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なんて気軽に考えていました。



「起きろマヌケ!」


 今日も今日とて犬助によって最低の寝起きが提供された。


「マヌケはやめてくれよ」


「他に呼びようがないからな」


「俺はケイだ」


「マヌケで十分だぜ」


 犬助が鼻で笑ってスープとパンを渡してくれる。


「食い終わったら皿は出しとけよ」


「わーってるよ」


「それとほれ。ご所望の毛布だ」


「お、やったぜ」


 俺はゴワゴワとした上等とは口が裂けても言えない布を受け取る。


 それでもないよりかはマシだ。

 臭いけど。


「次は水浴びをしてぇな」


「贅沢言うんじゃねぇ」


「次のグレイウルフを呼び出したら考えてくれよ」


「へん。考えるのは俺じゃなくて兄貴だってんだ。まあ、言うだけは言っといてやる」


 なんだか段々と馴れ馴れしくなっていく犬助を見送ってからパンを齧る。


 あいつ、頭の上にいるヒートに気づきもしなかったな。


 ランタン持ってたけど普通は頭の上なんか見ないし、見たとしてもヒートの紫ボディーは壁の黒色にうまく溶け込んでいるから気づきづらいだろう。


 お前はいつまでそんな呑気に盗賊をやってられるかな?



 俺はお前をいつでも殺せるんだぜ?




     ***




 あれから二日。

 すでに捕まって1週間にもなる。


 ポイントは増えていない。


 理由は奴らが魔物狩りをせずに街道に張り付いているからだ。


 アジトから北側へ行くと山にぶつかり、そこにある渓谷を通る商人や旅人を獲物としているらしい。

 らしいっていうのはまだわからないから。この二日で襲撃は一度も起きていない。


 奴らは北と南にそれぞれズズとゼゼを配置し、以前よりもずっと早く敵を察知できるようにしている。

 成功率はグッと上がってるはずなんだけどな。


 そういえば人間を倒してもポイントは手に入るのかな?


 そもそもなんで何かを殺すとゴールドやポイントが手に入るんだろう。


 俺たちをこの世界に呼んだ奴は何を対価にゴールドやポイントを渡しているんだ?


