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【完結】第32話 陰陽師家に生まれてこなければ、彼女たちにも会えなかった

 ニューヨークの夜は、いつものように安っぽいネオンに彩られている。


 真行は、走る車の窓から外を見ていた。


 雨のせいか、ネオンはぼやけていた。


 蒸気が地下鉄の排気口から立ち上っていたし、


 タクシーのクラクションが途切れることなく漏れ聞こえていた。


 通りには派手な女性と値段を交渉する男たちがいた。


 実は断片的に失っている記憶を妻の記憶で補っている。


 今回は妻の頼みで一人の女性を探していたのだ。


 車が路肩に静かに止まった。


 すぐに、派手な服装の女たちが寄ってきた。誘うように車の中をのぞこうとする。


 その女たちを押しのけるようにして、一人の男が割って入ってくる。


 息を切らせて、車の窓の前に立つ男に、窓を開けた。


「君がウェルバー警部か?」と男に尋ねた。


「はい、そうです。ニューヨーク三十七分署のウェルバーと申します」と丁寧に答える。


「それで、見つかったのか?」


「はい」


「じゃあ、案内してもらおうか?」


「わかりました」


 車を降りると、ウェルバーに傘をさされて、


「こちらです」と案内される。


◇◆◇


 京都の奥、真明のお寺周りの山々は、所々薄い桃色に染まっていた。


 澄んだ空気が山肌を包み、風が木々の葉を揺らしている。


 石段を登ると、真明の本堂が見えた。


 境内にも薄い桃色の葉が散らばり、手水舎の水が花びらといっしょに静かに流れている。


 本堂の奥、古い木の扉がある。扉の先には、地下へと続く石段がある。


 石段を降りていくと、広い空間が現れる。


 空間の壁面には十二神将の石像が彫られている。


 他には何もなかった。ただ石畳が並んでいるだけだった。


 静寂だけが空間を満たしていた。


◇◆◇


 放課後。


 高校二年生になった真一が帰り支度をし終え、立ち上がったとき、クラスメートにぶつかった。


「ごめん」と先に謝って振り向いた。


 鞄を持った三崎愛理が立っていた。


「私こそ、ごめんなさい」と謝ってくれた。


 その後、三崎愛理が真一の額の右側をじっと見ている。


「なに?」と真一が聞くと、


「あ、ごめん、額の傷すっかり治ったのね。きれいに跡形もないわ」と答える。


「そう、でも去年の体育祭から半年近くも経つから」


「そうか。でもあの時は大きく転んだからね」


「愛理!」と遠くで女子高生の声がした。加藤瑞穂だった。


「じゃあ、行くね」というと三崎愛理は加藤瑞穂の後を追った。


 真一はしばらく、去って行く三崎愛理を目で追った。


 なぜだかわからないが、ほんの少しだけよかったと思う。


◇◆◇


 帰り道。


 真一は校舎の裏を通って帰ろうとし、角を曲がると、声が聞こえた。


「おい、いくら持っているんだよ」


 校舎の壁際で、二人の生徒が複数の男子生徒に絡まれていた。


 絡まれている二人の生徒は、サトシとケンヤだった。


 真一は立ち止まった。


 以前なら、見なかったことにして逃げていたように思える。


 でも、今は違った。


「サトシとケンヤじゃない? どうしたの? 早く帰ろうよ」


 絡んでいた生徒たちが真一を見て、ひるんだようだった。


 実は、高校一年の三学期あたりから、運動と授業の成績が格段に上がり、学年の上位に名が並んだ。


 生徒たちは、サトシとケンヤを残して、不満そうに去って行った。


 それを見届け、真一は歩き出すが、サトシとケンヤがついてこないことに気づく。


 振り返って、


「どうしたの? 帰ろうよ」といってもサトシとケンヤはついてこない。


 どうも、ヒエラルキーの位置が上がったため、前と変わらないサトシとケンヤは真一と距離をとろうとしているようだった。


 それは薄々感じていた。


「いつものショップに造形師うるるの新作フィギュアが飾ってあるんだって。これから、見に行かない?」と誘った。


 サトシとケンヤの顔に笑みが見えた。


「いいよ」とサトシが答えた。


「オレも行く」とケンヤも続いた。


 ふと、手の甲が目に入った。


 一本だけ、毛が伸びていた。


 他の毛とは明らかに違う。太くて、硬くて、灰色がかっている。


 真一は首をかしげた。


「どうしたの?」とケンヤに聞かれた。


「いや、何でもない」といって、毛が生えている手を隠した。


 抜こうかと思ったが、なんとなくそのままにしておくことにした。


◇◆◇


「ただいま」


 玄関の扉を開けると、リビングから声が聞こえた。


 靴を脱いでリビングに入ると、ママがソファに座っていた。


 その向かいに、見知らぬ外国の女の人が座っている。


「おかえり、真一。紹介するわね」


 ママが立ち上がって、女の人を手で示した。


「パパの友達の娘さんで、アンジェリーナさん。しばらく、うちに住むことになったの」


 アンジェリーナはガムをかみながら、真一をなめるように見て、鼻で笑った。


「まだ、緊張しているのよ」とママが言ったが、そうは思えない。


 でも、ママはうれしそうだった。


「アンジェリーナさん」とママが彼女を促す。


「ハーイ」とアンジェリーナが片手を上げて、ほほ笑んだ。


 初めて会ったはずなのに、初めてではないような気がした。


 胸の奥で、何かが小さく震えた。


 真一はぎこちない笑顔で、


「ハーイ」


 と答えた。


◇◆◇


「これは、これは皆さん、おそろいで


お茶を用意しますね。ちょうど下界から美味しいお茶菓子を仕入れたところなんです。


少々、お待ちください。


それで、何のご用ですか?


え! 神と行った賭けですか? それは何度も言っているじゃないですか? 賭けの内容は言えません。ましてや、どっちが何に賭けたなんて。


どっちが勝ったか、ですって? それも言えません。


お茶を入れる前にどうぞ、お菓子でも口になさってください。


ああ、あの陰陽師の坊やですか? そうですね。まあ、言っても差し支えないでしょうか。


彼はですね。おもちゃ箱なんです。


そう、おもちゃ箱。


いつまでもおもちゃで遊んでいると、怒られるじゃないですか? 見つかって捨てられるかもしれません。だから、おもちゃ箱に隠すのですよ。で、大丈夫とわかると、またおもちゃ箱から取り出して遊ぶのです。


おわかりですか?」


ここまでお読みいただきありがとうございます。

よろしければ、評価・ブックマークをいただけると励みになります。


──────────────


全32話、ここに完結となります。


最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。


不幸ランキング上位の高校生の物語を書き切ることができたのは、

ここまで読んでくださった読者のみなさまのおかげです。


もしこの物語を楽しんでいただけたなら、

★評価(下の☆☆☆☆☆)・ブックマーク(↓)・感想を

いただけると、作者の何よりの励みになります。


改めて、ありがとうございました。

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