第16話 こんなの、終わらせなきゃ
プロメテウスの製造拠点の強襲破壊任務は、私達にハウンドを破壊された事が敵に伝わったらしく、苛烈なものとなっている。四方を小型機に囲まれ空からは爆撃、更にマシンガンやミサイルの嵐が私達に向け吹き荒れていた。
ハカセがパワードスーツの特殊フィールドの出力を30%上げてくれていた事でダメージこそ無いが、あまりの猛攻に攻めあぐねていた。
「クソっ!全然進めねぇし……街がっ……」
アリアが言う様に敵の攻撃の余波が街にまで被害を被っていた。
「ハカセっ……一度体勢を立て直す必要がありますっ……街の被害状況を確認後、一度ラボに帰還して……」ディアナさんもミサイルを撃ち落としながらハカセに無線で打診する。
「っ……。プロメテウスが製造拠点を移動する前にデータが欲しかったのだけど……仕方ないわね。全機帰還し……」
ハカセが全機帰還の指令を出そうとした。そんなの許さない。
「まだです!まだ何もしていない!私達のせいで街に被害が出ているのにこのまま引けません!!このまま突貫します!」
私は限界までスラスターを吹かせ、そのまま音速を超え、敵の群れを弾き飛ばしながら撤退を始めた大型機を追走し破壊していく。音速を超えた事で周囲に衝撃波が走り、一部の建物のガラスが粉々になり、壁がひび割れる。
「リリィ、止まれ! お前の衝撃波で建物が……! 中に人が居るかも知れないんだぞ!」
必死に追いかけようとするアリア。だが、音速を超えたリリィの背中は遠い。
──建物の損壊。でも、ここで止まったらこれから先、敵の爆撃によりより多くの被害が出る。
──被害を最小限に抑える最も『正しい最適解』は、敵の製造拠点を完全に破壊すること。
リリィの瞳の中で、翡翠の光が満ちていく。
「……分かってる。だから、早く終わらせなきゃ。」
「リリィっ!!」
『リリィ、止まりなさい! やはり貴女、魔力結晶の干渉を受けてるわ!今すぐ止まりなさい!!』
その時、自身に放たれたミサイルを私が躱すとそのままミサイルが家屋を破壊、瓦礫の中にまだ生存している親子らしき存在が居るのが、網膜に投影されたデータから分かった。
私はその時、亡くした家族を、瓦礫の下の親子に重ね、視界がクリアになる。
ハッとして、私は急いで瓦礫に向かおうとする。ほんの一瞬だけ、スラスターの出力が落ちる。
その時ヴァルキリーの魔力結晶は翡翠の光を放ち、それが鼓動を始めた。
伸ばしかけた右手を、私は自分で止めた。
──目の前の敵を差し置いて?
──敵を放置すればもっと被害が出るのに?
でも 生きてる家族を助けないと
──今ここで敵を逃がせばより多くの死が満ちるのに?
