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王太子妃になりそこねた公爵令嬢は、我儘をつき通す  作者: 星見蒼


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28/28

28、公爵令嬢は卒業する

 お兄様のエスコートを受け、クラリッサは卒業パーティーに参加している。


 ひっきりなしに学友たちが挨拶に来る。

 ちょっとだけ面倒だなと思ってしまうが、これが最後で、そして最初なのだと、クラリッサとて分かっている。

 自分たちは卒業し、成人を迎える。

 生徒としては最後であり、これからは大人として立つことになる。

 本当のデビューはもう少し先ではあるが、すでに皆がその先を見据えている。


(ふふ、こういう風に考えられるようになったのも……)


 取り囲む人々の隙間から、クラリッサは大ホールの一番奥を見る。

 壁際でひっそりと立っているのは、アリスさん。

 制服姿ではなく、正装。

 でも相変わらず背中を少し丸めて、前髪ももっさりとさせたまま。

 目立たないように細心の注意を払っているようだ。

 そんな彼の元にも生徒たちがちょこちょこと挨拶に来ている。

 

(アリスさん、こちらに気づいているかしら?)


 距離が遠すぎる。


(このドレス……見えてるかしら?)


 本当は一番に見せたかった。

 ドレスは悩みに悩んで、紫から青のグラデーションのものにした。

 紫色の可愛らしい雰囲気から、深い青の大人っぽさへと移る感じが卒業パーティーに相応しいと思ったのだ。


(なんとか近づかないと……)


 人の目があるとダメだとは分かっているが、卒業パーティーは一度きり。


 クラリッサは周りの隙を窺っていた。



 * * *



(さすが、公爵令嬢だな)


 その存在は、目立っていた。


 彼女は兄君にエスコートされ、そのまま兄君とファーストダンスを踊っていた。

 まぁ無難なところだろう。

 兄君とのダンスが終わると、次はアーサー殿下と踊っていた。

 その後、男子学生たちが彼女をダンスに誘っているようだったが、兄君の方が断っていた。


 時折、彼女と兄君の視線がこちらを向く。

 敢えて気づかない振りを続けた。


 そんなアリステアの元に、アーサー殿下が来た。


「君、今度は妹の家庭教師をお願いしたんだって?」


 婚約者まで引き連れて来て、何故その話題なのか?

 うんざりする。


「……断られると思っていたもので」


 そう返せば、殿下が喉元でくくっと笑った。


「公爵家の絶対権力者は誰だと思う?」

「……」


 うっすらと予想はついているが、さすがに答えづらい。


「伯母上は、君を大層気に入ってらっしゃる」

「……は?」


 開示された情報が理解できない。


「伯母上が君に関しては認めているから、家庭教師の話、断られなかったんだよ?」


(……なんだそれ?)


 殿下の隣に立っているベアトリス・ウェクスリーをなんとなく見れば、コクリと無言で頷かれた。


「そういうわけだから、頑張って」


 ぽん、とあの日のように肩を叩かれた。


「……頑張れって」


 どういう意味なのか理解したくなかったし、なによりも軽々しく口にしてほしくなかった。

 


 * * *



(ズルいですわ)


 アーサー殿下は、先ほどまでアリスさんと話していた。


(わたくしだって、アリスさんとお話ししたいのに)


 そのアーサー殿下は今、目の前にいる。

 隣には婚約者のベアトリス・ウェクスリーさん。

 初めてきちんと見たけれど、頭のよさそうな人だ。

 お兄様とアーサー殿下が話している間、ベアトリスさんをじっと見ていたら、彼女の視線がこちらを向いた。

 それから、つつっと彼女の視線が逸れ、クラリッサの方へと戻り、また逸れる。

 なんとも不思議な視線の動きに、クラリッサも釣られるように視線の先を追いかけた。


(……あ!!)


 アリスさんが一人。周囲に誰もいない。

 

 ベアトリスさんの方をもう一度見れば、こくりと彼女の首が動いた。

 その応援を背に、そっとそっとお兄様に見つからないようにその場を抜け出す。

 なるべく人のいなさそうなルートを選んで、そして。



「アリスさん」


 大きな声で呼びたくなるのをぐっとこらえて、周囲に気づかれないように、声を落として呼び掛けた。


 アリスさんがこちらを見た。


 人ひとり、いえ二人分ぐらいの距離。

 本当はもっと近づきたい。


「……どうした」


 追い返されることはなく、ほっと安堵しつつも、このドレスについて何か言ってくれないかと密かに期待していると。


 なぜかアリスさんは長くため息を吐いてから。


「……綺麗だ」


 なんだか言わせたみたいで、クラリッサは嬉しくない。

 表情に出ていたのだろう。ふっとアリスさんの口元から声が漏れて。

 それから。


「嘘は言ってない」


 そう付け加えて貰えて、嬉しくなる。


 最後にちゃんとアリスさんに会えて良かった。

 もちろん、これからもずっとアリスさんと一緒だけど。

 でも、学園で学生として会うのはこれが最後なのだ。ちゃんと言葉を交わしたかった。


「……アリスさん」

「なんだ」


 いつもの声、いつもの調子。

 耳に届く、少しだけ低い声。


「楽しかったですわ」

「そうか」


 すぐに返ってきた返事に、クラリッサの気持ちが伝わっていないと感じた。

 だから、もう一度。


「アリスさんに会えて、とても楽しかったですわ」


 本当は目を見て……前髪のせいで見えないけれど、向き合って伝えたかった。

 でも、アリスさんは注目を浴びるのが嫌いだから、距離を保って、周りに気づかれないように注意して。

 

 クラリッサの気持ちが伝わるように、きちんと言葉にした。


「……」


 無言が返ってくる。

 クラリッサはそれでもよかった。


 でも。


「そう、だな」


 アリスさんは静かに、けれど、確かに答えを返してくれた。


 


【第一部・完】

第一部・完とさせていただきました~。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます!!

第二部(家庭教師編?)は、別のタイトル「家庭教師になった公爵令嬢は、我儘をつき通す」で連載中です。

密かに番外編も書いてます。

そちらは「公爵令嬢たちの、ちょっとしたお話」です。

クラリッサたちのその後が気になりましたら、気軽にどうぞお立ち寄り下さい〜。

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