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登場の仕方

 隆二が魔導書を読み漁っていた時。

 ステルダム国城内。

 

 ストラスフォード国からようやく帰って来たオルリナは、早々に部下から報告を受けた。

「モンスターの大群?」

「商人からの話によると、ここから北東の方角にモンスターの大群を見たと」

「モンスターが隊を成すことがあったでしょうか……」

 冒険者を含むオルリナ達がいつも戦っているのは、モンスター単体である。

 同じ種のモンスターでは群れを作ることはあるが、別種のモンスター同士が群れを作ることは前例がない。

「商人がモンスターに詳しいわけがないのですが、彼が確認できたモンスターだけでも、『ミノタウロス』『ゴーレム』『コカトリス』などの上級冒険者でも1人で倒すのが難しいと思われるモンスターが大量にいたそうです」

「『コカトリス』はマズいですね。私でも手も足も出なかった」

 そのモンスター大群は、方向から考えるにステルダム国を目指している。もしそれがステルダム国を襲撃する者達の集団だとしたら、騎士団だけでは対処は難しい。いや難しいというか、できない。『コカトリス』にステルダム国レベルナンバーワンのオルリナが手も足も出なかったことを考えると、『コカトリス』が何体もいると騎士団は即壊滅である。

「四天王に知らせますか?」

「リュウジさんはどうかわかりませんが、その他の3名は大丈夫です。状況が厳しくなったら前線に勝手に出て来てくれますから」

 部下の提案を退け、オルリナは言った。

 四天王の3人は、自由奔放なことで知られている。

 騎士団の依頼を聞かないことも多々あるため、オルリナ達は毎度困っている。呼びに行こうとするがどこかをほっつき回っている3人を見つけるのは容易ではない。だから、彼らを呼びに行く時間は無駄だと考えた方がいい。オルリナとしては隆二にはそうなって欲しくないとつくづく思う。

「弓部隊を200人、槍部隊を300人、剣闘士部隊を300人出陣させます。冒険者もできるだけ集めて下さい。それぞれで集合した後、東門へ行くように指示して下さい」

「了解しました」

 部下がオルリナの部屋から出ていく。

 彼女は騎士団団長のため基本的には騎士団本部にいることが多いのだが、マクルスから城に専用の部屋を用意されたので、定期的に使っている。王に用意してもらったものを使わないのはどうかと思うからだ。

 彼女も、剣を持ち部屋を出た。



 ほとんどの国がそうだと思うが、出陣するときは道の真ん中を開けるために、警備の兵が道の端に町人達を集めている。

 隊列を組むために結構な幅が必要なのがこれをするための大部分を占める理由なのだが、町人達に戦が始まることを知らせるためでもある。しかし、大げさにするのが逆効果なのか、町人達は戦に怯えるわけでもなく、布を振り回したり口笛を吹いたりして戦に行く兵達を激励している。

 いつしかそれは恒例となり、兵が戦の準備を始めると町人達は自然と道の端に寄り始めるようになった。

 今回の出陣も今までと同じく町人達の激励を受けた騎士団は、隊列を崩さすそのまま東門に到着した。

 オルリナの出陣命令から、およそ20分。

 戦の準備が早いことが、この国の戦の勝利数が多い1つの要因かもしれない。

「あの量はかなりヤバイですね。援軍を早々に呼んだ方がいいでしょうか」

 オルリナが東門から出て兵士の目線を追うと、地平線に黒い影がいっぱいに広がっていた。

 敵の数も種類も詳しくはわからない現在の状況で唯一はっきりわかることは、今いる兵の数では対処できないことくらいか。

「追加で兵を集めます。城にいる兵を全員連れて来て下さい!」

 オルリナが指示を出した、その時だった。


 敵がスピードを数倍上げて、騎士団のいる場所へと向かい始めた。


 モンスターというのは、ターゲットを補足するとそれに向かって襲い掛かる。今回の場合は騎士団がターゲットとなっている可能性が高い。

 空いていた距離が、一気に縮められる。

「ちっ!援軍を待っている時間はありませんか!剣闘士部隊、槍部隊を前衛に、全軍突撃開………ッ!」

 異変があった。



 何かが、空から降ってくる。



 オルリナが全てを言う前に、もの凄いスピードで。速すぎてその正体が補足できない。

 『それ』は、モンスター大群へ向かっているように見えた。

 そして。



 ドゴォォォォォォォォン!!!!という轟音を響かせ、モンスター大群の中央付近へと突っ込んだ。



 突撃の反動で大量のモンスターが宙を舞う。

 モンスター大群と騎士団の距離は、およそ1キロメートルだった。

 騎士団にも突撃による暴風が襲い掛かってくる。

 それを何とか耐え、オルリナは『何か』の落下地点であり、砂煙が上がりまくっている場所へ目を向けた。


 ゆっくりと砂煙が消えていく。

 いつしか塀には轟音を聞きつけた町人が大勢集まっていた。

 ゆっくりと『それ』が正体を現す。

 モンスターの大群が『それ』から距離を空けだした。


 中央に立っていたのは、全身黒で統一した服を着た少年だった。ステルダム国では珍しい黒髪を持った少年である。


 隆二だ。


 オルリナの耳に隆二の声が聞こえてきた。

「あちゃー、勢いつけすぎたか。クレーターみたいになってやがる」

 足元をしきりに気にしていた隆二だったが、やがて顔を上げた。

 視界に広がるのは多分、大量のモンスターだろう。

「おお、いるな。さーて、何を使おうかな。まずは………これだ」

 しかし怯えることはなく、隆二は呑気そうに言った。

 隆二が両手を振り上げる。

 そして、振り下ろされ、地面に接触した。

 その時。



 バリバリバリ!!と、隆二を中心に辺り一面が氷に包まれた。


 

「な!?なんて大規模な魔法なの!?」

 オルリナは、その規模と進行の速さに驚いた。どういうわけか隆二から出された氷が地面、モンスターの大群諸共包んでいく。氷が広がっていく速さも速く、モンスター達は何も出来ずに無力化されていく。

 というか、根本的に。

 隆二はどうしてここにいるのだ。オルリナはストラスフォード国で彼から、ノンの故郷へ向かうことを聞いていた。どこに故郷があるかは知らないが、馬車を使うほどの距離ではあったらしい。

 しかし、この疑問は解決できる。隆二はテレポートを所持しているため、帰って来ようとしたら一瞬で帰って来れる。

 なら、彼は一体何をやっているのだ。 

 モンスターの大群を殲滅してくれるのはありがたいが、もう少しましな登場の仕方はできないのだろうか。

「なんか、もう色々と…………無茶苦茶だ、あの人!」

 オルリナはどこに向けていいかわからない、変な感情を大きな声で大空へと吐き出した。

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