第30話 辺境連合
最初の書簡は、南方グランディアから届いた。
――塩の安定供給を評価する。
――継続的な協力体制を提案したい。
次に、北方の小鉱山領。
さらに、隣接する農業中心の小領地。
「……増えています」
マリアが、机に並んだ封書を見つめる。
「王都銀行の審査緩和以降、問い合わせが急増しています」
ヴィクトールが、低く笑った。
「嗅ぎつけたな」
「王都に依存しなくても回る、と」
私は、静かに頷いた。
「価格戦争」
「融資停止」
「監査強化」
一連の動きは、すべて公開した。
隠さなかった。
だから、見えた。
「クラウゼンが耐えたことが、重要です」
セルマが、淡々と言う。
「崩れていれば、誰も動かなかった」
その通りだ。
午後。
代表者を招き、小規模な会合を開いた。
豪華ではない。
だが、真剣だ。
「王都に敵対するつもりはありません」
私は、最初にそう告げた。
ざわめき。
「目的は、自立です」
南方領主が、腕を組む。
「王都を通さずに回せる仕組みか?」
「完全ではありません」
私は、正直に答える。
「ですが、依存率を下げることは可能です」
資料を広げる。
――共同輸送網。
――相互融資枠。
――価格情報共有。
「独占を崩すには、単独では足りません」
沈黙。
「連合を組むのです」
ヴィクトールが、ゆっくりと立ち上がる。
「商人連合は参加する」
その一言で、空気が変わる。
南方領主が言う。
「塩は供給する」
「だが、王都の圧は強まるぞ」
「承知しています」
私は、まっすぐ返す。
「ですが、分散すれば耐えられる」
セルマが、静かに補足する。
「王都銀行は、一領地なら潰せます」
「ですが、複数同時は難しい」
数字が、支えている。
やがて、次々に同意が示された。
小さな連帯。
だが、確かな意志。
三日後。
正式文書が交わされる。
――辺境相互経済協定。
名称は穏やかだ。
だが意味は大きい。
依存率の再計算。
塩七割 → 五割。
鉄七割弱 → 五割台。
金融六割台 → 四割台。
マリアが、息を呑む。
「……下がりました」
「ええ」
私は、静かに頷いた。
「王都依存、五割以下」
目標達成。
その夜。
王都から、新たな書簡が届いた。
短い。
――辺境地域の自助努力を評価する。
――今後は協調的関係を望む。
ヴィクトールが、低く笑う。
「……矛を収めたか」
「一時的に、です」
私は、書簡を閉じた。
「王都は、完全支配を諦めたわけではない」
「ただ、損が大きいと判断しただけです」
だが、それで十分。
市場は落ち着いた。
炉の火は戻った。
融資は回り始めた。
黒字予測、回復。
私は、窓の外を見る。
灯りが、広がっている。
「……終わりましたね」
マリアが、静かに言う。
「いいえ」
私は、首を振った。
「始まったのです」
一領地の再建から、
辺境の連帯へ。
王都に挑むのではない。
依存しないだけだ。
机の上に、新たな資料を置く。
――辺境連合、長期構造計画。
経済戦は、第一幕を終えた。
だが、物語はまだ続く。
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