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メカニカルワルキューレ ─未来を取り戻す物語─  作者: ハムスターマン
第一章 プロメテウス編
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第22話 温かいもの


ラクシャシーとアスラが現れる少し前、ティシポネは山奥の湧き水で頭を冷やしていた。


──あの時私は

ヴァルキリーの適合者に助けられなければ、あのまま死んでいた。

結局私は、あの時のまま……弱くて誰かに守られる事しか出来ない哀れな少女のままなのかと。

両手を岩壁につき、ティシポネは自身の無力さに涙を零していた。


しばらくそうしていて、ティシポネがばっと顔をあげた時だった。


「きゃっ」


と誰かの声がした。ティシポネはすかさず剣を構えると振り返りざまに自身の真後ろに刃を向けた。


──そこには、ティシポネの動きに驚いたのだろう、ボロボロの布切れで身体を覆った小さな少女が、尻もちを付いていた。


「貴様……何者だ!私の何が目的で……」

ティシポネが凄むと少女は

「あ…わ、わ、わ」

とポロポロと泣き出してしまった。


強敵を斬るために磨き上げた剣を、ただ泣きじゃくる無力な子供に向け続けている。


自身が最強を目指すのは"自分より強い者"を倒すためであり、"自分より弱い者"を威圧するためでは無いはずだった。


私は私のせいで泣き出してしまったそれをどうすれば良いのか、分からなかった。



少女が泣き止むまで、私はその場に座っていた。他者を泣かせるのは、どうも居心地が悪かったのだ。


しばらくして泣き止んだ少女が、震える手で私に何かを渡してきた。

それはなんてことは無いただの削れて丸くなったガラス片……シーグラスだった。


「……?……これは……?」

意味が分からず思わず私は素で聞いてしまった。

「えっと……お、お姉ちゃん……な、泣いて…たから、」

少女が放ったその言葉に、

私はまるで頭を殴られたような感覚を覚えた。

それがどういう感情なのか、私自身が1番分からなくて、困惑した。


「……っ!!」

私は手渡されたそれ、少女の体温でほんのり温かいシーグラスを震える手で胸に抱くと、地面に膝をついて再び泣き出してしまった。

こんな気持ちは始めてで、でも嫌な気持ちはしなかった。

そんな私の背中を、困惑しつつも少女はさすってくれていた。



落ち着いた私は、若干の気恥ずかしさを覚えつつ、

少女を家まで送り届けようと、彼女に何処から来たのかを聞いた。

しかし彼女の口から放たれた言葉に、私は呆然とした。


「ぷろめてうすってとこ……」


プロメテウス……つまり彼女は……


「お前……もしかして適合者……か?」

私がそう問うと少女はコクンと頷いた。


言葉が出なかった。この少女……年は10くらいだろうか……私がプロメテウスから逃げた時よりも小さく見える少女が私と同じ境遇かも知れない……そう思った時、私は私を助けてくれた少女達の気持ちを少しだけ理解出来た気がした。



──その時だった。

私達の周りをプロメテウスの敵小型兵器が囲んだ。


敵の目的は明らかだった……彼女だ。

魔力結晶の適合者はプロメテウスにとって研究材料であり、エネルギー源であり、進化の為の生贄。一度唾を付けたそれを簡単には逃さないのを、同じ脱走者である私が、1番知っていた。


私が少女の前に立とうとした時だった。



──彼女は震える足で敵の前に立ち、私を庇ったのだった。


「お姉ちゃん……辛そうに泣いてたの……だから……!」


敵の戦力自体は、私より遥か格下で、他者に守られる必要すらない。

しかし

自身より巨大な敵を前に、震えながらも他者を守ろうとするこの儚くも強い意志を、ただ救いたい……私は始めて、他者の為に力を振るいたいと思った。力では無い強さ……それを垣間見た。


震える少女の肩に、そっと手を置く。

「……ありがとう。……君の『強さ』は、しっかり受け取った」


ナギサはそっと自分の影に少女を下げる。

そして二振りのサムライソードを敵に構える。

自身一人ならどうとでもなるが、今は力を持たない少女が居る。私に普段ない緊張が走る

敵が一斉に飛び掛ってくるが、それを少女を守りながらひたすらに切り裂いていく。


──こんなものは、ただの重荷でしかない筈だ、戦いにおいて、邪魔でしかない……その筈なのに


──どうしてこんなに……今、私は満たされているのだろうか。



敵を全て蹴散らし少女の方を向く。少女は凄い凄いと興奮していて、私はこそばゆかった。


──ラボなら、あそこならこの子も安全で幸せで要られるかもしれない。



私はあの、頭の悪そうな金髪や、ヴァルキリーの適合者を思い出しそんな事を考えていた。もしかしたら、人と歩む事は弱さでは無いのでは無いか……と。


そんな思いを胸にラボに戻った私が見たのは


集中治療室で今まさに消え入りそうなあの金髪の少女だった。

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