4−97:帯刀雪華VSレッドキャップ(後編)
帯刀さんとレッドキャップの戦いも、遂に4分が経過した。あと1分で決着が付かなければ、俺たちも介入してレッドキャップを倒すことになる。
……ただ、その前に帯刀さんが何やら仕掛けるようだ。この状況から1分でケリを付けるとなれば……おそらく、アレを使うのだろうな。
帯刀さんのギフト【氷騎士】。その力を最大限活かせる環境を、自ら作り出す大技だ。
「"アイスフィールド"」
――ヒュゥゥゥゥォォォ……
『ギャッ!?』
帯刀さんを中心とした半径10メートルほどの範囲内の空気が、陽光に照らされてキラキラと白く煌めき始める。空気中の水分が急速に凍り付き、氷晶となって辺りを漂い始めたのだ。
俺は特に深く考えず、こういう現象を全てダイヤモンドダストと呼んでいたのだが……帯刀さんによれば、厳密には違うらしい。ダイヤモンドダストとよく似た気象現象に氷霧というものがあり、発生原理はほぼ同じだが視程の長さや氷晶の挙動で区別されているのだとか。今回は視界がほとんど遮られておらず、かつ氷晶が次々と降り注いでいるのでダイヤモンドダストでいいだろう。
「攻撃魔法は得意ではありませんが、自身に有利なフィールドを【氷魔法】で作ることはできます。普段はパーティで戦っていますので、使う機会は稀ですけどね」
――パキパキパキ……
帯刀さんが喋っている間にも、氷の領域は容赦なく形成されていく。肌を刺すような凍てつく冷気が少しずつ広がっていき、空気中の水分だけでなく周囲の地面までもがまるで冬山のように固く凍りついていった。
【氷騎士】たる帯刀さんだが、普段は【氷魔法】をほぼ使わない。攻撃魔法は威力がほとんど出ず、逆に補助魔法は見ての通り過剰出力となってしまうからだ。パーティ行動に支障が出かねないので、封印しているような状態となっている。
だが、今はレッドキャップと1対1の戦闘中だ。俺たちも遠巻きに戦いを見守っており、巻き込む心配が無いので全力で魔法を使い始めたようだ。
『ギャギャッ!? サムイ!? ウゴケナイ!?』
既にだいぶ接近してしまっていたからか、レッドキャップは氷の領域へと取り込まれてしまったようだ。足元から徐々に凍りついており、レッドキャップの機動力が完全に封じられてしまっている。これでは退却もままならないだろう。
更には寒いのが苦手なのか、レッドキャップが体を激しく震わせ始めた。盾の炎も体を暖めるには火力が足りず、極寒の中で頼りなさげに揺らめいている。
――プシュン……
共に突進していたはずの大量のファイアボールも、帯刀さんに近付くにつれて火勢が衰えていく。空中を漂う氷晶に次々と当たっては、徐々にエネルギーが減衰していき……帯刀さんの下にたどり着く頃には、ファイアボールは火の粉よりも小さな火となっていた。当然、そんな小さな火でダメージを受けるほど帯刀さんはヤワではない。
「………」
――ザッ、ザッ、ザッ!
そして、当然ながら帯刀さん自身はこの氷のフィールドをものともしない。足甲の足裏部分は特殊な素材でできているらしく、固い氷にもしっかりと噛み合うし……凍てつくほどの寒さは、装備品の能力もあって元々通じない。この半径10メートルの範囲内は、帯刀さんにとっての絶対的な支配領域となっている。
「……はぁ」
もっとも、強力な分だけ支払う代償も大きい。魔力をかなり使うらしく、1日に2回も放てば魔力がほぼ尽きてしまうそうだ。そのうちの1回をここで使ったのは、この後の戦闘は基本的にパーティ戦なので、もうアイスフィールドを使うことは無いという判断からだろうな。
もう少し効果範囲を狭めれば、魔力消費量を抑えられるのではないか……そう思うかもしれないが、帯刀さん曰く出力調整がどうしてもうまくいかないそうだ。必ず半径10メートルほどの空間内を凍りつかせてしまい、魔力を大量に食ってしまうらしい。
……俺も【空間魔法】には振り回されてるから、その気持ちはよく分かる。空間ごと断ち切る魔法を行使してみたら、問答無用で魔力を9割近く持っていかれたり……その魔力消費量の多さから練習さえまともにできず、未だその魔法を制御するまでには至っていない。
「さて、これでトドメです」
『ギャ……ギギ……!』
ふと見ると、レッドキャップの両足は地面の氷と一体となって、完全に凍り付いてしまっている。盾の炎は既に消え去り、体には白い結晶のようなものがまとわりついていて、動きを著しく阻害しているようだ。あれでは攻撃を避けることはおろか、盾で防ぐこともままならないだろう
もちろん、まだ魔法による反撃の可能性は残っているので、油断は禁物だ。それを失念する帯刀さんではなく、彼女の挙動を見ても全く油断していないことは明らかだった。
なにせ、もはや1歩も動けないであろうレッドキャップに対して、少し距離をおいて剣を構えたのだから。
「参ります、"氷烈波"」
――ヒュオォォッ!!
