07 アスバルクへ
昨日更新できなくてすいません。
「おい!さっさと牢屋に入れ!」
一人の男が叫ぶ。
それは数人の亜人に向けてだった。
亜人は鎖で腕を縛られており数人の男に囲まれているため、身動きを取ることができない。
男の声にビビったのだろう。亜人は静かに言うことを聞き、牢獄へと入って行った。
薄暗い地下牢にて、その行動は静かに行われる。
♦♦♦
現在俺たちはアスバルクへ向け、空を飛行している。
レミアも空を飛べるらしく、コウモリ翼の人間サイズ版を使用している。
クロンは俺が抱え持つ形で抱きしめていた。
レミアは少し睨んでいるが、まぁ何とかなるだろ!
もう1度言おう。俺たちは今、空を飛んでいる。
...。なんで昨日からそうしなかったんだ?
普通に考えて、歩いたら数日かかる距離の移動なら最初から空を飛ぶだろう。もう...俺ってほんと馬鹿!すっかり忘れていた。
レミアは忘れていたわけではなく、1日ぐらい森を堪能したかったと言っている。が、それは本当だろうか。
俺には、明らかに都合よくでっち上げた嘘にしか感じ取ることができない。
まぁ昨日から空を飛んでいたら、クロンとは今頃あの世へバイバイしてたんだろうから...レミアには感謝しかないんだけど。
そんな訳で、あっという間にアスバルクが見えてきた。ここまで実に5時間ちょっと。...明らかに早いよね。正直自分でも引いてしまう。
でも、ポジティブに考えようポジティブに!これで移動手段には全く困らなくなった訳だ!やったね!うん。やったあ。
アスバルクは、周りが巨大な塀(簡単に説明するなら万里の長城)で囲まれている。塀の中は自由に交流ができ、どんな種族も仲良くしているらしい。まぁ盗賊がいるし、あくまで表前はなんだけどね。
塀の外にも住宅地や市場なんかが広がって活気に溢れている。そりゃぁ国家の中央都市周辺で争いごとはしないだろうし、栄えているのも当然である。
でも、亜人も大事にされている国家から亜人を連れ出すことなんてできるのだろうか。亜人が抵抗したら、すぐさま騎士に捕まってしまうだろう。誰か内通者が騎士にいるなら別だろうけどね。
塀の上は飛んで超えることが許されないらしい。まぁ、自分の国家に無許可で入ってほしくないのだろう。それはもう侵入者と同じだしな。
そのため俺らは、近くの森林にそっと着陸する。正式に観光客として入ろうという訳だ。
そして都市への入都口へとやってきた。
入都料は5000G。周りの屋台を見て入都口へ来たからわかったけど、1Gは1円と同じ価値らしい。良かったぁ、物価が違ったら金銭感覚が狂っちゃう所だった。
にしても5000Gもお金を取るんだなんて、結構がっつり行くねぇ。これが基本的な国家運営に使われる資金なのかな?
って、誰がお金を持っているんだ!?
俺は当然持っている訳がない。レミアも300年封印されていたし、持っていないだろう。多分。クロンか!?クロン様なら持っているのか?
俺は入都口にいる持ち物検査役の騎士から目をそらし、クロンの方へそっと目をやった。
頼みますクロン様、ここでお金を出してください!
しかし俺は知っている。こういう時のお約束を。クロンもお金を持っていなく、追い返されるパターンなのだ。第一あんなに貧乏な村、余計なお金がそんなにあるわけがない。
はぁ、塀の外の市場とかでバイトしなくちゃいけないのかなぁ。最悪だ。
「お兄ちゃんたち、お金持って持ってないんでしょ?私が出してあげる。」
「やっぱり持ってないよなぁ。じゃぁ俺が頑張ってバイトしてくるから...え?お金持ってるの?」
「うん。だって自分たちは頼んでる側なんだから...20000Gだったら持ってるよ?」
「神様...!クロン様、大変ありがとうございますっ!」
「っえ?...う..うん。」
クロン優秀。
そして、やっぱりお願いを受けてよかったぁ。
村の亜人たちのお願いを聞かないでこの国に来てたら、絶対にバイトする羽目になってただろうからな。
俺が感謝の気持ちを込めてクロンを高い高いすると、荷物検査の騎士がなんか驚いていた。
まぁ、10歳過ぎの子を軽々高い高いしたらそりゃ少しは驚くのか?
確かに普通の人間ではないかも。でも鍛えている人ならあると思うんだけどな。
見た目はあまり筋肉なさそうだし、驚かれても無理はないか?
