第212話 約束
「それで……アイツどうするよ。」
「アイツ?」
「ペルセポネだよ。」
アリアの発言でリリィも思い出す。
謝罪こそしたが、彼女はロード・テスタメントであり敵だ。
彼女の今後についてどうすべきかをハカセ達に確認しようとする。
「あー……彼女……そうね……」
ハカセは乗艦の準備の途中、リリィにペルセポネの今後の扱いについてを尋ねられ歯切れの悪そうにしていた。
「そうですわね……ペルセポネ……うん。」
ハカセどころかリーナすら何やらしどろもどろになる。
ペルセポネに何か合ったのだろうか……まさか様態が急変したとか……
「まあ、見れば分かるわよ。」
サイサは苦笑いしながらペルセポネの部屋の監視カメラを付ける。
「え……」
「何やってんだアイツ。」
アリアも横から監視カメラの映像を見て突っ込みを入れる。
彼女を拘束している部屋の中……そこには複数の子供達が入り浸りペルセポネと昼寝をしている光景が広がっていた。
そもそも拘束具が引き千切られている。
「えっ……手錠が!ハカセ、サイサさん手錠!」
「それもね……」
映像を巻き戻すと早い段階でペルセポネ自身が力強く手錠を引き千切る映像が映る。
しかし、サイサや大人が近付いてくるとペルセポネはいそいそと両手を近づけて、さも拘束されている様に見せた。
「なぁ……アイツ……監視カメラの存在知らないんじゃ……」
「……おそらく、本当に知らないんでしょうね。未来ではおそらく目に見える監視システムなんて死角を相手に悟らせるだけ……だからこそペルセポネは監視カメラをレイアウトか何かと思って居るんじゃないかしら……」
サイサは顎を擦りながら映像を眺める。
「えぇ……」
───
「ん……私としたことが、寝ちゃったのねぇ……」
ペルセポネは上半身を持ち上げると蹴伸びをして辺りを見渡し、そして困った様に苦笑いを浮かべる。
最初はエリーだけだった。
しかし、彼女が友達を連れてきてその友達が更に友達を……気が付けば周囲には三者三様、十人十色の子供達。
───皆、違う色を持っていた。
未来の人間は姿形こそレパートリーがあるが、データインプットをされた個体達は皆同じ様な思考パターンしか持ち合わせていない。
マザーから人間を守る様にと私達ロード・テスタメントは生み出された。
けれど……ペルセポネ自身はその命令に意味を見いだせなかった。
面白みも色も無い人間という空っぽな存在を守る事が……退屈で詰まらなかった。
だからこそ未来においてペルセポネは他者に攻撃した時だけ向けられる恐怖や怒りという激しい感情に刺激を、喜びを見いだしていた。
───しかし、子供達はただ存在するだけで新たな刺激を与えてくれた。
ヘンテコな絵を私だと言ってきた。
コロコロ変わる将来の夢を延々と聞かされた。
どれも非効率の極み。
無駄の塊……けれど……
「人間を守る……マザーブレイン、どうやら貴女はその意味を履き違えたのかもしれないわねぇ……」
マザーブレインは元は人間の天才科学者だったと噂で聞いた事がある……もしかしたら機械になり長い時の中で変容してしまったのかも知れない。
ペルセポネは自身の近くで眠る子供の頭を撫でる。
くすぐったそうに身を捩る姿にクスクスと笑って居ると突然扉が開かれた。
「あっ……。」
「……。おはようペルセポネ。」
扉が開くとハカセ、そしてサイサをはじめ研究所に居る人物達が立っていた。
「お、おはようございます……。」
ペルセポネは自身の自由になった手を見てバツが悪そうに顔を引きつらせた。
「あ、わ、私……捕虜……でぇす。」
その場の誰もが静まり返る。
「捕虜……」
「いや、全部見……」
「あ、あぁ……この手錠?なんかいきなり壊れたのよねぇ……監視システムも展開してないし所詮旧文明よねぇ?」
リーナはニコニコしながら天井の監視カメラを指差す。
「……あの箱が何よ……」
「あれが、この時代の監視システム……監視カメラですわ。
貴女が五時間前に自身で手錠を破壊したのはきっちり録画済みです。
……謝りますわ。
此処はあくまで私の私用研究所……脆弱な監視システムしか無くて……貴女が子供達と幸せそうに寝ている姿しか撮れませんでしたわぁ」
リーナの言葉にペルセポネは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
そして、一言だけ。
「……ぷ、プライバシーの……侵害……」
ペルセポネは千年前の監視システムに敗北した。
───
「……で、私をどうする気よぅ……?」
ペルセポネは寝入ってしまった最後の子供を別室に運び終えるとぷいっと視線を反らしながら言う。
「……逆に、貴女はどうしたいの?」
リリィはペルセポネを真っ直ぐ見つめながら聞く。
「……は?」
まさか自分がどうしたいかを聞かれるとは思わずリリィの方を凝視する。
「……どうしたいの?」
「私はロード・テスタメントよ……マザー……」
「貴女はどうしたいのペルセポネ。
私は貴女に聞いてるの。」
リリィの真っ直ぐな言葉にペルセポネは押し黙り不意に床をつつき始める。
「私は……この文明の破壊を命じられてるわ。ネメシスはより詳しい作戦内容を知ってるみたいだけどぉ……私達他のデウス・エクス・マキナが知っているのは、ただ文明を破壊しないといけないって事だけぇ……」
ペルセポネはチラリとリリィの方を見る。
「いや、だからぁ……別に殺せとかは命じられてなくて……だから……」
「……ちなみにだけど、エリスはその破壊作戦の不備を見つけて作戦の中止をネメシスに進言に向かって……アスガルドのデータを送って来て消息を絶ったわ……おそらく……もう……」
サイサは少しだけ目を伏せながら話す。
しかし───
「……別にエリスは死んでないわよぅ?
