第五話・おっさん、勇者召喚されるがつま弾き...
「そこの兵士...俺がまだ中に入っていないのに、何故ドアを閉めた?」
俺はドアの鍵を閉めた兵士をギロッと睨みつける。
「くくく...おいおい、聞いたか?この間抜けなおっさんの発言をさぁ!
何故ドアを閉めたのかだとよぉ♪」
「ったく、閉められて当然だろうが!お前みたいな馬の骨を、判定の儀が
行われるこの部屋へ入れてたまるか!」
俺がドアの前に立ち塞がる兵士二人に文句を述べると、鍵をかけた兵士が
ニヤニヤと馬鹿にしてきて、もうひとりの兵士はこちらを威圧しながら
恫喝してくる。
「入れてたまるかって...俺も一応、ここには勇者として召喚されているんだから、
その部屋に入る権利はあると思うのだが......?」
自分勝手な屁理屈を述べてくる兵士達に、俺は自分もその部屋に入る権利は
あるぞと主張する。
「ハァ...全くこのおっさんは何を言い出すかと思えば...。いいか、おっさん!
この部屋の中ではな、この世界の暗雲を吹き払う希望なる未来...それを決める
大事な判定をしていらっしゃるんだぞ!」
「そうそう...それなのに、貴様みたいな偽物がそこに入って邪魔をする気
なのか!」
部屋の中にいた神官達も兵士達の愚痴合戦に加わり、蔑みと下卑た態度で
俺の事をニセ勇者と馬鹿にしてくる。
「大体よ、貴様の様な偽物の能力がわかったからって、なんだって言うのだ?」
「貴様の様なクソ能力、リコット王女にはお目汚しなんだよ!それで不快な
気分になられた時、貴様はどう責任を取るつもりなんだ!」
「貴様みたいなおっさんだけの命だけでは足りんぞ。貴様の知り合い、血縁者、
そして恋人、それら全ての命も狩り取らねばなぁ!」
し、知り合いって...異世界に召喚された俺に、そんなのがいるわけないじゃん...。
「おいおい、こんな不細工なおっさんに恋人なんているわけないだろうが!」
「くくく...そうだった、そうだった、これは気を悪くされたか...?」
「まぁ、したところで、俺らの知った話ではないがな、あははははは!」
うう...た、確かに恋人なんてここしばらく、いた事なんてないけどさ...
くそ!何か、段々腹が立ってきたな、こいつらの態度......
ここはひとつ...
「知り合いなんているわけないだろう、だって俺、召喚者なんだから!
良くそんな小さな単細胞のおつむでその職につけたな?」
...と小馬鹿にしながら言ってやろうかな?
イヤ、止めておくか...。
こいつらの沸騰点、めちゃめちゃ低そうだし、絶対にムキムキされるのが
目に見えるしなぁ...。
ハァ...しかし本当、何なの...これ?
この悲しいまでの差別な扱い...もう何て言うか、この世界のお里が知れたって
気分だ。
だがこうなってくると、俺がこの世界を救う勇者として敬われる道は
もう完全にないって事だよね...。
さて...それならどうする?
この城に残っても、どうせこんな風にバカにされ続けるのは目に見えてるし...
さっきの王女の対応を見るに、それを直訴しても無駄だろうし......
うん...これはどう考えても、俺がここに残って得をするメリットなんてものは、
ただのひとつもないよね。
だったらこんな城、こちらから願い下げしてさっさと出て行き...
それから俺を帰す召喚の魔法量が貯まるまで、どこかの町でのんびりと
待った方がいいよな?
うん、これでいこう!
俺は心の中で「この城に無理に居座る必要はない」と決意すると、この城を
出て行く為、部屋の出入り口へ足を向けるのだった。