第32話 温かな感覚
───出撃前のラボにて
「ハカセ、この武器スロット機能の使い方については分かったんですが、この特装武装と言うのは……?」
私は武器スロットの1番端にある聞き覚えの無い単語について確認した。
「それこそが今回の作戦の要、シャックルブレイカーよ。」
「シャックル……ブレイカー。」
シャックル……すなわち枷を壊す意味。そのままだけどハカセらしくて私は好きだ。
「これをラクシャシーかアスラに取り付けて頂戴。このシャックルブレイカーを介して彼女達のシステムに介入する。ただ相手はあの姉妹……そしてダルク。介入可能な時間は持って十数秒。更に2度目はダルクが許さないでしょう……作戦は1回限りよ。──」
私はハカセの言葉を思い出していた。
失敗すれば2度目は無い救出作戦。そもそもラクシャシーが抵抗すれば叶わない脆い作戦だ。
───だけど、ラクシャシーは静かに、受け入れる様に目を瞑った。
あの言葉(ダルクを許さない)を思い出し、怒り以外の何かが胸を締めたのだ。
私は動きの止まったラクシャシーの胸部装甲に、シャックルブレイカーを叩き込む。
「届いて!!」
ハカセには、かしくも自身がサイサを貫いた過去の構図を思わせた。
でも……今回は違う。救済では無い。本当に救ってみせるのだ。
シャックルブレイカーをラクシャシーに装着した瞬間、私はラクシャシーの"深層心理"を見た。
そこにはボロボロの服を着た小さな女の子が2人、寄り添って泣いていた。
「貴女達は……」
──ラクシャシーとアスラ
「痛いよ……苦しいよ……もう虐めないで……もう、壊さないで」
少女たちはただ泣いていた。2人に降りかかった理不尽に
「っ…!」
私は咄嗟に2人を抱き締めた。2人に起きた悲劇は彼女達の身体を見れば一目瞭然だ。進化の為とダルクは2人の身体を切り刻み悪戯に弄んだ。
辛いはずだ、悲しいはずだ。私だってプロメテウスに捕まっていれば彼女達の様になっていただろう。
彼女達は私の鏡なんだ。
私に抱き締められた2人は暴れた。
「汚い手で触らないで!」「どうせまた壊すんでしょ!」という叫び。
私は涙を流しながらそれを受け入れる。
「壊さない……もう……誰にも、壊させないから……」
───
私がラクシャシーの深層心理とリンクしている時
「ラクシャシー!!」
と感情に乏しい筈のアスラが珍しく叫び、
アリアとナギサさんを無視して攻撃を受けているラクシャシーの方に向かおうとする。
そこにアリアが
「アスラ!お前も助けるから!!」
と、もう一つのシャックルブレイカーをナギサさんが羽交い締めにして必死に押さえてくれているアスラに装着した。
「「ハカセ!!」」
アリアとナギサさんが同時に叫ぶ。
姉妹2人にシャックルブレイカーがほぼ同時に装着された。
『任せなさい!!メガイラ!私と貴女でコードを解除するわよ!』
『ちっ!反応が速いっ。ダルクのカウンターハックが来るわ! 5、4、3……!』
ダルクとハカセの無音の攻防が始まった。
ハカセの狙いがラクシャシーとアスラの奪取だと理解したダルクは
凄まじい速度でコードを書き換えていく。プロテクトをより強固にしていく。
ハカセはそれを上回る速度で爆弾を解除し、更にプロメテウスのリンクを剥がしていく。
「あんたの汚い計算式、全く美しく無いわダルク……! 」
『ハカセ。お待たせしました。メガイラ、加勢します。』
「しゃっあ!あのブ男ぶっ潰すわよ!メガイラ!」
ラボと戦場、場所の異なる二人のタイピング音が重なり、まるで一曲の音楽を奏でるようにダルクの防壁を解体していく。
「ダルク、あなたは忘れている。知識は共有され、絆で結ばれた時にのみ、真の「進化」を遂げることを……!私は皆から教えてもらった!」
メガイラちゃんはタイピングしながら叫ぶ。
その言葉を聞いて、戦場で無防備のメガイラちゃんを守っているディアナさんは笑みを零す。
「そうね……全く、その通りだわ!!」
ディアナさんは自身が操作可能な武装の全てを空間転送すると、自身らを囲む無数の無人機達に全弾を一斉に解き放った。
戦場にディアナさんの魔力結晶の光、アメジストの輝きと爆炎の光が満ちていく。
「家族には……指一本触れさせないんだから!」
そしてついに、ハカセとメガイラちゃんは同時に
決定キーを押した。
電子音が聞こえ、
姉妹から「枷」が外れる
遂に2人はダルクの呪縛から解き放たれた。
ラクシャシーがゆっくりと目を開くと、敵だった筈のヴァルキリー……リリィが泣きながら自身を抱きしめていた。
「えっ……あ、あの、ちょっと……?」
ラクシャシーは何がなんだか分からない様だった。ひとまず引き剥がしてみようとするがびくともしないし、なんか更に泣き喚いた。
あ、あれ、私、こいつと戦ってて……それで……
不意に気付く。自身の爆弾が停止し、更にプロメテウスのリンクが切れている。
「えっ……」
ラクシャシーは辺りを見渡しアスラを探す。爆弾が解除されたという事はもしかしたらアスラが死んでしまったのかも知れないのだから。
「……あ、アスラ!?」
ラクシャシーが叫ぶとアスラが顔を覗き込んできた。
「はい。アスラです。」
いきなり視界外から顔が出てくるからラクシャシーは驚く。
そんなアスラは手を握ったり開いたりしていた。
そして目を空けてからずっと網膜に投影されていた
"ERROR: CONNECTION LOST"
の文字が消え、2人の視界に晴天の青空が広がった。
「あ……あっあぁ……!」
ラクシャシーはこの時何が起きたか全て察した。
頬を涙が伝う温かな感覚。顔に触れる風の感触。
自身と姉がずっと求めた自由が取り戻されたのだと。
それを、今も必死に抱き付いてきて、鼻水を装甲に擦り付けているこの少女達が齎してくれたのだと。
「…………ふぅ……まぁ、なんだ。あー……あ、ありがと」
ラクシャシーはなんだか、久しぶりに痒くなった自身の頭を掻いた。




