成人の儀
集団成人式は終わりましたが、
お武家様には、お武家様の儀式があるようです。
(中の国の成人式って、髪型変えるんだ~♪)
姫と志乃の裳着、結髪が屋内で、重鎮達の子や孫の元服が庭の舞台で行われている。
(あ♪ 匡鷹さん出てきたよ♪)
輝竜も列席させられており、興味津々で見ていた。
(女性の方も重鎮の御家の方々になったね)
(あのキレイなスカートって竜宝にできそ~)
(あれは『裳』っていうんだよ。
確かに、魂を込められそうだね)
(あの儀式は、元々は東や仁佳で行っていた『裳着』という成人の儀なのだ。
二国が終戦したので、今年より、採り入れたそうだ)
(さっすがキン兄♪)
(男性の冠も同じくだ。
仁佳の初冠に倣い、戴冠――こちらでは加冠であるな。――を行うのだ)
(コレ、冠なのっ!?)袋みたいなのに?
(我が国の王冠とは異なる)
(色は? 俺達、他のヒト達と違うよねぇ。
あ♪ 向こうの高いトコのヒト達といっしょ~♪
でも、キン兄とハク兄の色のヒトいな~い)
(位を表すらしい。
王太子なので気遣われてしまったようだ)
(そっか~♪
あれ? お侍さんが、こっち来てる?)
(来ているね)
(チョンマゲ磊蛇?)
(ああ、普段と格好が違うから判らなかったね)
「黒之介様、匡鷹殿への加冠役をお願い致しまする」
「へ? なんでオレ?」
「剣の腕に惚れ込まれたそうで御座いまする」
「はあ?」
「ささ、御家老様、若年寄様とご一緒に」
「ゲッ……」こっち見て待ってやがる!?
結局、クロはチョンマゲ磊蛇に連行された。
(今、中の国の歴史に参じているんだね)
(感慨深いな……。
武家の国が貴族の様式を受け入れた、新たな歴史の幕開けなのだな……)
(そうですね)
(ねぇアレ……社長さんじゃない?)
(あ……音楽事務所の……どうしてここに?)
(俺達を撮ってない?)
(アカ、千里眼を渡したのかい?)
(静香殿に奪われたのだ)
(あれ? またチョンマゲ磊蛇だ~♪)
「キン様から順に、加冠役をお願い致しまする」
(何故だ?)(どうして俺達がっ!?)
(姫と社長の仕業だろうね)(む……)
(嫌ですよ)(すっごく呼んでるよ~)
渋々立ち上がる。
(姫、どうして無関係な俺達が加冠しないといけないんだい?
失礼じゃないのか?)
(皆、喜んでおる♪
確と役目を果たされよ♪)
(それで、どうして社長さんがここに?)
(皆、ワラワの臣下じゃからの♪
仕事をしておるところも見たいそぅじゃ♪)
(あまり目立たせないでくれよ。
それはそうと、姫は、クロと匡鷹殿をどうするつもりなんだ?
弄ぶのなら、姫であっても容赦しないよ)
(何の事じゃ?)
(男二人の恋心を弄ぶのなら赦さないと言っているんだ)
(二人? 如何な事なのじゃ!?
まさか……いや、そのよぅな筈が……まさかとは思うが、念の為に聞く。
匡鷹までもが『蓼食う虫』なのか!?)
(自分で、そんな事を言うのかい?
と言うか、気づいていなかったのかい?)
(アオ、嫌な事をさせたのは申し訳ない。
しかし、腹いせに其のよぅな事を言うなど、あんまりじゃ。
ワラワが男を弄ぶなどと……まず、好かれる筈が無かろぅ?)
(本当に、どこまで鈍感なんだ?
クロも匡鷹殿も姫に惚れているよ。
嘘でも戯言でもない。本当にね)
(何故……ワラワなんぞを……)
(何事にも一生懸命だし、可愛いと思うよ。
それに賢いよね)
(ズル賢いんじゃない?)(まぁね)
(アオ……まさか、アオまでもがワラワを――)
(それは違うから。
話を戻すよ。
とにかく、二人は姫が好きなんだ)
(しかし、匡鷹は志乃の想い人じゃ。
志乃に向いてもらわねば困るのじゃ)
(うん。それも知っているよ)
(如何にすればよいのじゃ……)
(クロに告白する隙を与えてやってくれよ)
(其は……)
(そんな雰囲気になる度に、話を逸らかしているんだろ?)
