第15話 アンジェリーナと三崎愛理と焼き芋
真一が体育祭でこんなに真剣に取り組むなんてあり得なかった。
それは強引な山本さんに引っ張られたこともあるが、それ以上に三崎愛理のかわいさにつられ、リレーの練習に付き合ったからだ。
バトンを渡す練習で、手が触れそうになり緊張し、うまく渡せないことが多かった。それでも、三崎愛理はバトンの練習に嫌な顔をせずに付き合ってくれた。
こんな幸せな日々も体育祭の日で終わりを迎えてしまう。
◇◆◇
アンジェリーナは買い物袋を提げて、商店街を歩いていた。
いくつかの店の店員とは顔見知りになって、歩いていると声をかけてくれる。
以前、ある店で焼き芋を勧められて、美味しそうな匂いに一本買って帰ると、美夜子に見つかって、半分とられた。
甘くて美味しかったので、それからは美夜子の分も合わせて二本買って帰ることにしている。
商店街を抜け、住宅街の曲がり角で、人とぶつかりそうになった。
女子高生だった。制服姿。長い髪。
校門で見かけたあの少女だった。
少女は体が硬直し、怯えたように身構えた。後ずさりして、逃げようとしている。
「待って!」と少女を呼び止め、買い物袋から焼き芋を一本取り出した。
美夜子のために、もう一本買いに戻るか、一本しか残っていなかったことにするか、後で考えることにして、焼き芋を半分に割って少女の前に出した。
湯気が立ち上り、甘い匂いが広がる。
「食べる?」
少女は少しためらってから、焼き芋を受け取った。
◇◆◇
二人は、近くの公園のベンチに座って、黙って焼き芋を食べた。
「おいしい?」と少女にたずねると、黙って頷いた。
まだ、怯えている。
そんな少女をじっと見るアンジェリーナ。
「あなた、人間?」と直球で聞いた。
少女の焼き芋を持つ手が止まる。
少女は、ぎこちなく笑いながら、
「何言ってるんですか? 人間ですよ。高校一年生の三崎愛理です。というか、あなたこそ誰なんですか?」
「藤原真一の家で居候している……」
――あれ、居候している私は、何なんだろうか? いや、そんなことは今はどうでもいい――
「私のことはどうでもいいの。それより、あなた、人間じゃないよね?」とアンジェリーナは話を元に戻した。
「何、おかしなことを言っているんですか?」
「じゃあ、言い方、変えるね。あなたは、この街で何をしているの? いや、何をしようとしているの、と聞いた方がいいのかしら?」
「普通のどこにでもいる高校生です!」
「あなたを見ていると、少し前の私に似ているのよね。何に怯えているの?」
「怯えてなんていない!」と声が震えていた。
「いや、怯えている。私にはわかるの。正直に話してくれない? 誰にも言えなかったんでしょ」
少女は黙った。
「私もあなたと同じ、ここでは異世界人なのよ」
愛理は考え込んで、口を開いた。
「幸せすぎるの」
愛理は震えているのがわかる。
「学生生活が……友達がいるのが……楽しいの! わかっているんだ。私には過ぎた幸せだってわかっているの」
アンジェリーナは少し前の自分を見ているようだった。
「でも、失いたくないの。このまま続いてほしいの。でも無理なのよ。私には分不相応で、いつか終わるって」
目から涙が流れ、声が細くなった。
「もし、失ったら……自分のせいじゃない。きっと誰かのせいにしちゃうんだろうな」
焼き芋を一口、口にして、
「その人のせいじゃないんだけどね」
そういって、顔を手で覆って
「わかってるんだよ。わかってるんだけど……」
と言葉を途切れさせた。
アンジェリーナは何も言わなかった。それ以上、何も聞けなかった。
たぶん、少女にはありのままの自分を受け入れて、ここにいてもいいよと言ってくれる人がまだ見つかっていないんだと思った。




