第九十話・ルコールさん激おこ
「お、おい!? ラ、ランスのあの構えはっ!?」
「ああ、あれは間違いない! あいつの切り札の『奥義・真空断斬剣』!?」
「な、なにぃ!? 読んで字の如く、空気さえも真っ二つに斬れるとされる、ランス得意の最強奥義かっ!?」
「うひぇぇぇ! あれほど願をかけたのに俺達を巻き込むんじゃねぇよっ!」
「に、逃げろぉぉ! とにかく俺は死にたくない! この場から逃げるぞぉぉぉおっ!」
「ちょ、ちょっと待てよぉぉ! お、俺を置いていくんじゃねぇぇぇえっ!」
ランスの攻撃に巻き込まれてたまるかと、周囲にいた冒険者達がドタバタと慌てふためきながら宿屋の外へと次々と逃げ出していく。
「ち、ちょっと! ランスさん! や、やめて下さいっ! そんな大技をここで放たれたら宿屋が壊れてしまいますよっ!」
「プレシアさん、これはね、あなたを救う為の攻撃なんです! だからそれも尊い犠牲だと思って諦めて下さい!」
プレシアが技を発動させないでと懸命な表情で懇願するが、しかしランスは首を左右に小さく振り、その懇願を却下した。
「おいおい、尊い犠牲って......」
宿屋を壊しちゃ駄目じゃんっ!
それって結局、プレシアを救えてないじゃんっ!!
本末転倒じゃんっ!
「やっぱりポンコツなんだ、このイケメン君......」
レンヤはランスの意味不明な言動に呆れ返る。
「......ハァ、しょうがない。もういい加減、俺の苛立ちも限界がきているし、このイケメン君には、ちょいと痛い目に合ってもらうとしますか!」
レンヤは軽く嘆息を吐いた後、スキル...『気合い』を発動させようと身構える。
......だがその時!
「ごらぁぁぁぁぁああ、レンヤァァァアアアッ!いつまで宿屋の子とイチャイチャしとるんじゃぁぁぁぁああ―――っ!!」
いくら待てども、ちっとも食堂にやって来ないレンヤに痺れをきらせたルコールが食堂から出てきて怒りの咆哮を荒らげる。
「な、なんだ、この小娘は!? おい、小娘! 貴様、そこのおっさんと知り合いなのかっ!」
奥義の発動を邪魔された事で怒りを露にしているランスが、ルコールをジロリと睨みそう述べる。
「あぁん? 知り合いだったら、どうだっていうのよ?」
ランスの傲慢な態度と腹が減っている事でかなりご立腹なルコールが両腕を胸の前に組み、仁王立ちでふんぞって返事を返す。
「こ、この小娘! 何てクソ生意気なんだっ! プレシアさんと大違いだぜ! だが小娘! 貴様の先程の言葉...俺の問いに対する肯定と取っていいんだよな? なら貴様も同罪だぁああっ! 今からこのおっさん共々、この世から亡きモノにしてくれるわぁぁぁああっ!!」
ランスがルコールに向けて人差し指をビシッと突きつけてそう叫声を上げると、両手に持った剣を大きく振り上げてルコールに攻撃を仕掛けてくる。
「ギャーギャー、うっさいなぁぁああっ!!」
「―――へ?」
ルコール嫌悪感全開の表情でランスの近くまで接近し、それにビックリして動きを止めるランスのイケメンフェイス目掛けて反動をつけた拳で力いっぱいブン殴った。
「ぎゃぼらげえぇぇええっ!!?」
ルコールによって力いっぱいブン殴られたランスはその衝撃で吹っ飛び、そして宿屋の壁へと叩き付けられる。
「あが......あがが......」
壁に叩きつけられ、その場に崩れ落ちて虫の息になっているランスの下にルコールがゆっくりゆっくり近寄って行く。
そして、
「......で? 誰が誰を亡きモノにするって......ん?」
殺気のこもったニッコリ笑顔でランスに問いかける。
「あが......うがが...が......うぐぅ..........がはっ!」
しかしランスはルコールの問いかけに答える事はなく、自分がぶつかった事で崩れてきた壁の瓦礫の下でその意識を真っ白へと変えていく。