(恥ずかしゅうて……逃げたくなるのじゃ……)
(解るけど、それじゃ進まないよ。
匡鷹殿の事も絡んで、身動きとれなくなるよ)
(うむ……アオの言ぅ通りじゃな……)
(だから、恥ずかしくても、黙って聞いてやってくれよ。
それだけでいいんだからね)
(うむ……)
(大人の女性になりたくなったんだよね?
だから、これまで拒否していた儀式を受け入れたんだよね?
元服でなく、裳着にしたんだよね?)
(……全て……お見通しなのじゃな……)
(外野には、よく見えてしまうんだよ)
(然様か……)
「アオの番なのだが」「あ、はい」
(姫♪ 元気だして~、ねっ?
姫から言っても、だいじょぶだから~)
(ワラワからなど……ムリじゃ……)
(そゆトコ、かわいいけど~。
でも、オトナになったんだからぁ)
(うっ……)サクラにまで……。
(俺にまで言われるの癪だろけど~。
俺だって百年以上生きてるんだからねっ)
(そぅじゃったな……)
(話し方が信用できないのなら、変えるよ。
姫がクロ兄を好きだって事を知らないのは、クロ兄と匡鷹さんだけだよ。
それだけ『好き』を撒き散らしているのに言わないのは、健康にも悪いよ。
勿論、美容にもね。
だから、我慢せずに、クロ兄が勝った時みたいに飛び込んでいいんだよ)
(サクラ……おヌシ……偽っておったのか?
アオかと思ぅたぞ)
実は声までも似ておったのじゃな……。
(その話は、今度にしてよね。
今は、姫の事で真面目に話しているんだから)
(うむ……)
(今度、クロ兄が行ったら、ちゃんと会って話しなよ。
匡鷹さんも、これから登城するんだよね?
そうなったら、ややこしくなるよ?)
(うっ……それは盲点じゃった……。
匡鷹の登城は明日からじゃ)
(まあ、匡鷹さんの事は、さっきアオ兄から聞くまで眼中に無かったんだから仕方ないけど、どう考えてもマズいよね?
終わったらクロ兄だけ残すから、二人で、ちゃんと話してね。
今日しか無いんだからね)
(うむ……)
(サクラ、姫も解っているからね。
このくらいにしてあげようね)
(うんっ♪
俺、終わったら、ランとこ行く~♪)
(そうだね。
俺もルリと、ゆっくりするよ)
(アオ、ルリ殿とは誰なのじゃっ!?)
(アオ兄のお妃様~♪)
(およっ? アオ……奥方が居ったのか!?)
(うん。いるよ)
(キン殿もハク殿も、まだ婚約じゃろ!?)
(そうだね。でも問題なんて無いからね。
姫は、俺の事なんかより、クロとの事を考えないとね)
(うっ……)
(それじゃあ、儀式に集中するからね)
(……うむ)
(ね♪ これで、姫は羨ましくなって一歩踏み出すかなっ?)
(そうなるといいね)
(アオ兄、ルリ姉は怒ってない?)
(大丈夫だよ)
(ルリ姉と、ゆっくりお話ししてね?
俺、クロ兄と話すから~)
(ありがとう、サクラ)
(ルリ、名を出してしまって、すまない)
(いや、前以て言って貰えたから構わぬ。
アオ、帰ったら休めよ。
昨夜も呼び出されて夜勤になったではないか)
(うん。
ルリが癒してくれたら、すぐに元気になるよ)
(今すぐ寝ろ。私が代わる)
(え~っ!?)
(会話をサクラに流すぞ)
(やめてね)
(ならば、寝ろ)
(わかったよぉ)
(くっつくなっ! とっとと寝ろ!)
(くすん……)
(……おとなしく寝るなら、膝枕してもいい)
(ん♪ ルリ~♪)すりすり~♪
(寝ろ!!)ペシッ! (う……)
(クロ兄、やっとお城に入れたんだから、コレ終わっても残って、姫とお話ししてねっ)
(追い出されるんじゃねぇか?)
(だいじょぶだから~。
今度こそコクハクしないと、匡鷹さんに姫をとられちゃうよ~)
(そうだった……アイツ、本気だよな……)
(ホントにホントの大好き色だからね~。
明日から登城するらしいから、今日 言わないとだよ~)
(マジかよ……よしっ!
何が何でも言ってやるっ!)
(うん♪ がんばってね~♪)
(おうっ! ありがとなっ、サクラ)
♯♯♯♯♯♯
中の城での成人の儀が終わり、クロは二の丸の庭で姫を待っていた。
「クロ、待たせてすまぬ」
「いや、別に待ってねぇからな」
「のぅ、あちらに行かぬか?