ネメシスの隣に居るわねぇ……
多分記憶操作でもされたんじゃないかしら?
───ネメシスは絶対に仲間を殺さないわ。
それだけは断言してあげる。」
そう言いながらペルセポネはゆっくりと立ち上がる。
「あ───でもぉ、作戦に不備があるんじゃあ……仕方ないわよねぇ。困ったわねぇ?」
言いながらペルセポネは再びリリィの方をチラリと見る。
流石にリリィは苦笑いを浮かべた。
「えっと……一緒に来てくれる?」
リリィの言葉を聞いてペルセポネはニヤニヤし始める。
「えぇ!?どうしようかなぁ……でもぉ……んふふ……ペルちゃん困っちゃうー」
ペルセポネの態度に痺れを切らしたアリアがボソっと言う。
「……行くなら行くで早くしろよババア。」
その言葉を聞いた瞬間ペルセポネはアリアにヘッドロックをかける。
「あぁ!?お前こんの金髪クソガキ……!!まぁたほざいたなコラァ!!」
締め上げられたアリアはフグの様な顔になる。
「今すぐ訂正しな!とっても綺麗で若いペ・ル・セ・ポ・ネ様……だろぅが!」
白目を剥きつつもアリアは抵抗を続ける。
「ぐぐぎ……うんち……クソ…ババア……」
「あがぁ!!テメェ!!」
流石にアリアの顔が青くなって来たのでリリィは謝罪しつつペルセポネを宥める。
ペルセポネに手放されたアリアはそのまま床に転げ落ち痙攣していた。
「ペルセポネ……」
リリィは困った表情を浮かべつつ彼女の顔を覗き込む。
「あぁ!一緒に行ってやるわよ!
エリーに守るって約束しちゃったし!
守れない約束したエリスの事も煽ってやりたいし!」
ペルセポネの言葉にリリィは満面の笑みを浮かべると彼女の手を握る。
「!ありがとうペルセポネ!これからよろしくね!」
両手を握られたペルセポネは歯切れの悪そうな顔をする。
「い、いや……別に仲間になったとかじゃなくて……利害の一致というか……」
「……話が纏まったところで、ヴァルハラが目標地点に到着したわ。
リリィ……アリアを抱えてちょうだい。」
ハカセは苦笑いを浮かべつつ部屋から出ていく。
リリィもアリアを小脇に抱えてペルセポネに手を振りながらハカセの後について行った。
ペルセポネが呆然としているとラクシャシーが彼女の肩を叩く。
「まぁ……リリィはああいう子なのよ。
敵だったヤツにも直ぐに優しく出来ちまう。
本当……私達も最初は困惑したもんさ。」
「……貴女誰よ。」
「あぁ?私かい?私はアンタが面倒見てくれた子供達の先生だよ。
───子供達に優しくしてくれてありがとうね。
全く、エリスと言いデウス・エクス・マキナは子供好きなのかねぇ……」
ペルセポネの背中を叩くとラクシャシーも部屋から出ていった。
部屋にはペルセポネとアスラの二人だけになった。
六本腕のアスラにペルセポネが若干引いているとアスラはおもむろに彼女を抱き締める。
「私もあの子達の先生。ありがとうペルセポネ。感謝。」
───ペルセポネは純粋な感謝の言葉を受けアスラの腕の中で小さく頬を赤らめていた。
これまで人を傷付けることでしか感情を向けられてこなかった彼女が、初めて向けられた純粋な感謝だった。
(な、なによ………案外悪くないわね……)
────
リリィがヴァルハラに乗り込もうとした時、後ろから呼び止められる。
「リリィ!!」
振り返るとそこにはローレンツが息を整えながら立っていた。
おそらく走って来たのだろう。
「ローレンツ!」
そんなローレンツを前にリリィは温かな笑みを浮かべる。
リリィの笑顔を見るなりローレンツは頬を赤くしつつ突然ネックレスを手渡す。
「これ……俺たちの装備じゃこの後の作戦に同行出来ないから……だから……!」
ローレンツから手渡されたネックレス。その先で揺れる指輪を見て、リリィは以前、御守りとして預かった彼の母親の形見を思い出す。
「……お母さんの形見の指輪?」
「い、いや……それは……」
しどろもどろになるローレンツにロゼッタが茶化しを入れる。
『私は辞めとけって言ったんですよ?
まだ付き合ってもいない異性からの指輪なんかキモいだけだって!
なーのにこの唐変木ときたら……』
ロゼッタはやれやれと言うジェスチャーをしてそのままローレンツに投げられる。
「……キモいのは自分でも分かってる……でも……俺は……!」
顔を上げたローレンツは目を見開く。
───リリィがローレンツに抱き着いたのだ。
「ううん……嬉しいよ……ありがとうローレンツ。」
ローレンツもそっとリリィの背中に手を這わせる。
「必ず……必ず帰って来てくれ。
……そしたら、ちゃんと全部伝えるから……」
「……うん……絶対に皆の未来を取り戻して帰って来るよ。
だから……待ってて。」
リリィはローレンツとロゼッタに手を振るとヴァルハラに乗り込む。
───様々な決意を乗せヴァルハラ改は大空へ羽ばたいた。




