第18話 それぞれの思いと決意と
私達はハカセに聞きたいことがたくさんあった。
ハカセ…ベルさんの事、サイサさんの事。
そしてこれからの事。
私、アリア、ディアナさん、メガイラちゃんの四人で指令室に入るとハカセは今まで無いほど項垂れていた。
「は、ハカセ……大丈夫ですか?」
私が声をかけると俯いていたハカセが顔を覗かせた。
「……あぁ、皆。戻ったのか
……君は凄いよリリィ……まさかヴァルキリーの魔力結晶の干渉を抑え込むとは……」
「魔力結晶の干渉……
あの時の私の正義感は……確かに私の物だった筈です……」
私はそんな物で誤った訳では無いと言いたかった。
あくまで、自分の意識だと。
「……魔力結晶の怖い所でね……それが増幅された感情なのか、それとも自身の物なのか、分からなくなるのさ。」
ハカセはゆっくりと立ち上がると棚のお酒をコップに注ぎ仰いでいた。
「……ハカセは、それを知った上で私達にメカニカルワルキューレを……させてるんですね。」
私が言うと後ろのアリアとディアナさんは目線を落とした。
「……そうだよ。
私は、君たちがいつか自分を見失うかもしれないと知りながら、この力を与えた。
───あの男と何ら変わらない。
狂ったマッドサイエンティストさ。」
ハカセは自傷気味に零す。
「……なぁ、なんでハカセは……メカニカルワルキューレで戦争を無くそうとしてんだ。
……今まで、聞いた事無かったよな」
アリアが続いてハカセに質問をぶつけた。
「……世界から戦争を無くすのはね。
同じ技術を競い合った私と、親友サイサの夢でもあったのさ……私達も、君達と同じ、戦争孤児でね……
でも……そんなのはどうでも良かった。
魔力結晶のせいで歪んでしまったサイサの死を無駄にしたくなかった。
あの子の死を不幸で無意味な事件で終わらせたくなかった……
……ただの私の、惨めで惨たらしいエゴなんだよ。」
──確かに、ハカセはマッドサイエンティストで、動機もエゴなのかも知れないけど……でも
「エゴでも、何でもいいです。
……ハカセがどういう理由でこの組織を作ったのかも、どう思っていても……多分メカニカルワルキューレが救った人たちがいるのは……
ハカセが救った人が居るのは、本当ですから」
私がそう言うとハカセはゆっくりと顔をこちらに向けた。
そこには今まさに崩れてしまいそうな儚げな女性が居た。
「あはは……強いな、君は。
……私よりも、ずっと。
───ベル。
それが、魔力結晶に魅了され、効率こそが正義だと信じ、世界の為にと親友を殺した
私の名前だ」
「……君の……リリィの持つ、ヴァルキリーの魔力結晶の最初の適合者にして、最初のメカニカルワルキューレだった者だよ。」
ハカセの言葉に驚く。
まさかハカセも過去にメカニカルワルキューレだったなんて
「この右手でね、私はサイサを……彼女の魔力結晶があった場所を貫いたんだ。
……効率的だろう? 確実に、一撃で終わらせるには、それが正解だった。
……それ以来、右手の震えが止まらなくてね。」
「……あの時の私を、誰かに、
……貴女達みたいに止めてほしかった」
ハカセが持っていたコップを置く。
右手は、今も微かに、しかし確かに震えている。
「君がヴァルキリーに選ばれたあの日、私は正直、迷ったよ。
……また一人、この結晶に心を壊される少女を生んでしまうのではないかと。
……それでも私は、私の『エゴ』のために、君を、君達を戦場へ送り出して来たんだ」
「ダルクは、私とサイサが辿り着けなかった……あるいは、踏みとどまった一線を越えた男だ。
彼は、サイサの死すら『非効率な結末』だと嘲笑っているだろうね」
今まで見せてきた強い女性としての"ハカセ"の仮面の向こうには、自身のしてしまった"正解"をずっと後悔し続ける、一人の弱い女性が居た。
私よりもずっと深く自身を許せないでいるんだ。
「ハカセ……私は、私は感謝してるんです。」
ディアナさんが口を開く。
「貴女は私が……兵器になれと言う事か、と説いた時、綺麗事で言い包める事もせず……ただ、そうだと言った。
嘘を付かない貴女を、信頼してみようと思ったんです。」
「それに……実は……私、ここに来る前……娼館に居たんです……
行く当ても無かった私には、それしか選択肢が無かったから……
でも、いつか、自分が自分で無くなるのが嫌で、脱走したんです。」
「……誰かの慰みものとして朽ちていくはずだった私に、戦うための力と、守るべき家族をくれた。
……それがハカセのエゴだと言うなら、私は喜んでそのエゴに殉じます」
ディアナさんが過去にそんな大変な思いをしていたなんて知らなかった私は胸を締め付けられた。
「まぁ……あたしもさ、路地裏でゴミ漁ってた頃に比べりゃ、今あんたが言う『兵器』って仕事、結構気に入ってんだぜ。
……ハカセ、アンタが自分を許せねぇなら、あたしたちがアンタを許してやるよ」
アリアは普段浮かべる笑顔とは違い、温かな笑みを浮かべていた。
「ハカセ……何でかは私自身…わからないのですが、今の彼女達を見ていると私はなんだかとても温かいのです……
なぜだか、彼女達を守りたい。
計算では説明できません。
でも……この感情だけは、失いたくない……不思議です」
とメガイラちゃんは口にしてくれた。
私がメガイラちゃんのほうを見るとメガイラちゃんもこちらを見てくれた。
「……ハカセ、私は……ヴァルキリーの力を、自分のものにします。
結晶に呑まれるんじゃなく、ハカセがサイサさんと作ったこの力で、プロメテウスを、ダルクを止めたいんです。
……それが私の。私だけの『意志』です」
私達が各々の思いをハカセにぶつけた時。
ハカセの頬を涙が伝った。




