4−92:亀岡への帰還
「うーん、面倒くさいなあ……」
「気にしたら負けですよ? 良いではないですか、霊峰富士を横目に帰れるのですから」
「そ〜だヨ! 私、羽田に直行なのヨ!?」
「飛行機なら余計に見えるんじゃないか?」
「……あ、そだネ! ラッキー、ワタシ!」
遂に迎えた、横浜ダンジョン留学の最終日。今日はダンジョンには潜らず、部屋の荷物を片付けながら留学組の2人とのんびりだべっていた。
最初は、俺がワープ航法で三条さんを鶴舞ダンジョンに連れて行ってから、ハートリーさんを羽田空港まで送っていくつもりだったのだが。ダンジョン留学は帰りの対応も制度のサポート内に入っており、留学者はそれを受けなくてはいけないそうなのだ。なので俺はワープで帰ることができず、装備封印や装備運搬という面倒な手続きをまた踏む羽目になっていた。
……でもまあ、それは当たり前か。行きと帰りと両方でサポートしてくれないと、普通は装備を持って帰れなくなってしまうのだから。特にハートリーさんはアメリカへ帰る必要があり、なおさら俺がワープで送っていくことはできない。
変にダンジョンの道を外れて、また不死者ノ王みたいなヤバいモンスターに追い回されても困るしな。それなら3人一緒に装備封印と装備運搬をこなし、あとはのんびり話しながら手荷物をまとめてしまおうということになった。
ちなみに、他の亀岡組は昨日のうちにワープで亀岡ダンジョンへ帰している。元々裏技的に3人を連れてきたので、帰り方もきちんとそれに合わせる必要があった。一緒に帰りたかったな……その方が圧倒的に早かったし。まあ、仕方ないけどな。
そして、明日には三条さんと俺は同じ新幹線のぞみ号に乗って帰ることになっている。ハートリーさんとは横浜駅前で分かれ、彼女は羽田国際空港まで行って飛行機に乗るそうだ。
「……なんだか、短いようで内容の濃い2週間だったな」
「……そうですね」
「私、スッゴク楽しかったヨ。成長もできたシ、留学して本当に良かっタ!」
「私も、留学して本当に良かったと思っています。探索者としてやっていく自信が付きましたから」
「はは、それなら良かったよ」
最初は2人とも、探索者としてはどこか危なっかしかったからな。三条さんはなんか焦ってたし、ハートリーさんは猪突猛進気味な所があったし……。
でも、最終的には2人とも自分の良さを損なうことなく、探索者として大きく成長することができた。大きなケガを負うことも無かったし、この留学は控え目に見ても大成功だったと言えるだろう。
探索者留学制度……その最初の利用者として、良い実績を上げることができたんじゃないだろうか。
◇
「さみしいヨ、ミサキ……」
「私もだよ、リンちゃん……」
「………」
横浜ダンジョンのエントランスホールで、美少女2人が抱き合っている。既に部屋は引き払い、後は帰るだけ……なのだが、やはり名残惜しいのだろう。なかなか互いに離そうとしない。
……アメリカと日本の距離を考えると、冗談抜きで会えるのはこれが最後になるかもしれないからな。できれば、気が済むまで見守ってやりたいところなのだが……。
「……三条殿、ハートリー殿、そろそろ時間だ」
見送りに来てくれた持永局長が、やんわりと声を掛けてくる。
「むう、あともう少しだけ……」
「俺と三条さんはいいけどな。ハートリーさんは、飛行機に乗り損ねたらさすがにマズい」
道中で、列車が止まらないとも限らないからな。余裕を見て移動するとなると、もう出なければならない。
「……ミサキ、アリガト」
パッと、ハートリーさんの方から身を離していく。
「それじゃ、駅まで一緒に行こうか」
「「はい!」」
そうして、俺は大きめのスーツケースを片手に駅の方まで引いていく。相変わらずの旅下手で、荷物の数が行きよりも増えてしまったな。
「……さてと、ここまでかな」
横浜駅のコンコース内に入る。俺と三条さんは、ここから横浜線――正確には隣の東神奈川駅から横浜線に入るので、路線的には京浜東北線になるのかな?――に乗って新横浜駅まで行くが……ハートリーさんは、東京方面へと向かっていく。電車の方向が違うので、残念ながらここでお別れだ。
「ありがとうな、ハートリーさん。ダンジョン留学は楽しめたかい?」
「ウン、楽しかっタ! 次は観光で、日本に来たいネ!」
外にはあまり出れなかったからな。確かに次は、観光でぜひ日本に来てほしいところだ。
「その時は、私たち三条家が精一杯おもてなししますよ」
「うん、楽しみにしてるネ!」
最後に三条さんと、そして俺と握手を交わしてから……ハートリーさんはスーツケースを持って、ホームへ上がっていく。
「それじゃあまたネ、ミスターオンダ、ミサキ!」
