5−24:戦いを終えて
――ゴゴゴゴゴゴ……
ゴブリンキングを倒したことで、背後の石扉がゆっくりと開いていく。同時に床も開いていき、そこから下り階段が姿を現した。
「………」
――ブォン……
戦闘が終わったことを確認し、ドーム型の防壁を解除する。
……メテオストライクを受け止めたことで、俺の魔力量はだいぶ減っていた。だいたい半分を少し下回るくらいか、魔力に余裕があってもこれなのだから、前回は本当に紙一重だったんだな。もしもあの時、マジック・スティールの魔法を使えるようになっていなかったとしたら……果たしてどうなっていたことやら。
「大丈夫か、恩田探索者?」
「ええ、問題ありません。魔力が半分に減りましたが、傷1つ負っていませんよ」
「む、そうか……」
俺の返答を聞いて、権藤さんが腕を組んで考え始めた。元々、権藤さんはゴブリンキングの強さを体験するために来ているからな……俺の魔力を半分以上削る攻撃がどれほどのものか、精査しているのだろう。
「逃げ場がどこにも無い中での、あの攻撃……山野さんの一撃であの状態になってもなお放ってくるのでは、どうにも止めようがないな」
「……攻撃は止められない前提で、対策を考えた方がいいか」
「どうにかならないもんかねぇ? アタイの【水魔法】で盾を作るとかすればいけるかも、そっち方面の制限は無いし」
「私も、何か力になれるでしょうか……?」
初めてファイナルアタックを目の当たりにして、高城さんパーティの面々はかなり真剣な表情で話し合っている。ダンジョン深層を本気で目指すのであれば、同じような攻撃を放ってくるモンスターが今後出現する可能性は高いからな。その対策は必須だろう……なにせ、発動を止めることは絶対にできないのだから。
「………」
一方で、伸子さんは自らの右拳をジッと眺めている。ゴブリンキングに致命打を与えた一撃……それを放った方の拳だ。もしかして、どこか痛めたのだろうか?
「どうした、伸子さん? 右手、痛めたのか?」
「あ、いえ大丈夫っす! 右手が痛いとか、そういうのじゃないっすよ!」
……とは言うものの、伸子さんの表情はどこか複雑そうだ。それが気になったので、ジッと伸子さんの顔を見続けていると……観念したのか、伸子さんが口を開いた。
「……ボク、昨日までは第5層止まりの探索者だったっす。それが、こちらに来てたった1日でこうなるなんて……自分のことなのに、ちょっと信じられなくて困ってたっす」
……なるほどな。自分の実力ではなく、いわゆるパワーレベリングみたいな感じで連れてきてもらった負い目を、伸子さんは感じているわけか。
まあ、そんなはずがないんだけどな。パワーレベリング? 伸子さんに実力が無い? ハッ、そんなことを言うヤツがもし居るんなら、よっぽど人を見る目が無いんだろうさ。
「ゴブリンキングは、そんな簡単に倒せる相手じゃないぞ。元々伸子さんに実力があったからこそ、あそこまでの攻撃を放てたんだ。
……それに、強力な【火魔法】を使うゴブリンキングを殴りにいくのは、相当な勇気が要ったはずだ。その恐怖を振り切って、トドメの一撃を的確に放った伸子さんに実力が無いなんて誰も思わないよ」
俺がそう言うと、近くで話を聞いていた朱音さんも小さく頷いた。
「恩田さん、朱音さん……」
「ふふ、大丈夫よ伸子ちゃん! 自信を持って、あなたは強いんだから!」
「自信……うん、そうっすね! くよくよするのは自分らしくないっす!」
曇っていた表情が、徐々に晴れやかになっていく。
……そして数秒後には、伸子さんは太陽のような笑顔になった。
……そんなやり取りがあってから、しばらく。権藤さんが遂に口を開いた。
「……単刀直入に聞こう、恩田探索者。最後のメテオストライクに耐えられそうな探索者は、君の知る限りで何人いる?」
「それは、自力のみで耐えられる探索者、ということでよろしいでしょうか?」
「そうだ」
自力でメテオストライクに耐えられる探索者か……何人かの顔が思い浮かんでは、そっと消えていく。
それを何度か繰り返して、候補者が1人だけ残った。
「……現状、俺を除けば思い付くのは1人だけですね」
「ほう、それは誰だ?」
「帯刀さんです」
「えっ!?」
急に名前が出てきたからか、帯刀さんがびっくりしている。
……でもこれ、マジなんだよな。
「あの攻撃を素で耐えるのは無理なので、防御系ギフトかスキルが必須です。そして、ゴブリンキングの地属性魔法は魔法攻撃であると同時に、強力な物理攻撃でもあります。その両方に耐えられるのは、現状帯刀さんしか思い付きません」
地属性魔法の厄介なところは、魔法攻撃なのに物理攻撃的な要素を併せ持っていることだ。どちらかだけでなく、どちらにも耐えられなければならない。
そうなると、単に重装備で身を固めてもダメ、魔法対策ばかりしていてもダメとなってしまう。帯刀さんはその点、物理攻撃的な要素は【オートプロテクト】で防げるし……魔法攻撃的な要素は、【氷魔法】をぶつけて相殺してしまえばいい。攻撃魔法でさえなければ、十分な出力があるみたいだからな。
「……帯刀探索者以外には居ないのか?」
「はい、少なくとも俺が知る限りでは。横浜ダンジョンの嘉納さんや菅沼さんでも無理でしょう、2人はそういうタイプの探索者ではないので……」
嘉納尚毅さんは【怪力乱神】、菅沼遥花さんは【賢者】のギフトを持っている人だ。どちらも攻めに特化したギフトで、守勢に回ると脆い面がある。ゴブリンキングとは相性最悪だろうな……倒すことはできても、ファイナルアタックが防げないだろう。最近加入した梵さんは純粋な【斥候】だから、そういう役割を期待するのは酷だしな……。
「……ふむ。そうなると、やはり恩田探索者付きでなければ簡単には戦わせられないな」
「………」
「許可を出したところで、見合うスキルが無ければ無駄死にするだけだ。そうなると分かっていて、戦いに送り出すことなどできん。
……自身の目で確認しておいて正解だったよ。これは、1度体感しなければ分からんな」
権藤さんはなおも語り続ける。
「ゴブリンキングが最後に放ってきた攻撃魔法、メテオストライク……俺が今まで見た中では、最も威力のある攻撃だった。話には聞いていたが、まさかあれほど強烈だとは思いもしなかったな。
自衛隊の迷宮探索部隊でさえ、あの攻撃に耐えられる者はそういまい。俺でも耐えられるかは分からん、試したいとも思わんがな」
「「「「……!」」」」
権藤さんがポツリと溢した言葉に、皆が息を呑む。自衛隊の迷宮探索部隊……それは、日本国内に限って言えば最強クラスの探索者だからだ。
そんな人たちでさえ耐えられるか分からないのが、メテオストライクという攻撃だ。あれを不可避の状況で、しかも勝利の余韻に浸りたいタイミングで放ってくるのだから、ゴブリンキングがいかに悪辣なモンスターなのかがよく分かる。
「最後の攻撃に耐えられるだけの何|かが無ければ、戦闘許可は絶対に出せん。それ以外の部分は、人数さえかければどうにでもなるというのが俺の感想だ」
権藤さんの意見には、俺も賛成だな。実際、今回の戦いはこちらが終始圧倒したまま勝てたしな。有効打を放てる探索者が複数人居て、かつヘイトを集める人さえ居ればゴブリンキングは倒せるだろうさ……その後が恐ろしいだけで、な。
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