何やら……ここは落ち着かぬ」
「そうだな」
潜んでるヤツが多過ぎるな……。
くノ一やら侍やら……何なんだよ!
(み~んな心配なんだよ~。
許してあげて、ね?)
(お前も潜んでるのか?)
(俺は洞窟だよ~)
(そっか。ありがとな)
(がんばって~)
陽が傾き始めており、風に冷たさを感じる庭を並んで歩き、池に架かる橋の欄干に凭れた。
「姫、先に確かめてもいいか?」
「うむ」
「姫は、匡鷹の事をどう思ってるんだ?」
「何も……ただの幼馴染みじゃ。それと――」
「……何だよ?」
「志乃の想い人なのじゃ。
無下に出来ぬは、それ故じゃ」
「そっか……って事は……」ぶつぶつ――
「何を考え込んでおるのじゃ?」
「志乃さんって、姫の側近だろ?」
「乳姉妹じゃ」
「ソレ何だ?」
「志乃の母が、ワラワの母代わりなのじゃ。
同じ乳を飲んで育ったのじゃ」
「だったら、大事な人なんだろ?」
「まぁのぅ」
「だったら、幸せになってもらわねぇとなっ」
「確かに……のぅ」
「姫、力貸してくれ。
志乃さんを幸せにしてやろうぜ」
「クロ……よいのか?」
「匡鷹も悪いヤツじゃねぇしなっ」
「確かにのぅ」
「匡鷹にとっても、その方がいいハズだ。
そう思わねぇか?」
「クロ……」何故、其方を向いたのじゃ?
「そうと決まれば――」「黒之介様~っ!」
「え?」「匡鷹じゃな……」「何でオレ?」
「さぁのぅ……好かれてしもぅたのでは?」
「冗談やめてくれよぉ」「冗談ではないぞ」
匡鷹が全力で駆けて来ている。
「男に好かれてもなぁ~」「キラキラじゃぞ」
「オレが好かれたいのは姫だけ――」「ん?」
「黒之介様っ!
お手合わせお願い致しまする!」到着!☆
「良かった……そっちか……」
「ハッ! その前に、で御座る!」ザザッ!
ホッとしたクロの前に、匡虎が平伏した。
「輝竜の皆様方が高位の方々とは存ぜず、数々の御無礼を致しました事、誠に申し訳なく、平に御許しを――」
「コイツ、何言ってんだ?
まさか、姫――」王子だってバラしたのか!?
「冠の色じゃ。
キン殿とハク殿は一位、他は二位なのじゃ。
此はワラワではないぞ。父上が決めたのじゃ」
「ま、気にすんなって」しゃがんで肩をポンッ。
「なんと寛大なる御心!
感服いたしまして御座いまする!」
「大袈裟だなぁ」ポンポン。「立てよ」
「し、しかし――」
「面を上げよ、匡鷹」
クロが引っ張って立たせた。
「手合わせなんだろ?」
「あ……で、では……お願い致しまする!」
「橋の上じゃナンだろ。行こうぜ」
「はい! では、静香姫様!
いつか姫様と試合出来るよう、匡鷹は励みまする!
見ていてくだされ!」
真っ直ぐだ……トコトン一直線だ……。
「クロ、相手してやれ」呆れ顔で肩を竦める。
「道場に参りましょう!」駆けて行った。
「姫、アイツには負けねぇからなっ!」
「負ける筈が無いのじゃろ?」にやり。
「もちろんだっ! 道場、どこだ?」
「先回りか?」「おう」手を繋ぎ、曲空!
洞窟――ではなく、二の丸の庭。
白(あんな遠くに行っちまった……。
見えるのか? サクラ)
桜(余裕で神眼のエリア内だよ~♪)
白(何話してんだ?)
桜(志乃さんと匡鷹さんをくっつけるって~)
白(自分の告白は?)
桜(ふっ飛んじゃったみたい~♪)
白(匡鷹が走って来てるぞ)
桜(また、言えそぉにないね~)
白(クロって……馬鹿なのか?)
桜(供与が強いからね~。
どぉしても自分よりヒトの事したくなる~)
白(困った奴だなっ)あははっ♪
桜(でも、そこがいいトコ~)きゃはっ♪
白(だなっ♪ 確かにいい奴だよなっ♪)
桜(それにね~。
神眼も強いから、たぶんソレが正解~♪)
白(そうなのかっ!? それじゃあ――)
黒(サクラ! 来てくれ!)
桜(クロ兄、どしたの~?)
黒(匡鷹が気絶したっ!)
桜(ハク兄と行く~)
黒(アオは? 仕事か?)
桜(寝てる~)(ハク兄、行こっ)曲空♪