4−106:成長する虹雛鳥
「ピィィィッ!」
――バサァッ
虹雛鳥が九十九さんの手の上で、高らかに鳴き声をあげる。周りに見せつけるように翼を広げると、そこには赤々と輝く羽根が数本生えていた。虹雛鳥は地の体色がやや白っぽいので、赤色の羽根はそのコントラストでよく映えている。
……体も明らかに大きくなってるな。多めに見積もっても20センチほどしか無かった体長は、今では倍の40センチを軽く超えている。弱々しかった雛鳥の面影はほぼ無くなり、体も翼も一回り以上太く逞しくなっていた。
「……お、重いのです……」
そして、九十九さんの腕にかかる負担も10割増しくらいになっているようだ。虹雛鳥を支えている両腕が、プルプルと小刻みに震えている。
「おいおい、大丈夫か九十九さん」
「大丈夫……じゃないのです……うう」
「さすがに下りてもらうしかないな。今の虹雛鳥は、九十九さんの肩に乗るには大きすぎるし」
ヒナタは小さくて軽いので、肩に乗ってもそこまで動きに支障は出ないのだが……今の虹雛鳥は、肩に乗るにはちょっとデカすぎる。赤い羽根が生える前なら、まだ良かったんだがな……。
そうなると、さすがに床へ下りてもらう他選択肢は無い。
「そ、そうしてもらうのです……に、虹雛鳥ちゃん、ちょっと腕が限界なのです、1回下りてほしいのです」
「ピィィッ!」
――バサバサバサ……
九十九さんの言葉が理解できているようで、虹雛鳥はすぐに九十九さんの手から飛び下りる。翼を軽く羽ばたかせて落下速度を落とし、ゆったりと床に着地した後は……そのまま、九十九さんの方へと向き直った。
……ん? あれ、そういえば……。
「いつの間にか、暑くなくなってるな?」
「ピィ?」
虹雛鳥の体を覆っていた炎が引っ込み、周りの気温がぐっと下がっている。さすがに触れれば火傷は免れないと思うが……少なくとも、近付くだけでスリップダメージを撒き散らすようなことはなくなったらしい。
「ピィッ!」
「『抑えた!』って言ってるような気がするのです」
「へえ」
成長して赤羽根が生えたから、炎を制御する能力も上がったということか。これはもう、雛鳥の域を脱しているのではないだろうか?
……いや、実はまだ飛行できないのかもしれない。さっき九十九さんの手から飛び下りた時の様子からして、滑空くらいはできるようになっていると思うが……。
「ぐぉぉぅっ!!」
と、ここで吹き抜けホール中に響いていた打撃音が止み、代わりにフェルの咆哮が轟く。どうやらガーゴイルが全滅し、おかわりも来なくなったようだ。
「フェル、ナイスだ! さすがは闇の竜王、矮小な悪魔なんぞに本気を出すまでも無かったようだな!!」
「ぐぉぉぉぉぉぉぅぅっっ!!」
勝ち鬨をあげるフェルに、大声で労いの言葉をかける。フェルは機嫌良さそうに『我の勝利だ!』と叫んでいた。
「――ギャオォォォォォォッッ!!」
「「「「!?!?」」」」
フェルの咆哮へ返すように、頭上から耳をつんざく強烈な鳴き声が響き渡る。その鳴き声が聞こえるのと同時に、オートセンシングが吹き抜けホールの最上層に何かしらの動きを検知した。
急いでそちらの方を見てみると、翼に4色――赤色、橙色、黄色、緑色――の羽根を生やした巨大な鳥と、バッチリ目が合った。鋭い目付きで俺たちとフェルを交互に睨んでいるものの、今のところ攻撃してくる様子は無さそうに見える。
「この子の親鳥、なのです?」
「まあ、ほぼ間違い無いだろうさ」
赤い羽根の生え方とか、本当に虹雛鳥にそっくりだからな。親鳥かどうかはともかくとしても、同じ虹勾鳥なのは間違い無いだろう……虹というわりに羽根が4色しかないのは疑問だが、あの鳥ももしかしたら成長途中の個体なのかもしれないな。
「ギャォォッ!!」
フェルの最大サイズには遥か及ばないが、その鳥もそこそこ大きな体躯を持っている。体長は約3メートルほどで、半かがみの状態でさえ通路の天井にピッタリ頭が付いているような状態だ。体色は虹雛鳥と同じで全体的に白っぽく、ゆえに4色の羽根がかなり目立っている。
……あの鳥、あの体の大きさで通路を通れたのか? 見た感じ、吹き抜け沿いの通路の天井ってかなりザラザラしてるっぽいし、あれじゃ頭が擦れて痛いんじゃ……あ、でも虹雛鳥が【体力再生Ⅰ】のスキルを持ってたし、更に成長した個体ならもっと強力なスキルを持っていてもおかしくないか。
