1ダースのサクラ
クロを連れて、サクラが曲空した先は――
「あら、サクラ、また運んでもらえるかしら?」
「ん♪ まっかせて~♪」「モモお婆様……」
ここ……長老の山か?
「クロ、こちらは大丈夫よ。
人界の方が大変なのでしょう?
少ししか作れなくて、ごめんなさいね」
「いえ……ありがとうございます……」
「クロ様、チョコレート菓子の試作が出来上がりましたの。
お確かめ頂けますかしら?」
「ボタンさん……」
ボタンはトレーを渡すと、忙しなく奥へと飛んで行った。
クロが追って行って覗くと、たくさんのオーブンの熱気の中で、婚約者達が美容菓子を焼いていた。
サクラが戻った。
「冷めてるの、コレ? 包んでいい?」
「それと、隣の部屋にも――あ、これも!」
「ん♪ ミカンさん♪ こっち向いて~♪」
浄化の光で、額の汗を消した。
「ありがと♪ サクラ様♪」
「ミカンさん♪ 今日もキレイ♪」
「やぁだ~♪ サクラ様ったら♪」
サクラは菓子を受け取って、隣室に行った。
クロも追いかけ入る。
「ワカナさん♪ 包むの替わる~♪」
「あ♪ サクラ様♪ いつもすみません」
「いいから~♪」
ワカナがオーブンの部屋に行くと、サクラは複製を十人出し、手早く包み始めた。
「クロ兄、試作の味見したらぁ?」
手を止めず、サクラ達が一斉に見上げた。
「あ? ああ……」ぱくっ。
「……あと少し、なめらかさとコクを……カロリーと栄養価を考えると……だったら絹葛の実を――」ぶつぶつ――
サクラが新たな菓子を運んで来た。
そのサクラも加わって梱包する。
サクラが1ダース……凄ぇな……。
「クロ兄、何見てるのぉ?」
「ボーッと見てないでぇ~」
「絹葛、採って来たらぁ?」
「フジ兄の畑にあるからね」
「うん♪ 大甘絹葛だよ♪」
「大幅カロリーオフだね♪」
「クロ兄、どぉしたのぉ?」
「クロ兄、行かないのぉ?」
「だったら包む? 運ぶ?」
「ねぇ、聞こえてるのぉ?」
「そこ、ジャマなんだよ?」
「リリスさんが困ってる~」「あ……」
クロの後ろに、大きなトレーを持ったリリスが立っていた。
サクラが、そのトレーを受け取る。
もうひとりがリリスの汗も消した。
「ありがとうございます♪ サクラ様♪」
「ムリはダメだからね~」
「大丈夫ですよぉ」うふふっ♪
笑って、オーブンの部屋に戻った。
「なぁ、サクラ……」「ん?」一斉。
「いや、本体だけでいいから」「なぁに?」
「ずっと、こんななのか?」
「お店オープンしてすぐから、ずっとだよ」
「そっか……すまねぇ。酷い事、言っ――」
「謝ってるヒマなんてないからねっ。
早くチョコの完成させてよ~」にこっ。
サクラ……
全部わかりきってるって顔だな……。
「おう、任せろ。
極上チョコにしてやっからなっ」にかっ。
「味見まっかせて~♪」
「わかったよっ」笑って曲空。
♯♯ 竜ヶ峰 洞窟 ♯♯
「静香姫様さえ御無事であればっ!」ひしっ!
「匡鷹、真、大事無いのか?」
「御案じ召されるな。
この通り、平気の平左で御座る!」むんっ!
