第12話 生体部品
無線からは、激しいノイズの後にハカセの深く長い溜息が聞こえる。
「……二人とも、帰ってきなさい。」
空からはキュベレさんが輸送機で降りてくるのが見えた。
スタッフさん達がアリアとディアナさんを担架に乗せるのを見て私はメガイラちゃんの腕の中で意識を手放した。
ハカセはラボの研究室でメガイラが破壊した機体の解析を行なっていた。ハカセは過去のある事件から利き腕に震えがある為、大まかな作業はキュベレに指示を出し行なっていた。
「キュベレ……これは……」
ハカセは自身の目に飛び込んできた情報に項垂れていた。人の脳と脊髄と一部部位のみ残された状態で魔力結晶と直接"接続"されたエネルギー機関。自身が親友と過去に造ったメガミドライヴの初期ロットと酷似した構造をしていることからも、この技術の根幹がどこからかプロメテウスに漏れた事を告げていた。
「キュベレ……あの子(親友)なら、こんな使い方はしなかったはずよ。これは……こんなの……冒涜だわ」
ハカセは研究台に手を付き俯いていた。
「ですが、効率面ではこちらが……」
キュベレはあくまで冷静に、残酷に事実を述べた。
「そんなのは……言わなくてもわかってるわよ」
ハカセは隣のキュベレに小さく怒りをぶつける。
エネルギー機関として運用するなら確かにプロメテウスのこの構造は正しい。脳に定期的に電気ショックを流し苦痛を与え、更に薬品で快楽を与える事で、人間を単なる発電機として扱うために、感情の振れ幅を無理やり引き出す。……人と言う不安定な存在を使う以上、この構造が最も効率が良い、そんな簡単な事は最初期に私も親友も理解していた。“完成された兵器としては正しい”
でも、でもこんなのは……
──美しくないじゃない
ハカセは処置室へ向かう。そこには、新型の攻撃を受けボロボロになったリリィが横たわっている。
プロメテウスのやり方なら、ワルキューレの四肢を切り捨てて魔力結晶に直結すれば、もっと強くできる。その誘惑を振り払うように、ハカセは震える手でリリィの頬に触れた。
プロメテウスに技術を漏らしたのは、今は亡き親友なのか、それとも奪われたのか。
解析データの中から、今回の敵のエネルギー機関について、今は亡き親友の名が刻まれたプロジェクト名が記されていた。
『プロジェクト・サイサ』
リリィはゆっくりと目を覚ました。
またあの病室だ……
初めてラボで目を覚ました時を思い出した。でも今度はハッキリと覚えている。アリアとディアナさんが傷付き…メガイラちゃん、そして私自身……
ゆっくりと上半身を起き上がらせる。
──良かった。今度は拘束されてない。
微かに微笑んだ時
先の戦闘で首を絞められた時の痛みを思い出し、ベッドの中で蹲る。
私がベッドで蹲っていたらメガイラちゃんが病室に入ってきた。メガイラちゃんが普段の服では無く病人服である所を見ると彼女もまた完治していないのだろう。
「リリィ…まだ痛みますか?」
彼女はいつも以上に弱々しく、でも私の身体を案じてくれた。
「ううん。やっぱりハカセのメカニカルワルキューレは凄いよ。あんなに激しい攻撃を受けたのに全然……痛く、痛くないもん」
事実身体は痛くなかった。
「リリィ、嘘を吐かなくていいんです。私の計算では……」
と、いつものように理屈で返そうとして、言葉に詰まるメガイラ。
「……ごめんなさい。計算なんて、どうでもいいですね。私は……怖かったです」
メガイラちゃんが零した怖かった。そこで初めて私はメガイラちゃんの顔をみた。先ほどまで泣いていたのが分かる目の腫れ、いつもはポーカーフェイスの彼女が不安で押し潰されそうになっていたのが分かった。
「……ごめんね、ありがとうメガイラちゃん。
」
リリィがベッドから手を伸ばし、震えるメガイラをそっと抱き締めた。腕の中の彼女は思ったよりもずっと小さかった。
メガイラちゃんは落ち着いたのかそっと私の腕から離れた。
「その、失礼しました。私……」
「ううん、怖かったのは私だけじゃないって教えてくれたから。だからありがとうね。」
「そうだ…アリアとディアナさんは」
私は先に攻撃されたアリアとディアナさんが急に気になりだした。
「アリアですか……」
メガイラちゃんが俯く。もしや容態が悪いのかと心配になる。
「彼女は起きるやいなや私用のオムライスを全て食べて行きました。」
「ディアナさんは……?」
「彼女は『アリア、人の物を食べちゃダメでしょ!』と怒鳴りながら、アリアを追いかけていきました。二人とも、元気です」
メガイラちゃんはやれやれと言う表情を浮かべていた。
しばらくして、ハカセがまとめた敵機体の情報が私を含めた全員に送られてきた。
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