こうして難なく、アスバルクに入れたのであった。
塀の中へ入ると、益々活気であふれていた。さすがは一国の中央都市。
そして様々な種族がいる。
ん?向こうから歩いてくるのは...エルフ種族の人たちじゃないか!
俺は初めて見るエルフ族に感動していた。
普通のエルフも良いけどダークエルフも捨てがたい。けれど俺が1番好きなのはもちろん、ハーフエルフだっ!
耳の絶妙な尖り具合がもう最高!!俺はこのために生きてきたんだぁ...
「ベルム...なんでエルフの子たちを見てデレデレしてるの?」
さて、何か話している吸血鬼がいるからそろそろ妄想をやめよう。
しかしその後も、こっそりチラ見していたのは内緒である。
塀の中へ入ってすぐ、目の前に大きな広場があった。真ん中には噴水やらベンチやらがあり、その周りに様々な店や居酒屋なんかがある。
正しく観光都市といった感じだ。これといった物はないようだけど、温泉があるし旅館だってある。
入都料だけで5000Gも取ったのに、ここでも金を使わせる気なのか...?
この国、かなり栄えてるなぁ。
まぁお金が無いから観光できないんだけどね。
今度一気にがっぽり設けられるバイト教えてもらおうかなぁ。観光もしたいし。
...誰にバイトを教えてもらうのかは聞かないでくれ。虚しくなるだけだし...。
まずは捕らえられたであろう亜人を助けることが第一だ。大きな道を通ってアスバルクまで来たけれど、人を乗せていそうな馬車は全く通っていない。
つまり、この都市にまだいる可能性のほうが高いということだろう。
正規の入都口でアスバルクを出るとは到底思えないけど...。
「っていうかレミア、どうやって捕まった亜人たちを助けるの?」
これが疑問だ。この人は頭が良いから考え付くだろうけど、俺には助け方が全く思いつかない。
そもそも盗賊の拠点がどこにあるのかわからないし、亜人が捕らえられている場所がどこなのかもわからない。
そんな中で助けるのは無理があるのだ。
するとレミアは、理解していることが当然かのように話し出した。
「何言ってるの?考えればわかるでしょ?
荷物は王城の前で盗まれる。他の村と納品日は違うみたいだし、ずっと張り込みしていれば明らかに怪しい人がそのうち現れるでしょ?その人について行けば良いのよ。」
王城の前で張り込み...ってことか。確かにずっと張り込んでいたらいつの日か盗賊の誰かに会えるよな。なんかもはやこっちが不審者みたいなんだけど。
って...誰が張り込みを続けるんだ?
ものすごく嫌な予感がするんだけど。お約束みたいなんですけど...!
いや、まだだ。さっきだってお約束の壁を乗り越えてこの中央都市に入ることができた。
きっとそれ専門の人を残りのお金で雇っているんだ!そうだ..そうに違いない!
「そうだね、さすがはレミア。それにしても、5000Gで張り込みをしている人っているんだね。」
「え?何言ってるの?張り込みは貴方に決まっているでしょ?」
レミアはニコニコ笑顔だ。なのになぜだろう、恐怖を感じる。右手に包丁が似合いそうな笑顔..恐ろしい。
そして俺は悟った。お約束はいくらどう頑張ってもお約束になるのだと。
「レミア...それはわかったから。でも、俺にだって限度はあるぞ?夜は見ていられないし、泊る場所がないなら見張ることもできない。お金だってないし。」
「夜はいいわ。夜に亜人を運ぶ可能性はあるけど、納品は昼間に行われるだろうし。それに魔物も多い。でもお金に関しては問題ね...1度森林に戻って寝ると、再入都にお金がかかってしまうし、だからと言って人が多い都市で寝るわけにはいかない。」
お金...お金...
「とっとりあえず、近くの店にでも行ってお金を稼ぐ方法を聞こう。」
俺はそう言うと、目の前にある武器屋へ入って行った。
他の武器屋とは違い、人が多い武器屋だ。情報を持っている人も多いだろうし...。
そうして人気武器屋に入ろうとする。
するとーーー
「泥棒ぉぉ!!!」
図太い男性の声が聞こえてきた。って、こういう時は普通女子の「助けてぇ!!」じゃないの!?
やっぱお約束が通用しないのか..?
まぁ今はそんなことどうでも良いとして、今はそのおじさん?を助けないとな!
困っている人はほっとけないし。
そう意気込むと、俺はレミアとクロンを置きおじさんの方へ走り出した。