ぽこっ。「うっ……」
「治るまで、おとなしくしろって!」
匡鷹を後ろから小突いた手で襟首を掴んで、ハクは洞窟に戻って行った。
『拙者が姫様をお護りせねば――』
『嵐は終わったよ! 姫様も無事だっ!』
『しかし、あのまま残しては――』
『うっせーっ! 俺達も眠いんだっ!!』
キンが出て来た。
「キン殿、匡鷹は如何な怪我なのじゃ?」
「骨折と打撲だらけ――いや、直ぐに治る。
静香殿、クロの帰りを待つのか?」
「はい。そぅ……思ぅておりまする」
「ふむ。では、そちらは任せる」踵を返す。
「匡鷹を……宜しくお願い致しまする!」
フッと笑って、キンは片手を軽く挙げ、洞窟へと入って行った。
♯♯ 長老の山 ♯♯
クロがモモの蛟達に大甘絹葛の葛粉の作り方を教えていた。
「クロ様、こっちの葛粉、乾燥しましたよ~♪」
「ありがとうございます、ミカンさん」
「チョコも溶けましたよ♪」
「すみません、リリスさん。
皆さん、作りますので集まってください」
そして、クロ特製の美容チョコ菓子が出来上がった。
「皆さん、味見お願いします」
「味見~♪」「俺も~♪」「俺も~♪」――
「サクラは本体だけだっ!!」
「ん?」既に1ダースもぐもぐしている。
「ったく~」
「なめらかさが違いますわね」
「生クリームみたいですよね」
「絶妙な甘さが幸せだわ~♪」
「流石、天界一ですよねっ♪」
「クロ、レシピは書き留めましたから、このお菓子も、こちらで作りますね」
「モモお婆様、すみませんっ!
オレも頑張ります!!」
「無理はいけないわ。
程々に励みなさいな」
「はい!」曲空♪
「サクラ様、いいの? 行かなくて」
「まだ食~べる~♪」わいわいキャッキャッ♪
――陽が傾いた洞窟前。
「姫……」佇む華奢な背を抱きしめた。
「ずっと待っててくれたのか?
こんなに冷えて……すまなかったな」
「クロ……怒っておるか?」
「怒るワケねぇだろ。コレ、食えよ」
前に回している手が、袋を持っていた。
「これは……チョコレートか?」ぱあああ~♪
腕の中で、姫がクルッと向き合い、見上げた。
「食ってみろよ」にこっ。
「うむ♪」ぱくっ♪「真、美味じゃ♪」
「だろっ♪
オレが作ったんだから、当ったり前だ♪」
「うむ♪」
「姫……オレは何があっても、姫の味方だ。
姫を絶っっ対に護る!
だから、オレに――」
「おかわりは無いのか?♪」
「え? ・・・ああ、有るよ。ほら」
「うむっ♪」ぱくぱくむぐむぐ♪
「姫、オレは、姫の事が――」『姫様ぁ~!』
「ゲッ……まだ居たのかよ……」離れる。
「静香姫様♪ お待たせ致し、申し訳御座らぬ。
治りました故、城に戻りましょう!」
「いや、待っておったのはクロで――」
「ささ♪ 参りましょう♪」
「いや、待ってくれぬか。ワラワは――」
「皆様、御心配なさっておられますよ。
それに、陽も暮れてしまいまする」
(姫、また、、後で会ってくれるか?)
(うむ♪ おかわりが有るのじゃな♪)
(……持って行くよ)会えるなら何でもいっか♪
「あ! キン殿に伝えてくれるか?」
「何だよ?」
「明日は雑誌のインタビューが入ったのじゃ。
皆で行って欲しいのじゃ」
「姫ぇ~、またかよぉ」
「迎えに参るからの♪ 頼んだぞ♪」
「しゃあねぇなぁ」
「黒之介様! 改めて、また参ります故、お手合わせ、お願い致しまする!」
「あ? またやるのかよぉ」
「お願い致しまする!