大きな声で手を振りながら、ハートリーさんは雑踏の中へと消えていった。
「……よし、俺たちも行こうか」
「はい」
ハートリーさんを見送ってから、俺たちもホームへと上がっていった。
そして、特に何事も無く新横浜駅へと到着する。ここからは新幹線に乗り換えて、一路西を目指すのだ。
のぞみ号に乗れば、ここ新横浜駅から京都駅まではたったの2駅……三条さんが下りる名古屋駅は、次の停車駅だ。
「今日は天気良さそうか?」
「はい、快晴予報ですよ」
行きは、無事に富士山の全貌を拝むことができた。幸先が良いと思ったものだが、帰りも天気が良いのでもしかしたら見れるかもしれないな。
◇
行きは道中のほぼ最後に見た富士山を、今回は最初の方でしっかりと拝んだ後は……ひたすら流れ行く景色を楽しんだ。
そして、"日本のデンマーク"こと安城市にある三河安城駅を定刻に通過した新幹線は……間もなく、名古屋駅へと到着する。
「あ、もう着くのですね」
俺のすぐ隣、E席に座っていた三条さんが軽く荷物を纏め始める。のぞみ号に乗ると新横浜駅から名古屋駅までは乗車時間が長いので、名古屋駅到着前のこのタイミングで定刻通過アナウンスを毎回しているそうだ。
……あれ、そう言えば行きはどうだったっけ? 熱海か小田原か、どっかで似たアナウンスがあったような……あんまり覚えてないな。
「……それでは、恩田さん。また会いましょう」
「ああ、またな」
今は4月も終わり際、もうすぐゴールデンウイークに入るからか、新幹線の車内はわりと混雑している。本当は乗り口まで見送りに行こうと思っていたが、他の人の迷惑になるので座席で軽く手を挙げるだけに留めておいた。
……とは言え、案外すぐにまた会うことになったりしてな。ワープという裏技が使えるようになったので、鶴舞でも横浜でも1度行ったことのあるダンジョンはすぐに飛んでいくことができる。
だからなのか、こちらはわりとあっさりとしたものだ。別に今生の別れというわけでもないしな。
そうして、最後は一人旅となったが……まあ、名古屋から京都まではわりとすぐだ。本当に新幹線様々だな。
「おかえりなさい、高良さん」
「ああ、ただいま朱音さん」
「お疲れさん、恩田探索者」
「ただいま戻りました、権藤さん」
京都駅に着くと、朱音さんと権藤さんが迎えに来てくれていた。
……権藤さんはともかく、朱音さんに関しては一昨日まで一緒だったから、久し振りという感覚が全く無いんだよなぁ。実はその前も……とまあ、それはおいといて。
「……ところで、何で急に外でも高良さん呼びに?」
2人きりの時は前から名前呼びだったが、外では名字でずっと俺のことを呼んでいた。それが、横浜ダンジョンでの第20層チャレンジの途中から、外でも名前呼びに変わっていた。何か心境の変化でもあったのだろうか?
「ふふふ……」
ーーゾクッ
「……っ!?」
なぜか、背筋に悪寒が走った。
「とっても、とうっても不思議なんですよね。なぜ、高良さんの周りにこれほど多くの女性が集まってくるのでしょうか? 留学組も2人とも女性でしたし、1人はまさかの美咲で1人はアメリカから来た美少女、というね」
「………」
いや、そんなん俺の方が理由を聞きたいわ。
でもまあ、確かに探索者になる前は女性との縁なんて皆無だったのに、探索者になってからは随分と変わった気がする。その筆頭が朱音さんだったりするんだけどな。
……まさか、【資格マスター】を得た時に変な隠しスキルも一緒に押し付けられてたりしないよな? 嫌だぞ、"ジゴロ"とか"プレイボーイ"みたいなスキルが付いてたら、なんか俺が軽薄な人間に見えるじゃねえか。
「……はあ、安心してくれ、俺はそこまで器用な人間じゃない。複数の女性を相手にできるほどの甲斐性なんざ、俺には無いさ」
「そうだな、確かに恩田探索者はそんな風には見えない」
「………」
俺と権藤さんがそう言っても、朱音さんの笑みには冷たいものが残ったままだ。
「まったく、仕方ないな。つまり、不安だってことなんだろ?」
「………」
「なら、その不安を取り払うのは俺の役目だ」
片手にスーツケースを、もう片手で朱音さんの手を取って引きつつ、自宅へと向かう。今日はどうせ装備が届かない……まあ、いつもの装備はアイテムボックスに入れているので、実際はすぐにでもダンジョン探索を再開できるのだが……いずれにせよ、今日はお休みにするつもりだった。
その時間で、朱音さんには存分に分からせてあげようと思う。ふふふ、楽しみだな。
「……まったく、恩田探索者もまだまだ若いな」
権藤さんの独り言が、少しだけ聞こえたような気がした。
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