第五十話・おっさん、不吉な噂にたじろぐ
「ほ、本当にいいですかぁ!ほ、本当に、わたしが貴方様の担当を
してもっ!」
受付嬢がキラキラ笑顔をこぼして、自分を選んでくれるレンヤの
両手をギュッと握ってくる。
「え、ええ...は、はい。キ、キミでお願いします......」
な、何か凄くグイグイくるな......逆に戸惑うんですけど。
まあいいか。
そっぽを向かれるよりかはマシだしな。
「そういう事ですので、取り敢えずギルド登録をしてもらっても
よろしいでしょうか?」
「あ、はい!わかりましたっ!では早々に、ギルド登録を申請して
参りますので、その場でしばらくお持ちください!絶対待っていて
下さいねえぇぇぇ~~~っ!」
受付孃がお日様笑顔をレンヤにそう告げると、奥の部屋に猛ダッシュで
消えて行く。
「.........しかし凄い勢いの受付嬢だな?」
こんなしがないおっさんに対して、あんな積極的な接客とキラキラな
笑顔を振り撒いてくれちゃって......
うう...何か、適当に決めただけだというのに、大変申し訳ない気持ちに
なってくるな。
分け隔てなく接客をしてくれた受付孃に対し、心の中で謝罪の念を
洩らしていると...
「お、おい、見たかあのおっさん。あのミュミュさんの所で登録したぞ!」
「し、信じられん!あのおっさん度胸がいいのか?はたまた頭が悪いのか?」
「いや、恐らくミュミュさんの噂を知らないんだけだと思うぜ......」
「だ、だからか!だからあのおっさん、あんな無謀な行為ができるのか!?」
俺と受付孃の会話を離れたテーブルに屯っていた冒険者が聞いており、
それぞれが戸惑いと困惑と驚きの表情を浮かべていた。
......え!?
ど、どういう事?
なんで冒険者のみなさん、あんな憐れみあふれた表情でこっちを
見てくるの!?
も、もしかして、あの受付孃さんに何かあるのかっ!?
何故あの冒険者達が憐れみあふれた表情で俺を見るのか、あの連中の
会話にソッと聞き耳を立てる。
すると、
「......まあ知らないから行くんだろうさ。何せミュミュさんの担当する
新人の冒険者って、次々と不慮の事故にあっているからな......」
「そうなんだよな。あの子が担当した新人冒険者、クエスト中の事故で
尽く死んでいるんだよな......」
「ああ。屈強だと言われたあいつも、ミュミュさんが担当になった途端、
アッサリ逝っちゃったもんな...」
「まさかあいつが逝くとは想像もつかなかったよ...」
「俺もだよ......」
な、なんだと...っ!?
何故冒険者達が憐れみの表情で見てくるのか、その理由が判明すると、
俺は目を大きく見開いてビックリ仰天してしまう。
あの受付孃の担当した冒険者って、そんなに死んでいらっしゃるのっ!?
「く...おっさんがこの冒険ギルドに何か用だと、からかってやろうと
思ったんだが...可哀想だし、やめておくか......」
ちょっ!?やめないで!
俺、そのテンプレ体験を結構楽しみにしていたんだからっ!
おっと!そ、そんな事を言っている場合じゃないな!
い、今ならまだ登録のキャンセルができるかもしれないっ!
あの受付嬢には悪いけど、俺ってそういうフラグ、結構信じちゃう
タイプなんだよ!
俺はフラグをへし折る為、受付嬢のいる奥の部屋に急ぎ移動しようと
足を動かしたその瞬間、
「お待たせしました、レンヤ様!ギルド登録の受理、無事に完了いたし
ました♪」
時は既に遅く、ニコニコした笑顔で奥の部屋から戻って来た受付嬢が、
俺にギルド登録の受理完了を告げてくる。




