表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王太子妃になりそこねた公爵令嬢は、我儘をつき通す  作者: 星見蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/13

11、公爵令嬢は夏休みを憂う

はぁ……と向かいからため息が聞こえてきた。


「どこか分からないのか?」


ペンを持つ手が止まっているのでそう訊けば、公爵令嬢は頭を左右に振った。


「いえ……今のところは大丈夫なのですが……」


それからまたふぅと息を吐く。

何か気になっていることでもあるのだろうか?

だが、アリステアは踏み込んでもいいのか分からず、それ以上追及せずにいると。


「アリスさんは夏休みはどうされるんですの?」

「……領地に帰るが?」

「そうですわよね……」


また、はぁとため息を吐く。

もしかして勉強のことを心配しているのだろうか。とはいえ、たとえ領地に帰らなかったとしても、夏休みに公爵令嬢と会うのは避けたい。余計な火種を生みたくない。


「地理と歴史だけなら独学でも問題ないと思うし、数学と政治学は分からないところをまとめておいてくれれば、後期に……」

「いえ、それはいいんですの」

「……?」


ずいっと公爵令嬢がアリステアの方に近づいてきた。


「アリスさんのおかげで勉強の仕方もだいぶ分かってきましたし、図書館を利用するという選択肢も増えましたわ」

「……それなら?」

「でも、アリスさんはいらっしゃらないじゃないですか」

「……別に問題ないのでは?」

「……どうしてそういうことを仰るのでしょう」


ふぅと四度目のため息が、アリステアに向けて吐かれる。


「いいですか?お友達に会えなくなるのは寂しいじゃありませんか」

「……友達」

「え?……わたくしは学友だと思ってましたのに、違いますの?あ、先生?そうですわね。先生でしたわ」


一瞬寂しげな顔をしたかと思うと、すぐに切り替わって、勝手に納得している。


「でも、先生に会えなくなるのも……あれ?おかしいですわね。学園の先生方に会えなくても全然寂しくありませんわ」


不思議そうに首を傾げている。

そういう思考の展開は心の中だけでしてほしい。

アリステアは先ほどから妙にむず痒くてたまらない。


「とにかく!!」


長考が苦手な公爵令嬢はどうやら思考を自ら断ち切ったらしい。


「わたくしはアリスさんに会えなくなるのが寂しいのです」

「……そうですか」

「まぁ!!それだけですの?」


いや……他に何を言えと言うのか?

まさか同じように寂しいと返せと?口が裂けても言いたくない。


「たった一か月程度でしょう?」

「まぁ?一か月もですわ。ほぼ毎日お会いしていたのに……」


そこまで言って、公爵令嬢はポンと手を叩いた。


「そうですわ。毎日お会いしてるから、他の先生方とは違って寂しく感じるんですわ」

「……ご納得いただけて良かったです」

「もう……さっきからなんなんですの?嫌味な敬語ばかり」

「はぁ……いい加減にしてくれ」


そう返せば、なぜだかふわりと微笑まれた。


「ふふ、そうです。アリスさんは口が悪いのです」

「……そこで笑うのが理解できない」

「なぜです?アリスさんに冷たくされるよりは、優しくされたいじゃありませんか?」

「……いや、口が悪いんだから冷たいんだろう?」


公爵令嬢は、ふふと得意げに笑う。


「アリスさんは、口が悪い時ほど優しいんですのよ」



* * *



アリスさんは、黙ったまま。


さわさわと葉が掠れる音。

東屋はいつもと同じで静か。


ここでのお勉強はしばらくお預けとなる。

それを寂しいと口にしても、アリスさんは理解して下さらない。

それ自体が寂しい。


「領地に戻られて、どう過ごされますの?」

「……妹の子守り」

「妹さんがいらっしゃいましたの!?」


アリスさんのようなお兄様がいるなんて羨ましい妹さんだ。


「あぁ、とにかく煩い妹だ」

「まぁ酷いこと仰いますのね。妹さんおいくつなんです?」

「十二」

「ということは来年ぐらいから、プレお茶会デビューですのね」

「そうなるけど、アイツが淑女になれるとは思えない」

「酷いお兄様ですわ」

「帰ると飛びついてきて離れないんだぞ」


(……なにそれ、羨ましいですわ)


微笑ましいよりも、先にそう思ってしまった。


「わたくしも夏休み明けに飛びつこうかしら?」

「……何を言ってるんだ」


呆れたような顔をされた。

かなり本気でしたのに。

いえ……わたくしはアリスさんの妹ではありませんもの。淑女としてあるまじき態度ですわ。


「あ~寂しすぎます」

「……だから、一か月もすれば会えるだろう?」

「一か月も会えないんです。なんで分からないんですか!!」

「……」


むっと詰め寄れば、アリスさんの表情が動いた。

目元が見えないから正確には分からないけれど……


「あの……もしかして、困らせてます?」

「……そうだな」

「ああ!!わたくし、もしかしてまたわがままを!?」


どうしましょう。あれほどわがままは厳禁だって頑張ってますのに。


「……気にするな」

「ですが」

「……困ったけれど、別に嫌じゃない」

「え?困ったんですのよね?」

「……ああ」

「困っても嫌じゃないことってあるんですの?」

「……あるみたいだな」


はぁ~とアリスさんからため息が聞こえた。

とても長い、長い、ため息だった。


「あの?」

「……いいから、勉強しろ」

「あ、そうですわね」


アリスさんにノートを示される。

確かにあと少しでアリスさんに会えなくなってしまうんですから、今のうちに教わらなくてはいけない。それなのに時間を無駄にしてしまった。


(……でも、寂しいって言いたかったんですもの)


心の中に留めておこうとも思ったけれど。

でもそうすると、『寂しい』がずーっとたまっていって、ぐるぐるして、勉強が手につかなくなりそうだった。

だから、思い切ってアリスさんにぶつけたのだ。


ちらりとアリスさんを窺う。

テーブルに肘をついて、手の甲に額を当てている。


(そんなに困らせてしまったのかしら……)


どうしましょうと焦るも、また、トントンとアリスさんにノートを示される。

でも、このままでは落ち着かない。


「あの……っ!!」

「……」

「いい夏休みを過ごしましょうね!!」


クラリッサは言い切った。

寂しいというわがままは抑えて、アリスさんのことを考えて、そして何とか見つけた答えが、言葉がそれだった。


「……そうだな」


アリスさんの口の端が上がる。

どうやら正解だったらしい。


(……良かった)


クラリッサは安堵し、今度こそ意識をノートへと切り替えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