第123話 異なる場所で
リリィがハカセに呼び戻され、ヴァルハラに向かったちょうどその時
アリアはアトラス兵士の前で弾語りをしていた。
アリアが勝手に始めた訳では無い。
傷付いたアトラス側……パワードスーツ開発の合間に連絡して来たリーナの提案を受け、ワルキューレ各々が自分の出来る事をして傷付いた兵士達の士気を取り戻させてあげて欲しいというふわふわとした依頼だった。
辺りはすっかり暗くなり、瓦礫撤去も兵士の治療も落ち着き、アトラス兵士たちも今まで自身らが苦汁を舐めさせられたティターニアの巨大兵器をメカニカルワルキューレと連携し倒した事で歓迎ムードが高まった結果、小規模ながら宴会の様な物が開かれた。
出される食べ物はこんな時の為、ディアナが作った簡単な創作料理とアトラスが備蓄していたレーション等だが、それでも束の間の楽しい時間になる様に皆が笑顔を浮かべていた。
アリアは自身のギターを膝に乗せると普段の彼女からは想像出来ない柔らかな歌を口ずさみ始める。
それを見たフィレアは全力で叫び、興奮が最高潮に達したかと思うと突然卒倒し、そのままアトラスの兵士達に担がれ医務室に運ばれていった。
ルキアは三女の失態にダルケンらに何度も頭を下げ、ノアは長女である筈のルキアの頭を下げさせていた。
ミレイナはと言うと腕相撲でアトラス兵士百人抜きをすると豪語し次々に兵士達の心をへし折っていった。
その中でもローレンツと同年代のアトラス兵士、アントニーは可憐な美少女とお近づきになれると浮かれていた。
ミレイナのキリッとした瞳に少女らしい柔らかな笑顔……テンション爆上がりだった。
女っ気の少ないアトラスにおいて美少女の集団ともなれば尚更テンションも上がるだろう。
しかし───いざミレイナの手を掴むと、まるで鋼鉄の様な硬さの筋肉に一瞬で戦慄する
(あ……これ、死ぬヤツだ)
次の瞬間アントニーは腕を軸に勢い良く回転し、そのまま吹き飛んだ。
メガイラもメカニカルワルキューレ意外の人間……特に男性と長時間会話した事が無かったのでソフィアの後ろに隠れがちになりつつも、宴会の浮ついた雰囲気を楽しんでいるようだった。
───そんな皆の楽しげな雰囲気を尻目にリリィは一人ヴァルハラの入り口で後ろを振り返り柔らかな笑顔を浮かべる。
皆が楽しげに笑う……この幸せをいつまでも絶えさない為に……
リリィは振り返るとハカセとリーナの待つ研究室に向かった。
───
「失礼します。」
リリィが自動ドアを開くとハカセとリーナ……特にリーナが興奮気に車椅子で近付いてきた。
「待っていましたわリリィ!ささっいらしてくださいな」
そう言いながらリリィの手を掴むとリーナにある場所に案内される。
しかし、その一角だけやたら暗くなっておりよく見えない。
するとパチンという音を鳴らせて明かりが付く。
突然の光にリリィは一度目を瞑る。
そしてゆっくりと目を開くと、そこには今までのリリィのメカニカルワルキューレを思わせるデザインでありながら装甲面積が増えたパワードスーツが鎮座していた。
「これが……エクゾスケレート……?」
リリィは台座の上のパワードスーツを見上げると思わず零す。
アトラスのパワードスーツとメカニカルワルキューレの中間デザインの様な姿にリリィの視線は釘付けになった。
「……各所に埋め込んだ魔力結晶の破片にエネルギーを蓄えることでエネルギー生成量の下がったヴァルキリーのメガミドライヴでも動かす事が出来る様に調整したわ。
防御力においても、魔力結晶片に蓄積させたエネルギーによって、ある程度空中戦闘が可能な性能は確保できているわ」
ハカセの言葉を聞きながらリリィはそのパワードスーツを優しく撫でる。
「スペックとしては……第一世代のメカニカルワルキューレの半分程、といったところでしょうか……相変わらず、ベル博士の技術力には脱帽してしまいますわ。」
「完全な魔力結晶の力が無ければこの程度、という事よ……」
リーナとハカセの言葉を聞いてリリィは少しだけ落ち込む。
半分……半分か。
今までだって、何とか勝てていた様な状態だった。
戦いの苛烈さを考えたら心もとないかもしれない。
───それでも
また、空を飛べる。
皆と、一緒に。
リリィは胸の前で手を握るとそっと笑顔を浮かべた。
「また一緒に空を飛ぼうね、ヴァルキリー」