瓦礫からは助けてと声が聞こえる。
──世界を救う為の、正しき選択を
「うぅわぁああぁああぁあ!!!!!!」
──私は目の前の敵に向かった。
敵は全て殲滅。当初の任務、敵の製造拠点の殲滅とデータの回収を完遂した。
炎上する拠点の前に立つリリィ。翡翠の光は収まっているが、その瞳には光がない。
駆け寄ったアリアが見たのは、あの愛らしい相棒ではなく、ただ「敵を殲滅」する無機質な機械の姿だった。
雨が降り始める。
瓦礫の下でリリィに助けを求めていた親子を見殺しにした。
自身が救えなかった家族と重ねてもなお最適解を選んでしまった。
「救いたい」という初心を、あろうことか「自分のルーツ(亡くした家族)」への冒涜をした。
確かに作戦目標は遂行した。
けれど、自分の意志でおこなった、最適解の結果、瓦礫の下の親子が、生命活動を終了したというデータを、私はただ網膜に映していた。
──雨粒が装甲を叩く音が、心臓の鼓動よりも大きく聞こえた。
「お前……それで良いのかよ……」
アリアはリリィに駆け寄りながら告げる
雨が降りしきる中、半目で心此処にあらずと言う表情で、救えたはずの家族のなきがらを立ち尽くしながら見つめるリリィと、雨の音だけが響く。
リリィの肩をつかみ自身の方を向かせるアリア
「おいっ!」更に両肩を掴み
「お前はこれが望みだったかって聞いてんだよ!」
リリィはか細く零す
「でも……私は……メカニカル…ワルキューレとして……ヴァルキリーとして……正しい、選択を……」
俯きながら私は必死に言葉を紡ぐ、今は何も言わないでよ…アリア
アリアは続けざまに
「うるせぇ! ヴァルキリーだの正しさだの、そんなもんハカセにでも食わせとけ! お前は、リリィは、目の前でこうして親子が死んで、悲しいのか、それとも何とも思わねぇのか!? どっちだよ!」
と叫ぶ。
それを聞いて
「っ………!!あぁ!!うるさいんだよ!!家族でも……何でも無いくせに!」
これはリリィが初めてアリアに放った「剥き出しの拒絶」そしてアリアへの甘え
私は「ヴァルキリーとして……」と言い訳で必死に武装しようともがいた。
けれど、アリアに踏み込まれたことで、その武装が耐えきれずに決壊し、
ただの傷ついた空っぽな少女の「八つ当たり」が飛び出した。
そこにはもう「最適解を導き出す高潔な戦士」は居なかった。
自分の犯した罪の重さに耐えきれず、一番近くにいてくれる人を傷つけてでも、自分を守ろうともがく一人の子供が居た。
「っ……!!てめぇっ!!」
それを聞いたアリアは涙を浮かべ、とっさにリリィを殴ろうと拳を振り上げる
しかしディアナに止められる
そのままディアナは、静かに
「そうね……確かに、私達は家族でも何でもない。血も繋がってなければ、共に育った記憶もない。ハカセが造ったメカニカルワルキューレ、そして魔力結晶と適合したと言うシステムで同期しているだけの、ただの『同類』。……リリィ、あなたの言う通りよ」
雨の中、一歩、リリィに歩み寄るディアナ
「でもね、リリィ。血は繋がっていなくても、私達は皆、同じ『匂い』を知ってるはず。家が焼けるあの嫌な匂い。
親が動かなくなる時の、あの冷たさ。
……私達は皆、戦争孤児。あなたが今、見ないようにしている、その『なきがら』の痛みを、私達は世界で一番知ってなくちゃならないはずよ。」
「……作戦は成功。ヴァルキリーとしてのあなたは、正しい。
でも、私達だけは騙されない。
リリィ。あなた、自分で『ヴァルキリー』って仮面を被って、
自分の心を殺そうとしてる……それ、本当にあなたの望んだ“幸せ”なの?」
「……答えて、リリィ。あなたはメカニカルワルキューレのヴァルキリーの前に……私達と喫茶店で笑い合っていた、皆の笑顔を守るって言った、あのリリィでしょう?
あなたは、本当にこんな事がしたかったの?」
と真っ直ぐ、でも最後には笑みを浮かべ、リリィの目を見て伝える。
ディアナさんにそう問われた時、
私の目にようやく涙が溜まり、半目だった瞳を大きく見開く。 感情を押し殺すために固めていた顔が、一気に崩れる
その時、自身が本当にしたかった
「戦争を終わらせ"皆と"笑顔で居たい」と言う初心を思い出した。
「…まあなんだ、あれだ、少なくとも私は、お前の事、ちょっとは家族として見てたけどな…!ちょっとだけな!」
とアリアは頭をかきながら、ニカッと笑った。
酷いことを言った…私だって家族だって思っていたのに…それを私は踏みにじったのに。
「あっ…っ…私っ……!ごめんなさい……!ごめんなさい!!ごめんなさい!!!!」
私は崩れるように膝を付き、この場の皆に、救えなかった親子に、そして皆の笑顔を護ると誓った、あの時の私に謝った。
雨は少し弱まっていた。




