第53話 成せた事と果たさねばならぬ事
ソフィアは行く当てもなく飛び出し、終始顔を伏せたまま、ラボから少し離れた街を歩いていた。
「…私……逃げてばかり…」
思わず独り言が漏れる。
ハカセから逃げ、父の真実から逃げ……
バディ……メガイラからも逃げた。
「はは……私……何も、出来ない…じゃん……」
何故か自身のデバイスもメカニカルワルキューレも稼働状態だった。あのハカセなら裏切りを理解した上でプロテクトの一つや二つ、簡単にかけられそうな物だと言うのに……
(私の事はハカセにとって、些事って事…か……)
自分には何も成せない、何も果たせないと告げられた気分だった。
──その時。
「あ!メカニカルワルキューレのお姉ちゃん!」
と言う声が聞こえ、ソフィアは自身を裁くためワルキューレの誰かが来たのかと、辺りをキョロキョロと見渡した。しかし、追跡者では無く、
小さな影が自身めがけ飛び込んできた。
「うわっ…ちょっ!?」
ソフィアのお腹に飛び込んできたのは──
ラプターとの戦闘の時、
自身が助けた、あの娘だった。
「あっ……貴女は」
ソフィアは少女の頭に思わず手を置きながら困惑の表情を浮かべる。
そこに
「娘がいきなりすみません!こら!知らない人に迷惑を…」そう言いながら少女の父親がソフィアにしがみつく少女を抱き抱えた。
「あ……貴女はこの前助けてくれたワルキューレの……!
その節は、ありがとうございました……本当に、ありがとうございました!」
父親が、深々と頭を下げる。
ソフィアは、その光景を呆然と見ていた。
「ミーナね!大きくなったらお姉ちゃんみたいなカッコいいワルキューレになるの!」
父親の腕の中で満面の笑みの少女は言った。
ソフィアは、それを聞いて視線を伏せた。
「……なっちゃ、だめだよ」
自分の様には……なって欲しく……
「ミーナのママもね、軍隊さんだったんだって。皆を守って天国に行っちゃったの。」
そこで初めて親子に視線を向ける。
そこには、笑顔の父親と娘がいた。
「……その人、すごい人……だね」
ソフィアも作り笑いを浮かべる。
「うん!!お姉ちゃんとおんなじくらいカッコいいよ!」
親子はそう言うと、手を振りながら去っていく。
ソフィアも、小さく手を振った。
……こんな自分にも、成せた事は確かにあった。
親子が見えなくなった時、背後から声をかけられる。
「ソフィア、貴女が、あの親子の明日の笑顔を守ったんだよ。」
声の方に振り返った先には
メカニカルワルキューレを装着していない生身のリリィが立っていた。
「ヴァル……キリー……」
ソフィアは思わず睨みつける。
やはりどうしても思ってしまう。彼女が私の父を殺さなければ私はまだ幸せで居られたのに…と。
リリィを見ていると、
憎悪と嫌悪が、胸の奥で膨れていく。
「…っ!!メカニカルワルキューレを装着しろっ……ヴァルキリー!」
ソフィアは、デバイスを掲げて叫んだ。
リリィは一度だけ目を伏せ
「……ここじゃ……街の皆に迷惑になる。
場所を……移そうか。」
とゆっくりと目を上げソフィアの目を真っ直ぐ見て答える。
───
雲の上を飛ぶリリィの後をソフィアが付いて行く。
二人の飛行機雲がほぼ重なるようにして空にラインを描く。
移動中一度も二人の間に会話は無かった。
ただ、風を切る音とスラスターの甲高い音だけが、二人の間に流れていた。