遠距離攻撃手段に乏しかった帯刀さんが、必死に鍛錬を積み上げた末に編み出した魔武技――氷烈波。氷属性をまとった斬撃を飛ばして攻撃する、基本的な技だ。
その威力は、必要にして十分なレベルに到達している。なにせゴブリンジェネラルを鎧ごと斬り捨てたほどなのだから、弱いわけがない。
『ギャ……フ、"フレイムボディ"……』
――ゴウ……
ダイヤモンドダストが舞うほどの極寒に震えながらも、レッドキャップは必死に抗おうとする。再びフレイムボディの魔法を唱え、体にまとわりついた氷を溶かそうとするが……炎の勢いがあまりに弱く、体に張り付いた霜が多少溶ける程度に留まった。もはや魔力切れなのか、アイスフィールドの影響下で威力が抑え込まれてしまっているのか。
いずれにせよ、魔法込みの戦闘では帯刀さんの方が圧倒的に上だったようだ。
――ズバッ!
――ガチガチガチガチッ!
『ギグ……ッ!?』
氷烈波がレッドキャップに直撃し、その身を深々と斬り裂く。盾も鎧ももはや意味を為さず、一目でクリティカルヒットだと分かるほどの深い傷を与え……その傷口から、一気にレッドキャップの全身が凍り付いていく。
『………』
――ボフンッ
そして、数秒後。立派な氷像が出来上がり、そのすぐ後に白い粒子を撒き散らしながら消えていった。
――コロン
――パサッ
そして、後には魔石とスキルスクロールが1つずつドロップする。
氷と炎のぶつかり合いは、帯刀さんに軍配が上がった。
「………」
――パシュゥゥゥ……
帯刀さんがアイスフィールドを解除し、辺りにうららかな空気が戻ってくる。このタイミングでちょうど5分、真面目な帯刀さんらしいピッタリの時間配分だった。
「……結局、近接戦闘だけでは5分で仕留められませんでした。アイスフィールドは効果的でしたが、少しやりすぎだったかもしれませんね」
「まあ、初見の相手だったしな。安全マージンを十分に取った結果なわけだし、こんなものじゃないかな?」
帯刀さんが反省の弁を口にするが、戦いの流れとしてはほぼ完璧に近かったと思う。【鑑定】だけでは得られないレッドキャップの生の情報を、5分という制約の中でかなり引き出すことができたし……その上でレッドキャップを攻防共に圧倒し、きっちり5分で倒し切ることができた。
レッドキャップの反応を見るに、おそらく氷属性が弱点だったのだと思われるが……それは、火属性が苦手な帯刀さんも条件は同じ。その上で圧倒してみせたのだから、実力は帯刀さんの方が遥かに上だったということだ。
まあ、帯刀さんは今の戦いにあまり納得がいっていないようだけどな。睨み合いでかなり時間を使ってしまい、剣だけで倒し切れなかったことを反省しているようだ。
ただそれも、俺としては普通に正解だと思っている。リセットの利くRPGゲームじゃあるまいし、初見の相手に何も考えず突っ込んでいくなど愚者の行動でしかないからだ。
「さて、スキルスクロールは……と」
すっかり見慣れた、羊皮紙のような見た目のスキルスクロールを手に取る。そうして、聞き慣れたシステム音が頭に流れてきて……。
「なるほど、【剣術】スキルか」
【杖術】のスキルがあるのだから、当然【剣術】スキルもあるとは思っていた。まさか、こんなところで手に入るとは思わなかったが……さすがは試練の間、ということでいいのだろうか?
「どう考えても帯刀さん用だな」
うちのパーティで、剣を扱っているのは帯刀さんだけだ。レッドキャップを倒したのも帯刀さんだし、これは悩むまでもなく帯刀さんのものだな。
「ありがとうございます。早速、使ってみたいと思います……」
スキルスクロールを手に持ち、帯刀さんが念じる。いつものように、白い光の珠が帯刀さんの体に吸い込まれていき……これで、【剣術】のスキルを得たはずだ。
「……これは、とても良いものを頂きました。次の戦いでは、更なる活躍を誓いましょう」
――ブンッ!
帯刀さんが、誰もいない方向に剣を振るう。その剣筋の鋭さが、更に増したような気がした。
「きぃっ!」
「おう、お疲れヒナタ。よくやったな」
そして、こっそり放っていたヒナタが俺のところに戻ってくる。
「あ、それってレッドキャップの剣?」
遠くに落ちていたレッドキャップの剣を、その足でしっかりと掴んだ状態でな。
「そうだ。やっぱり特殊ドロップの条件だったみたいだな」
普通のゴブリンも、棍棒を奪ってから倒すことが特殊ドロップの条件だった。レッドキャップもそうじゃないかと思っていたが、やはり俺の考えは正しかったようだ。
「"アイテムボックス・収納"っと……さて」
ここに来てすぐレッドキャップと戦闘になったので、周りを見ている余裕が無かった。なので、辺りの様子をしっかりと確認する。
……俺たちが出てきたのは、どうやら小さな小屋からだったようだ。見た目は石造りの小さな建物なのに、扉の奥を見ると洞窟になっているという極めて不思議な光景が広がっている。
そして、滅びた街並みの向こうには立派なお城が建っていた。明らかに、そこに何かがありそうな雰囲気を醸している。
「あのお城、何かありそうだな。行ってみるか?」
「賛成ね、他に目ぼしい所は無さそうだし」
「私も賛成なのです!」
「私も賛成です、行ってみましょう」
「きぃっ!」
「ぐぁぅっ!」
「ぱぁっ!」
全会一致で可決し、全員でお城目指して歩き始める。
さて、あそこには何が待ち受けているのやら。楽しみでもあり、不安でもあり……まあ、警戒だけは怠らずに進むとしよう。
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