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エピローグ

 悪魔と契約した者は超常の力の代償として、死後にその身を地獄へと落とす。それはこの俺、アルヴァース・ダイドラッドも例外ではなかったようだ。俺は何もない暗闇という地獄の中を彷徨い続けている。


「ずっと何もない。ここにはただの暗闇が広がるだけだな」


 何もない暗闇をずっと歩かされる。歩いてもここには何もなければ、何処へも辿り着くことがない。誰とも話すこともできずに、俺の身体はただ闇へと還り、地獄の一部となって永遠の闇にその身を委ねることになる。


 気が狂いそうになる。何もないこの場所で叫びたくなる。俺はこのまま闇に溶けてしまうのだろうか。


 それでもこうして自分を保ったまま抗い続けているのは何故だろう。既に俺は死んでいるのに、ここで闇との同化を拒んでいるのは何故なのだろう。


 理由は思い当たらなかった。既に狂っているのだろうか。俺がこの場所に来てからどれくらい経ったのかも覚えていない。


 そういえば俺は何か持っていなかっただろうか? 何か大切なモノを失くしてしまった気がする。


 あぁ、そういえば腰にいつも付けてる俺の大剣がなかった。王国での死闘の中で失くしてしまったのだろう。あれがないと安心できないから困っちまう。けど、まぁその程度のモノなら代えは効く。


 いや、待て。


 俺は何か代えの効かないモノを失くしてしまった気がする。いや、失くしたわけではない。常に俺の傍に在るのに、俺だけがその存在を忘れてしまっている気がするんだ。この地獄には何も持ち込めない。俺の愛剣も、シンナイトとしての力も何も持ち込めない。そのはずなのに俺はまだ何かを持っている気がする。


 ここには何もない。あるのは闇だけ。そんな前提は理解していた。


 けれどふと、俺は自分の懐に手をやった。


 そこにあったのは銀の短剣だった。何も持ち込めないはずのこの場所で、それでも俺の手の中に在る銀の短剣。俺はその短剣を見て、驚きで目を大きく見開いた。そして瞼を焼くように熱い涙が零れる。遠くに行ったはずのお前の存在を感じて、思い出して、こんなにも愛しい。


「地獄にも付いてくるのかよ、"アイリス"」


 何もなかった暗闇の中、俺に寄り添うようにその銀の短剣は突然輝きだした。俺は思わず、鞘から短剣を引き抜く。その短剣の切っ先が薄く光り輝いて、闇の中を照らす。まるで道しるべのように短剣から出ている銀の光が闇の中で光り輝いていた。


 気付けば、俺は走り出していた。歩いていくなんてもどかしい。早く彼女に会いたい。


 この光の先にきっとあいつがいる。この銀の短剣が俺を導いてくれる。果てしない暗闇の中でも、もう迷わない。


 この銀の短剣が俺と"アイリス"を結んでくれる。だからもう一度。そして俺の身体はやがて光に包まれて。


 何処かで見た女神像が俺に微笑んだ、そんな気がした。


 ♦♦♦


 地獄を超えて、光の先にあったのは花畑だった。


 陽の光が燦々と輝いて、花を美しく輝かせているこの場所には見覚えがあった。彼女と過ごした森の中にある花畑、ここは彼女が最後に消えていった場所だった。


 そして俺は見つける。綺麗な銀色の髪を輝かせて、俺が買った白いワンピースを着ている彼女の姿を見つけた。


 最初になんて彼女に声をかけようか。ワッって大声を出して驚かしてやろうか。


 しかし俺が彼女に声をかける前に、先に彼女に気付かれて声をかけられてしまう。


「この大馬鹿者!!!!」


 彼女は涙を流しながら俺に抱き着いてくる。


「おいおい、熱烈な歓迎だな」


 そんな彼女の頭を撫でながら俺は微笑んで彼女の身体を抱きしめる。


「ずっと見ていた。お前がバルデッドと戦うところも、私と言い合うところも、何千人の騎士たちに一人で喧嘩を売ったところも」


 ポロポロと大粒の涙を流す彼女は嗚咽を堪えながら、俺の胸を優しくポンポン叩いていた。


「ちょっと格好良かったろ?」

「格好良いとかの問題ではないだろう! お前は馬鹿だ、大馬鹿だ。私はお前が死ぬ瞬間なんて見たくなかった。お前のせいだ。お前のせいで涙が止まらない」


 あらら、泣かせるつもりなんてなかったのに。


「泣くなよ、今俺はここにいる。こうしてお前と一緒に」

「ああ、もう離れない。ずっと一緒だ。断られてもお前に纏わりついてやる」

「こわっ。地獄まで俺に付いてきたくらいだもんな」

「ああ、そうだ。私はしつこいぞ? 何せ精神年齢は既にババアの域だからな」


 彼女の言い草にクスっと笑わされる。打てば響くような彼女の反応がとても懐かしい。


 大粒の涙を目に溜めながら俺を強く見返してくる彼女の姿が愛おしい。


 彼女が好きだ、世界で一番俺が彼女を愛している。


「地獄の中でアルテナ神の女神像を見た気がする」

「私とお前がこうして再会できたのも、神様のおかげなのかもな」


 そうだろうか? 


「そこは俺とお前の愛の力とかじゃねえのか」

「ふふっ、そんなことを言っていたら罰が当たるぞ」


 それもそうか。今はただこうして彼女と再び巡り合えた奇跡を喜ぼう。


 二人としていない俺が愛した君に巡り合えた幸せを嚙み締めよう。


 俺は不敵な笑みを浮かべて、君に声をかける。


「ただいま、"アイリス"」

「おかえり、アル」


 花が咲いたような笑顔で俺の最愛の君が嬉しそうに、俺へと微笑んだ。


(了)

作品を読んでいただいて感謝の極みです。


この作品を少しでも面白いと思ってくださった方は『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると嬉しいです。

皆様の応援が創作活動のモチベーションに繋がりますので何卒よろしくお願いいたします。

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