姫様っ、参りますよっ!」
「然らば、こちらじゃ。道を教えるからの」
「えっ?♪ 拙者に、で御座いまするか?♪」
「また落ちられては敵わぬからの」ざざっ。
「はい♪ 忝のう存じまする♪」ざざざっ。
『仕方なく、じゃからの!』
『嬉しゅう存じまする~♪』
『聞け! 匡鷹っ!』
『天にも舞い上がる心持ちで御座る~♪』
『聞けと言ぅにっ!!』
『拙者、幸せで御座る~♪』――
姫と匡鷹は茂みへと入り、話し声が遠ざかって行った。
あ……
皆の分まで姫に食わせちまったな。
『おかわり』も必要だし、もっかい作るか~。
クロは長老の山に曲空した。
♯♯♯
夜、クロが洞窟に戻ると――
誰も居なかった。
外に出てみたが工房にも灯りは点いておらず、上から灯りを探すと厨が明るかった。
誰だ? こんな時間に……?
何か温め直してるのか?
厨に降りてみた。
ちゃんとした料理の匂いだな。
こんなの出来るのって……
マジわかんねぇ。
そっと扉を開けると、凍鉱庫を探っていた女性が振り返った。
「アオ……?」ぱちくり。
「勝手に入って、すまぬ」
「いいけど、なんで女姿なんだ?」
「深い意味は無い。食べるのなら分けるが?」
「ん。ありがとな」話し方が……変?
アオは出来上がった料理を三つに分けた。
「あとひとり、誰だ?」
「サクラの分だ」手早く片付ける。
「サクラは天界だろ?」
「もうすぐ戻る」浄化の光でピッカピカ。
「食べぬのか?」完璧に元の場所に収納。
「あ、いただきます」ひと口。「美味い……」
「そうか」にこっ。
え……可愛い……
――って、迂闊にもアオにっ!!
「後で片付けに来る」皿を持つ。
「アオ、これ――」「たっだいま~♪」
「サクラ、部屋で食べるか?」
「うんっ♪ せ~のっ♪」曲空♪
「作り方……聞きたかったんだけどな……」
(クロ兄も来る~?)
(行って……いいのか?)
(うん。来てもいいよ)
(アオ?)話し方、戻った?
(どうしたんだ? 変だぞ、クロ)
(いや……そっち行く)
変なのはアオじゃねぇかよっ!
クロが追加のチョコを作っていた時――
リ「クロ様、そのチョコは?
まだ調整するんですか?」
黒「いや、兄弟皆の分だ。疲れてるからな」
リ「フジ様の分、ください。
入れたいものがあるんです♪」
黒「ん。ベース出来たら分けるから
待っててくれ」
リ「入れるもの準備します♪」
柑「それなぁに? 刻んで何するの?」
リ「ドライフルーツとナッツです。
クロ様がチョコを作ってらっしゃるので
フジ様の分に入れようと思って♪」
柑「あ♪ いいわねっ♪
ハク様のには、お酒入れましょ♪」曲空♪
牡「クロ様、それは……?」
黒「兄弟の分です。
キン兄のも何か入れますか?」
牡「いえ。キン様は何も入っていないものが
お好きですの。今からでも可能でしたら
ビターにして頂けますでしょうか?」
黒「わかりました」
若「アカ様のもビターでお願いします!」
黒「何も入れませんか?」
若「リリスさん♪ ナッツ分けてください♪」
リ「は~い♪」
柑「クロ様♪ これでボンボンにして
頂けますか?♪」
黒「これ……薫熟樽竜喜じゃないですか?
そのまま飲みたがりそうですね」
柑「見せたら最後よ~♪
一瞬で無くなっちゃうわ」あははっ♪
黒「よく保管できましたね」
柑「アオ様がくださったの♪
で、そのままアオ様の酒倉に置いて
頂いてるのよ♪
そこならハク様も手出しできないから♪」
黒「アオって……酒飲まねぇよな……」
柑「外交用ですって♪
稀少で高級なお酒だらけよ~♪」
黒「飲まねぇからこそ保管できるってか……」
柑「そ~ゆ~こと♪
ハク様にはできないわよ~♪」あははっ♪