはソフィアが1番理解していた。
だから、リリィが私達、後輩の為に託したこの第ニ世代のメカニカルワルキューレの性能で上回って、打ち負かす!
スラスターを最大稼働させたソフィアの軌道が
まるで空に星座を描く様に鋭角な軌跡を描く。
リリィは一瞬、ソフィアのあまりの速度に対応出来なかったが、ソフィアの飛行する先を予測、移動するであろう先にビームを放つ事でソフィアの動きを抑制し速度の差を埋めていく。
正面から突っ込んできたソフィアの剣が
リリィに迫るが、リリィはあえて反転しスラスターを最大出力で吹かし、その圧力でソフィアの剣を弾くと、そのまま出力を維持して加速、
ソフィアに肉薄する。
互いの顔が近くに迫る。
全く…お互い……良い顔をしている。
互いに汗を流しながらも、思わず歯を見せて笑い合う。
もはや、どちらが勝っても負けても良かった。
───
当初、二人の戦いを苦痛の表情でモニターしていたラボの皆も、もはや皆が白熱し
手に汗握り二人の舞を見届けていた。
「ブチかませリリィ!第一世代の意地見せろ!」
アリアは満面の笑顔で拳を突き上げ叫ぶ。
「ソフィー…!頑張れっ」
メガイラも胸の前で手を握り祈る。
「見て…サイサ……なんて、美しいのかしら…」
ハカセすら涙を流し二人を映し出したホログラムを右手で撫でていた。
───
「ソフィア……これだけは、伝えさせて。」
リリィは突如スラスターを弱めその場で浮遊する。
「?」
ソフィアは突然のリリィの動きに同じく動きを止める。
「貴女のお父さん…、ダルクは…ちゃんと貴女を、かけがえの無い……世界でたった1人の娘として……愛してたよ」
その言葉を紡ぐリリィは笑顔だが、同時に苦しそうな表情を浮かべる。
ソフィアは目を瞑り言葉を零していく。
「大丈夫……だってお父さんの娘だもん。ちゃんと……分かってたから」
「……それに、リリィ…貴女がお父さんを、心を痛めながらも止めてくれていなかったら…きっとお父さんは私達みたいな苦しみを沢山作ってた……だから……」
「本当に、本当に……ありがとうございました……リリィ」
ソフィアは笑顔で、でも涙を溢れさせながらリリィに感謝を伝えた。
それを聞いたリリィは沢山の涙を零しながら武器を捨て……
───ソフィアを抱き締めた。
ソフィアもそれに応えるように武器を手放す。
二人は空中でバランスを崩しながらも、互いのスーツが装着者を守るため、スラスターを自動制御し、
星々が煌めく空を、ゆっくりと落ちていく。
温かな涙が混ざり合い、それをスラスターの熱が蒸発させ、夜空に綺羅びやかに舞っていく。
──勝敗、そんな物は、要らない。
だってなんかいい雰囲気だし……勝敗が決まって決着は無粋かなって…




