第43話 ソフィア
私は自分に与えられた自室の洗面台で顔を濯ぐと、日課の笑顔の練習を行う。
……大丈夫だ。ちゃんと笑顔に見える。
私はラボに来て一度も笑ったことは無い。
──あの日から、一度も。
タオルで顔を拭うと洗面台のライトを消した。
ラボの廊下を歩いているとメガイラがこちらを見つけ笑顔でかけて来る。
彼女は妙に私に懐いている。
私自身も、彼女との会話の内容は感情論が少なく、論理的で嫌いではない。
───でも、彼女の裏表の無い笑顔は苦手だった。
まるで自分という存在そのものを、否定されているような、そんな気がするから。
「ソフィー?」
メガイラがこちらを覗き込んでくる。
彼女の綺麗な緑の瞳も、私は得意ではない。
その瞳は、あまりにも綺麗で、
真っ直ぐ私を映すその目は
私の全てを、暴かれてしまいそうで。
「何でもないよメガイラ。それより何か伝えたくて来たんじゃないの?」
私はいつもの笑顔で何かを伝えに来たであろうメガイラへ促す。
「あ、そうでした!ハカセがソフィーを呼んでくれと。」
ハカセ……メカニカルワルキューレの総合責任者が…?
私はそれを聞いて肝を冷やす。
私は気を引き締めメガイラの後をついて行く。
気付かれたのか?
何か問題があったのか?
メガイラについて行く足が重くなっていく。
私とメガイラが同時に司令室に入室すると
ハカセはデスクに肘を付き、顔の前で手を組んでいた。
「失礼します。ハカセ。ソフィアを連れてきました。」
メガイラが普段とは違う硬い口調になる。
「ありがとうメガイラ。
───では、単刀直入に伝えるわ。
ソフィア。
次の任務から、あなたはメガイラとバディを組みなさい」
「バディ…ですか?」
私はハカセの言葉に思わず聞き返してしまう。
「ええ。貴女達の戦闘スタイルや性質等を総合的に判断した結果、相互補完として、最適だからよ」
思わずメガイラの方を一瞥する。
メガイラは無表情を装いはしているが、明らかに喜びが透けて見えていた。
私はひとまず安堵と、これからの苦悩を考え心の中でため息を零す。
「承知しました。ソフィア、命令を着任いたします」
司令室を後にした瞬間メガイラはこちらに振り返ると明るい笑顔で私の手を握ってきた
「ソフィー!私達バディですよ!ふふっ…これからも、一緒に頑張って行きましょうね!」
「……そうね!一緒に頑張ろうね!」
私も彼女と同じ様な笑顔を浮かべた。
……浮かべられている……筈だ。
───
ソフィア……ソフィーがラボに来たのは私、
メガイラの記憶では今から大体一年くらい前でしょうか。
彼女は最初から笑顔が明るくて
真っ直ぐで、そんな彼女に昔のリリィを感じて私はとても嬉しかったのを覚えています。
ソフィーも私と同じくリリィに憧れているのか
いつもリリィの戦闘データばかり見ていて、そこに私自身を重ねてしまったから、私は彼女に親近感を覚えたのかもしれません。
私と年が同い年なのも、なんだか運命めいていて、嬉しかったのです。
しかも!今日から私達はバディになりました。
最近はティターニアの戦力増加が著しく、
私のような電子戦特化タイプと戦闘経験の浅い第二世代は、誰かと組まなければ前線に立てない、そんな状況でした。
私も早く強くなって、リリィ達のように皆の笑顔を、ソフィーの真っ直ぐな笑顔を守れる存在になりたい。
──そう、この時の私は、疑いもせずに思っていました。




