第120話 改めて、家族と
リリィはハカセ達に自身の新たな力の開発を託すと一人ヴァルハラを降りてアトラスの拠点に向かった。
他ワルキューレ達が拠点の瓦礫撤去等をしているとの事だった為、自身も何かしなければと足が一人でに向かっていたのだった。
リーナには無茶をしたあげく治療を受けたり、自身の新しい力の開発をしてもらったりと、既に返し切れない恩が出来てしまった。
───それでもやはり、ネガ・メガミドライヴを兵器として運用するアトラスの在り方には不満があった。
リリィが一人そんな事を考えて歩いていた時だった。
火薬庫だろうか、そこに設置された椅子にダルケンが座っているのが見える。
彼ともあまり会話らしい会話はしていないな等と考えていた時だった。
リリィに気付いたダルケンが手招きして来たのだ。
リリィは思わず辺りをキョロキョロとした。
接点の少ない自分をダルケンが呼ぶとは思わなかった。
「いや、嬢ちゃんだよ。
リリィ……だったか?手が空いてんならちょっと手伝ってくれ」
ダルケンはそう言うと空いている椅子を軽く叩いたのでリリィは思わずおずおずと彼の指示に従う。
リリィが椅子に近づいた時、ダルケンが何をしているのかが分かった。
「ネガ・メガミドライヴを拭いてるんですか……何故……?」
リリィが目にしたのは丁寧に並べられた複数のネガ・メガミドライヴをダルケンがそのゴツゴツとした指には似つかわしくない、優しく丁寧な動作で拭いている光景だった。
「何故って嬢ちゃん、こいつらは……俺たちの家族だからさ。」
ダルケンはなんて事は無いかのようにリリィの質問に返した。
「家族……ですか?」
リリィにはダルケンの言っている言葉の意味が分からなかった。
「あぁ……アトラスにいる奴らは皆プロメテウスに家族を奪われたって話しは、したよな?
───こいつらは間違い無く、そいつらの妹や娘だった奴らさ。」
そう話すダルケンの指が微かに震えた。
「嬢ちゃんの言う通り、俺たちアトラスはネガ・メガミドライヴを使って今は戦ってる。
それを嬢ちゃんが不快に思うのも理解してるさ。
だがな……」
そこまで言ってダルケンはネガ・メガミドライヴをゆっくりと机に置いた。
「俺たちみたいに魔力結晶と適合出来ない奴らがティターニアに対抗するには……
こいつらの力を借りる必要があったのさ……」
「……ダ、ダルケンさん。私……っ」
リリィはそれより先の言葉を出そうとして詰まる。
顔も思わず伏せてしまった。
───もし、自分が魔力結晶と適合出来なかったとしたら
───それでも尚彼らの様に戦うと決めたなら
きっと自分もネガ・メガミドライヴを使わざるおえなかっただろうと容易に想像が出来てしまった。
「……嬢ちゃん、俺たちはこいつらを"道具"だと思ったことは一度もねぇさ。
こいつはなぁ、俺の………っ
本当に可愛いヤツだったんだよ……いつも帰るとパパ、パパって……なのになぁ……」
ダルケンが泣き出したのを見てリリィは咄嗟に彼の背中を擦る。
「……ティターニアを倒すまでは……パパに……力貸してくれなぁ……"ファナ"」
リリィの事も忘れてネガ・メガミドライヴ……自身の娘、ファナに謝る大男の背中は
───とても小さく見えた。
───
泣き止んだダルケンは気恥ずかしげに頭を掻いていた。
「……すまねぇな嬢ちゃん……気持ち悪い所見せちまって」
「いいえ……私こそ、少女を炉心にする技術を平然と使う人達だなんて……最低な事言ってしまって……本当に……ごめんなさい……」
リリィはダルケンの隣に座るとネガ・メガミドライヴを優しく拭き始める。
今思えば、リリィがネガ・メガミドライヴに生身で触れるのはこれが始めてだった。
冷たい鉄の箱……魔力結晶と適合した少女の脳と脊髄の一部を残してエネルギー機関とした悪魔の兵器……
でも、それを泣きながら振るう人達の気持ちも理解出来た。
「……必ず倒しましょう。ティターニアを……ガドルを……!私達で!」
リリィは横のダルケンの方を向く。
ダルケンはリリィの真っ直ぐな瞳を見て笑顔を浮かべた。
「頼りにしてるぜメカニカルワルキューレ……リリィ嬢ちゃん!」
そう言うとダルケンはバシバシとリリィの背中を叩く。
ちょっと痛い……けど……
リリィも思わず笑顔を返す。
その後も二人で談笑をしながら黙々と
……ネガ・メガミドライヴ……彼らの家族を拭いていくのだった。




