ずっと一緒に
「『あれ』も君の計画に必要なのかい?」
通信魔法を通してグレア・バーリンは質問した。
『まさか。ノン・マティスもユリ・マティスも私の計画には必要ない。貴様は少し誤解をしているな』
「というと?」
『別に「無に還し」が無事なら計画に支障はない。その他は何者が関わっていようが、私には関係ない、ということだ』
グレア・バーリンの質問に応じたのは性別不明のカウスター・クーベル。
「だけど、僕には1つ心当たりがあるんだけど?」
何について、とは言わなかった。
しかし、カウスター・クーベルにはわかったらしい。
『私がそれを知っても何の得もない』
通信魔法は声だけを相手に届ける。
しかし、カウスター・クーベルにはグレア・バーリンがニヤリとしたのを感じた。
「確かに、君には得がない」
だが、とグレア・バーリンは続けた。
「ユリ・マティスに最上級ポーション以外での解除不可能な『状態異常』を付与したのは、『君の世界』の研究バカだろう?」
『……、…』
「答えられない、ということは肯定していると受け取っていいのかな?」
グレア・バーリンがカウスター・クーベルの無言を受け取って、さらに笑みを深めたその時。
スパッ!と、グレア・バーリンの髪と頬が斬られた。
血が流れる。
「おーこわいこわい。これ以上の詮索はよした方がいいかな?」
『別に、ここで貴様の首を斬り落としてもよかったのだがな。一応お前の質問に答えておこう』
カウスター・クーベルの声を聞いているグレア・バーリンの頬が光輝いた。
光が消滅した後には、頬にあった切り傷はなくなっていた。
『単刀直入に言うと、貴様の言う通りユリ・マティスに解除不可能の「状態異常」を付与したのは、「私の世界」のヤツだ。しかし、それは私が命令したわけではない。いつものように「実験台」を探していただけだろう。まあ、ユリ・マティスには運が悪かったと同情するしかない』
後もう1つ、と今までで1番低い声でカウスター・クーベルが言った。
『あまり調子に乗るなよ、若造。貴様の300年など私の生きた時間に遠く及ばない。経験の差というのを忘れるな』
そう言ってカウスター・クーベルは通信魔法を解除した。
***
ノンの故郷ベルファントに、ユリにポーションを飲ませる以外の目的はない。
観光をしてもいいのだがいくら人口が多かったり、食堂などの施設があったとしても珍しい物がないこの村では、観光するものはない。
ユリの『状態異常』が解除された後、その数分前にも泣いていたノン一家は全員で号泣していた。これまた隆二は居ずらい雰囲気だったのだが、なんとか乗り切りようやく泣き止んだユリに何度もお礼された。
お礼と言われても、特に欲しい物もして欲しいことも何もないのでまた今度、と言っておいた。
状況が感動的な場面だったので、薄情者という人がいるかもしれないが、本当に何もないから仕方がない。
「本当にありがとう。いつか、また遊びに来てね?」
「ああ。ここは何か落ち着くからな」
当初の目的を果たして暇になった隆二はテレポートで帰ることにした。
「おにーちゃんまたねー」
「またきてねー」
さっきまで暇つぶしに遊んでいた幼稚園児ほどの歳の子達にお見送りされた。
コミュニケーションが苦手な隆二は当然ちっちゃい子の相手は苦手なのだが、彼の剣を持ってはしゃいでいる子供たちと意外にも馴染めた彼は、そのまま数分子供たちに連れまわされたのだ。
戦闘よりも何故か精神的に疲れた。
「おう、ちっこいの。お母さんの言う事はちゃんと聞くんだぞ」
「リュウジって意外に面倒見がいいのねえ」
子供たちの頭を撫でている時に、ユリに少しいじられた。
何か自分のキャラと合わなくて嫌なので、何とかして言い訳をしようとした時。
「リュウジさん!」
隆二が右を見るとノンが立っていた。
「私考えました。決めました」
「え?な、何を?」
何を考えて何を決めたのかを分からない隆二に、何か挑むような目つきを向けてくるノン。
俺なんか質問みたいなのしたのかな、なんて考えていたら、
「私、リュウジさんについていきます!足手まといになったら、いつでも切り捨てても構いません!」
「へ?え?何?何のこと?」
突然の事に理解が追いつかない。
隆二は頭の中で整理しながら、言葉にする。
「つまりお前は、目的を果たしたのにも関わらず、俺に付いてくるってことか?」
「はい!」
「やめとけ、お前。俺と一緒にいても碌なことはない」
隆二だってここまでくれば分かってくる。
今まで2人の敵と戦ったが、あれは多分『隆二の敵』だったのだ。
オスカ・ヘンリーも『限界突破』を狙ってはいたが最終的な、根本的な目的は隆二の撃退だったことを、会話の中で理解した。
世界樹はエミリーの杖、ケミニーホープの奪取が目的だったが、その杖を作ったのは隆二だった。間接的ではあるが、あれも『隆二の敵』だ。
自分は敵を呼んでいる、というのが隆二にはわかっていた。
自分の力をまともに把握せず、扱いきれていない現在の状況では、ノンを守りきれるかも怪しい。
だから、隆二はノンが自分に付いてくることを拒否した。
だが。
「そんなことない!確かに得体の知れない敵とかち合うこともあるかもしれません!でも、リュウジさんと過ごした数日は楽しかった!」
「………」
「それに、私はもっと強くなりたい。リュウジさんと一緒に行動すれば、強くなれる気がするんです」
「……別に、お前と行動を共にすることが嫌なわけじゃないんだ。むしろ楽しい。だけどな、俺はお前が思っているほど強くはねえぞ」
また、挑むような目つきでノンは言った。
「大丈夫です。リュウジさんと一緒に戦えるほど強くなります」
簡潔に言えば、隆二は根負けした。
ずっと、それも数秒か数分かわからないほど見つめ合っていたが、ノンの決意は固かった。
やがて、隆二はふー、と息を吐くと、
「わかった。付いてきてくれ」
パァァとノンの顔が明るくなった。
「付いていきます!どこにでも!」
「場所は考えような。でも、お前は多分俺に追いつけないぞ。俺はお前を守るために、もっと強くなって見せるから」
「負けずに頑張ります!」
ノンの決意を受け取った隆二は手を前へ出す。
「じゃあまあ、これからよろしく頼む」
「はい!」
2人は固く握手をした。