 異世界から人を呼ぶ力があるなら生き物を殺すなんて簡単にできるはずだ。

 たまたま100人が転生して、たまたま100人が特殊なスマホによって特別な力を得れるなんて思うほど馬鹿ではない。


 分からないことだらけだ。


 俺にできるのはこの力を使って魔物を召喚することだけ。

 それだけは分かっている。


 この力を使わないとこの世界では生きていけない。


 どんな事が待っていようと結局やることは一緒だ。


「にしても暇だなぁ……」


 ポツリと呟くも返事をする者はいない。


 当たり前だ。

 牢屋の中にひとりぼっちなのだから。


 そんな時だ。


 分かった。


 頭で認識するよりも先に、理解してしまう感覚。


 ズズからの情報共有。


 盗賊たちが人間を襲撃したらしい。

 詳しいことは分からないが、襲撃したのは馬車。

 護衛も付いていることから恐らく商人だろう。


 盗賊が渓谷の上方から不意打ちの攻撃を仕掛け、有利に馬車へと仕掛ける。

 そんな盗賊に立ち向かった護衛らしき奴らもいたが、一人、また一人と倒された。


 殺した人数は合計3人。

 増加した所持金は27ゴールド。

 所得したポイントは白が15ポイント。


 人間は1人につき9ゴールドと白5ポイントか。


 とても美味しい。


 特に罪悪感はなかった。

 俺が直接殺したわけじゃないし。

 死体を見たわけでもない。


 これは盗賊にはもっと頑張ってもらわないとな。




     ***




 なんて気楽に考えてました。


 そういえばそうだよね。

 馬車に3人って少ないよね。


 護衛兼商人な訳ないだろうし。


 夕方ごろに盗賊たちが帰ってくると、奴らは捕まえた人間を地下の牢屋に連れてきた。


 俺の目の前の牢屋に入れられたのは4人。

 小太りのおじさんと男2人と女1人。


 4人とも絶望的な顔をしていた。

 一言も喋らず、俯いたまま牢屋に入れられる。


 奴らの感じからして助けが来るなんて考えてはいないようだ。


 それほどまでにここは絶望的な場所ということだろうか。


 ボス率いる盗賊団、名前は分からないけどメンバーは12人。

 まだ俺の知らないメンバーがいるかもしれないけど、このアジトで確認できたのは12人で全員だ。


 常に3人ほどがアジトと周辺を見張っており、残りの8人ほどで時折出かける。


「おいマヌケ。出ろ。引っ越しだ」


「引っ越し?」


「てめーのことはあまり見られたくないんだとよ」


「なるほど」


 俺は犬助に連れられて地下の牢屋を出た。


 ここともお別れか。


 全く名残惜しくないね。


 一階に上がると空気が淀んでないことに感激した。

 胸いっぱいに吸い込むにはちょいと男臭かったけど。


 引っ越し先は階段を登ってすぐの倉庫。

 そこにある大型獣用の檻だった。


 俺は獣かよ。


「おら、入れ」


「ここか?」


「文句あるか?」


「文句しかないんだけど……」


「つべこべ言わずに入りやがれ!」


 犬助がそこいらにあった空箱を蹴って威嚇する。


 やーねー、最近の若い子は。すぐ怒るんだから。


 檻は縦横高さ2メートルの正方形。

 周りにあったであろう荷物は適当にどかされ、手を伸ばした程度じゃ何か取れる感じではない。

 檻は鉄製で所々錆びてたりもするが俺が壊せるほどヤワではない。


 鉄くさい気もするけど足を伸ばしてねれるだけマシか。


 それに利点としてはやっぱり人に見られないことだろう。


 ボスと犬助は召喚しているところを他の奴に見られたくないはず。

 見られたら命令権が増えると教えたからな。できるだけボスと犬助だけで独占しようと考える。


 倉庫には食堂側に行くにも牢屋側に行くにも両方とも扉が付いており、牢屋側の扉には大きな南京錠がかかっていた。


 倉庫の中身は見てわかる限りじゃ食料品と装備かな。他は箱に入ってて分からない。


 食堂側の扉に鍵などは付いていないだろうが、扉はしっかりしている。


 隙間から覗かれるということもないだろうし、覗かれたとしても位置的にこの檻は見えない。


 俺を見ようとするならば倉庫の中にこないといけない。


 つまり夜はこれまで通り活動できる。


 スマホも気をつければ問題ないだろう。


 デメリットをあげるならばうるさいことだろうか。


 食堂側が壁越しということもあり、盗賊の声が聞こえて来る。


 しかしあのまま牢屋に入れられてたらスライムを追加で召喚できなくなっていた。


 このくらいは我慢してやろう。




     ***




 なんて気楽に考えてました。


 夜。

 襲撃が成功した盗賊達は酒を飲み、歌った。


 うるさい。


 だけど、まだうるさいだけだからよかった。


 酒が回り、ボルテージが上がってきた頃に問題は起こる。


 ボスが捕らえた奴らの中にいた女性を連れてきたのだ。


 もう大体何が起こるかわかるよね。


 目の前を抵抗するも無理やり引っ張られながら通過して行く女性。


 女性の悲鳴を聞いて盛り上がる紳士一同。


 壁越しに聞こえて来るリアルレイプ音声。


 やはりあんな仕事をしているからかボスは精強らしく、声を聞いた限りじゃ4〜5回はヤッてた。


 その後は部下が寄ってたかってお祭り騒ぎ。


 せめて部屋でやってくれよ。


 なんで食堂でこれ見よがしにやるんだ。

 見えないけど。


 くそ、声だけでお預けなんてっ!


 燃え上がるかのような肉欲の叫喚に、俺はうんざりしながら目を瞑った。



今更ですが「可愛ければいいんです!」と別の異世界転生物を書いています。TS物で主人公が美少女になってイチャイチャします。気になった方はこちらもぜひ読んでみてくださいな!

https://ncode.syosetu.com/n2774el/

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