「ぐぉぅ……」
「ギャォォ……」
勝ち鬨に水を差された格好となったからか、フェルが虹勾鳥を鋭く睨みつける。それに虹勾鳥も反応し、互いにジッと相手を睨めつけ始めた。
……デカいモンスター同士の睨み合いは、それだけでなかなか迫力があるな。それでいて、互いに手を出しそうな気配が無いのは……おそらく、戦えば双方タダでは済まないことが分かっているからだろうな。
このやり取りで、あの虹勾鳥が相当賢いことはよく分かった。これなら何とか話は通じそうだ。
「ピィッ! ピィィィッ!!」
「ギャオッ!?」
そんなことを考えていると、虹雛鳥が親を呼ぶように一際大きな鳴き声を上げた。その声は確かに虹勾鳥にも届き、それを聞いた虹勾鳥が驚いたように視線をフェルから外した後、すぐに1階まで飛び下りてくる。
「ぐぉぅ……?」
急に虹勾鳥に無視されたフェルが、戸惑ったように小さく呻く。それでも敵意が無いと判断したのか、フェルは虹勾鳥に手を出さずジッとその動きを注視していた。
「キュイッ!」
「ピィッ!」
1階に下り立った虹勾鳥が、小走りに近付いていった虹雛鳥を迎えて抱き入れる。この様子だと、やはり虹雛鳥の親鳥ということで間違いはなさそうだ。
……さっき上からこちらを睨みつけていた時に、どうやら虹雛鳥が居ることに気付けなかったらしい。ちょうど九十九さんの陰に立っていて、虹勾鳥から虹雛鳥が見えなくなっていたのかもしれないな。
「キュイ」
「ピィ」
虹雛鳥の体を調べ終えた親鳥が、虹雛鳥と一緒に俺たちへ頭を下げてきた。さっきまでとは鳴き声も変わってるし、どうやら俺たちのことを敵では無いと認めてくれたらしい。
「私たちは、この子を保護していただけなのですよ。お礼を言われるほどのことはしていないのです」
「……やっぱり九十九さん、なんて喋ったか分かってるよね?」
「なんとなく伝わってくる程度なのです」
仲間モンスターになっているわけではないのに、既に九十九さんには虹雛鳥や虹勾鳥がなんと言ったのか伝わってきているらしい。波長が合うというか、相当相性がいいんだろうな。
「キュイッ!」
「うん? 私たちを巣に招待してくれるのです?」
「キュイッ! キュイ!」
しかも、巣に立ち入ることまで認めてくれたようだ。虹雛鳥の【鑑定】結果にはノンアクティブモンスターだと書いてあったが、だからと言って人間に友好的なモンスターだとは限らないからな……これは、凄いことかもしれない。
「どうするの、高良さん?」
「もちろん行くさ」
「ぱぁ……」
俺がずっと感じていた強い気配は、この虹勾鳥が発していたものだということが確定したからな。ここより上に俺たちの脅威になりそうな強い気配を感じないのだから、行くしかないだろう。
アキが察知していた炎の気配も、どうやらこの4色羽根の虹勾鳥のことを指していたみたいだしな。
「……でもまあ、少し時間はかかりそうだけどな」
「なぜでしょうか?」
「せっかくフェルがガーゴイルを殲滅してくれたからな。上に行くのはドロップ品を全部集めてからだ」
かなり長い時間、破壊音が続いてたからな。下手すると100体単位でガーゴイルを倒してくれているかもしれない。いくら相性が良かったとは言え、フェルが行ったことはとても凄いことだ。
だから、ドロップ品は確実に回収したうえでフェルには然るべき褒賞を渡さなければならない。対等な仲間として、目をみはるような成果を上げた者に対して報いる義務が俺にはあるのだ。
「あ、それならフェルに持ち上げてもらいながら、目に付くドロップアイテムを片っ端からアイテムボックスに入れてっちゃえばいいんじゃないかしら? それなら、階段を求めて長い距離を歩かなくても済むし」
「おお、確かに」
「……というわけで、ごめんフェル、お願いできるか?」
「ぐぁぁぁぅぅぅ!!」
『我に任せろ! 褒賞は期待しているからな!』か。もちろん、フェルをがっかりさせないような物を用意させてもらうよ。
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