1枚 -ピッタリだー
昔、妹に言われたことがあった。
一回だけじゃなかったことだけれど、特に印象が強かったこと。
私と妹は仲が悪かったわけじゃない、それでも彼女は私に言った。
「姉ちゃんの名前はさ、良い名前だよね。でもさ、読み方によってはその字って、『カミ』って読むんだよ。
そんな名前を娘につけるなんてね、どんだけすがりたいんだろうね。運だより。
アタシと姉ちゃんは姉妹だけれど、似てないし、名前につながりもないよね。珍しくも無いけど。」
妹は私が聞いているのを確認すると、さらに続けた。
私は何も反論も反応もしなくても、聞いているのはわかるらしい。
「でも、良かったつながってなくて、『神』(かみ)なんてさ、恥ずかしい名前。
恥ずかしいよね、そんなに偉そうな立場じゃないし、なれないしね。姉ちゃんには大きすぎる名前だよ。
背負いきれないでしょ? 私もだけどさ、姉ちゃんはもう少し自覚しなよ。こんな家に生まれたんだから。」
私をもう一度みて、笑って妹は続けた。
「姉ちゃんはさ、学校に行っても何も勉強はしてこないし、交友関係を広げてもないし、
やってることはいくつかあるけど、無意味とおんなじだし、家庭崩壊はしてる家にいるし、
人間のダメなところが集まってできてるよね。ダメっていうか、マイナス?
そんな人に神だなんて、笑っちゃうよね、疫病神ってことかな?それならピッタリだ。」
私は何も言わずにそこから出ようとするけど、妹は最後に続けた。
「姉ちゃんは、可哀想な子ぶりたいだけなんだよ結局。悲劇をきどりたいんだよ。
実際そうやって人を取り込んで、イヤらしい。というかずるい、あざとい、目ざとい。
アタシとお母さんとあいつから逃げてもどうせだれからも必要とされないよ?ダメな姉ちゃんは。」
私は、いっつもそこで逃げる。
そこで、目が覚めた。
「・・・・。」
また夢か、とも思わなくなった。何回か見たし、むしろひさしぶりに見た。
最近は、こっちで寝ることも少なくなってたからかもしれない。
妹が上で寝てるハズだから、起こさないように起きる。
制服のまま寝たので、顔を洗って、靴下を履いて、髪を整えて、靴を履く。
鍵を持って、カバンを持って、ドアノブに手をかける。
「行ってきます。」
学校に行って、家に帰ろうとしたところ、メールが来た。
『大変だよ!麦茶のパックがね、切れちゃってさ、蜜柑が半ギレなの!結も泣いちゃって。
お願いちょっと、買ってきてくれるかな?今日のご飯は親子丼だからねー!
着替えはいいから、帰ってきてね。』
「・・・。」
家に向かいながら、メールを返す。
『わかった。いつものでいいかな?何か他にいるものは?』
返信してから15分後、まだ携帯電話に慣れていない相手は、
短い文章で返してきた。
『待ってるからね。』
少し、急ごう。待ってくれてるらしいから。
インターホンを押す。
すぐにさっきのメール相手である少女が出てきた。
「はいさーい。」
扉が開く、開くというか、引く。
ガラガラ、という音の後、少女が顔をだした。
「お、待ってたよー!ソラちゃん!」
「あ、うん。」
「今日はねー、親子丼だからね。さっきも書いたけどね。」
嬉しそうに言う少女から手をひかれて私は、
その少女の家に入った。
当然だけど、私はこの家の住人じゃない。
訳あって、居候みたいな暮らしをしているのだ。
ここの家族にも訳はあるけど、それは私には無関係で、
彼女の名前は 大築 穂乃 《おおつき ひなの》彼女は私のことを ソラ って呼ぶ。
彼女だけじゃなくて、この家の人はみんな呼んでくれる。
押野 天 《おしの そら》それが私の名前になっている。・・いつ変わるかはわからないけど。